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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

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●第七章 告白

 空京にある病院で、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は一人待っていた。
 ルシェールの両親を、である。
 幸いにして、自分が流した偽の情報は上手く伝わったらしい。
 先日の電話でソルヴェーグが約束を取り付けた際、こちらの送った情報が届いていたことを確認したのだ。
 如月はコミュニティーの力に感謝した。
 主賓のパートナーであるソルヴェーグはもう会場に着いたところだろう。
 自分はここでひたすら待ち、両親という大きなプレゼントを届けるだけだ。
 (株)特殊配送行ゆるネコパラミタの力を持ってすればこれぐらいのことはできる。如月はそう思っていた。

 しばらくして、病院の待合室に二人の人物が現れた。
 病院に来たにしては不似合いなほど、独特のオーラを持つ人物たちだった。
 病魔も寄せ付けないであろう、強い意志が瞳に見える。
 如月はそれがルシェールの両親であるという確信を感じつつ、二人の雰囲気がルシェールに無いものであったので、少々、面食らった。
 女性の方は白磁の肌に、流れるよな金髪と美貌。男性の方は、黒髪だった。切れ長の瞳は涼しげだが、どこか暖かいものを感じる。
 如月は立ち上がった。
 途端、心臓が跳ね上がるように強い鼓動を打ちはじめる。
(落ち着け……)
 如月は自分の心を制しようとした。
「あ、あの…リノイエ氏ですか? 俺、如月ですけど」
 如月はそれだけ言った。
 男性は一つ、頷く。
「いかにも、私はリノイエだ。ルイ・タカヤ・リノイエ。彼女はフランソワーズ」
 ルイと名乗った黒髪の男性――ルシェールの父親は、伴侶を紹介した。
 厳しい視線を向けたまま、フランソワーズが一礼する。
「フランソワーズ・リノイエよ。息子は、ルシェールはどこなの?」
 彼女は言った。
 淀みない、美しい日本語だ。
 如月に緊張が走る。
 これからが本番だ。
 上手く伝えるにはどうしたらいい。
 とりあえず、攻撃を受けて瀕死だという虚言を言うべきかもしれない。その後に謝って事情を話そう。
 如月は口を開いた。
「あの……」
「パーティー会場にしては、いささか殺風景だね」
「え?」
 如月は目を瞬いた。
(今、何て言った……?)
 如月が逡巡する。
 すると、リノイエ氏は穏やかな笑みを浮かべて続けた。
「誕生パーティーをするにはケーキもない。これでは祝ってもらっても嬉しくないだろう……そう思わないかね、如月君?」
「あっ、あの」
「まさか、こんなところに呼び出すとは。あの子も相当怒っているのかな?」
「すッ……すみません!! 」
「いやいや。とんだサプライズだよ」
 リノイエ氏は悪戯っぽく笑った。
「【闇龍の攻撃を受けて瀕死】だったかな? ……君も無茶をする」
「すみませんでしたッ! 俺、どうしても……」
「胸中を察するよ、君。あれはずっと黙っていたのだろう?」
「はい……元気にしてるんで、誰も気が付かなくって。嘘の情報だと知ってたんですか?」
「勿論だとも。それぐらい見抜けなくて、皆の口を潤すことなど出来ない。さて、騙しきるところまで大人になったと見るべきか、まだ子供と見るべきか。厄介な息子だよ。要らぬ心配をさせたね」
「いいえ……」
「ところで。私たちをここまで引っ張り出すことに成功した君に、なにかご褒美をあげようと思うんだが」
 リノイエ氏は人指し指を立て、茶目っ気たっぷりに笑って言う。
 じっと如月を見た。
「何も無いのかね…?」
「い、いいえ……ありますッ! お願いです、俺とご同行ください。パーティー会場まで!!!」
 如月は叫ぶように言った。
 快哉を挙げたい気持ちを堪え込み、リノイエ氏を見つめ返した。