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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

リアクション

「なあ、風呂ぐらい平気だろう?」
 紅月は言った。
「わ、私はお風呂なんて、他の人と入ったことないの知ってるじゃないですか」
「それは封印される前の話だろ? 東京じゃ、銭湯に行っただろうが」
「あれは恥ずかしかったですよ……はぁ、習慣の違いを考えて欲しいです」
 露天風呂に入ったことがないと言っているレオンを、紅月は面白がって連れてきていた。
 引き戸を開けて二人は中に入る。
 辺りをも回せば、遮蔽物もなく、のぞきには不最適な脱衣所。
 ドッキドキな展開は無理だなあと思う紅月は、健全な18歳だった。
「帰りたいです……」
 レオンは呟いた
「銭湯で少しは慣れてるだろうがぁ! さっさと脱げーーーー!」
 紅月はレオンから浴衣を引っぺがそうとした。
「や、やめてください紅月!」
「風呂場で服は脱げ!」
「だめです、やめてください〜〜〜」
「気色悪いんだよ! うおりゃあああ!」
「わああああ!」
 レオンの腕を掴むと、紅月は風呂場に叩き込む。

 どっぽーーーーーん! 


 大きな水音が跳ねた。
「ぐだぐだ言わずに早よ入れ」
 そういうと、紅月も浴衣を脱いでロッカーに放り込む。
 中に入り、レオンを助け上げると適当なところへ移動した。
「はぁ〜、良い湯だなあ」
「げほげほっ……紅月は私に意地悪です」
「監督不行き届きなんてイヤなんだよ」
「私の方が年上なのに〜」
「封印されてちゃ、年上もへったくれもないぜ」
「それはそうですが」
 そんなことを話しながら二人は風呂に浸かった。
 すぐ近くに美羽たちがいるのも、脱衣所で国頭が覗いていたのも気が付いていなかった。
 ゆったりと湯を楽しめば脱衣所のほうで声が聞こえた。
 誰か入ってきたようだ。
 紅月とレオンはそちらを見た。
 湯煙の向こうに見えたのは、サラディハールと観世院校長だった。

「紅月、誰かきまし……痛っ!」
「黙れよ、レオン! ……げぇッ!」
「なんですか、紅月」
「センセーが来た」
「いいじゃないですか……挨拶でも〜」
「ば、馬鹿っ!」
「なんでですか?」
「面倒ごとはゴメンだよ」
 そう言うなり、紅月は逃げ出す。
 とはいえ、校長が入り口にいるのでは、逃げ道は無い。
 しかたなく、姿が見つからないような場所に移動することにした。

 だがしかし!
 二人はこともあろうに美羽とコハクの方へと移動を開始したのであった。

「ここまでくりゃ、バレな…」
 紅月は言った。
「え?」
 影に隠れていた人陰を発見し、紅月は目を瞬いた。
 見えたのは、見覚えのある青い髪。
「み、美羽ちゃ……?」
「見ないでっ!」
「のぞき?」
「しないもん! それ以上言ったら殺すわよッ!」
「え? ここって混浴? …って、コハクじゃん」
「こ、こんばんわ」
「お邪魔?」
「むしろ、消えて頂戴! 芋見せたら殺すわよ」
「俺らも逃げてきたんだけど」
「誰からよっ」
「校長先生とサラディハール先生」
「うそおおおおおおおおお!」
「わっ、静かに!」
 四人は入り口の方を覗いた。
 そこには怪しい雰囲気ばっちりな教員二人組がいた。
 四人は耳をそばだてた。

「なんで一緒に入るなんて習慣があるのでしょう…」
 サラディハールは呟いた。
 決して観世院校長は悪い人間ではないし、不思議な人徳もあるのだが、サラディハールは彼が苦手だった。
 嫌いじゃなくて、苦手、だった。
 一緒にいると居心地が悪い。なぜかと言われれば困るが、苦手なのだ。落ち着かなくなる。もぞもぞそわそわしてしまう。
 いつものペースで用事も出来ないし、テンポが狂う。
 サラディハールは溜息を吐いた。
「水源が豊富なのはヴァイシャリーだけだからね。タシガンにそういう習慣が無いのはわかるけども…この状況を楽しんだらどうだ?」
「貴方と一緒じゃ楽しめません」
「時間外労働を強制した覚えは無いんだがなぁ」
「貴方が来いと言って拒否できる人間が何人いるんでしょう。それに、どこで見られてるかわからないではないですか。教員ですから、生徒の見られるのはイヤですし。はぁ〜、この時間で良かった」
「さぁ、そうかな?」
 観世院校長は薄く笑った。
「え?」
「気が付かなかったのかね? ロッカーの鍵の数が少なかったことを」
「まさか!」
「水音も聞こえる……誰かいるな。さぁ、どうする?」
「そんなこと言われましても」
「ほほう……」
「な、何するんですか!…や、やめっ……ひッ!」
 サラディハールは小さな悲鳴を上げた。
 体を引き寄せ、迫ってくる相手の瞳に射すくめられてサラディハールは逃げようとした。しかし、がっちりと抱かれては逃げられない。
「人が見てるのでしょう? ダメですっ!」
 サラディハールは、どうもこの校長が苦手だった。
 権力に物を言わせて人を左右するタイプではないのは好ましいが、無言で人を動かせてしまうところがあるのは、気の強いサラディハールにとってひじょうに戸惑うことだった。
 こうしろと言われれば従ってしまう。
 否と言われれば、自分はそれを受け入れてしまう。
 イヤだと言って何度も逃げようと思ってはみるのだが、気が付けば従ってしまっている自分がいた。
 吐息が近い。
 自分は見世物になっている。
 また…この人の退屈しのぎだ。
 サラディハールは目を閉じた

「出るに出れない」
 美羽とコハクも戸惑い、焦っていた。
「あ、すごい展開…さすが薔薇学」
「紅月、行儀が悪いですよ」
「しかたないだろう……外に出て行けないんだからさぁ」
「はぁ……」
 コハクは溜息をついた。
 大切な美羽が隣にいる。空は美しい星ばかり。片や、コハクはしっかりとすっぽんぽん。言葉も無い。
「あ、校長先生が出てくみたいだぜ?」
「え?」
「あ、本当だね」
 自分にも限界がきたところで、校長は出て行くことにしたらしい。
 熱いし、逃げられないし、誰かに見られてるらしいということで、のぼせあがってしまったサラディハールを連れていかなければならないからだろう。
 観世院校長は彼を風呂から抱き上げて去っていこうとしていた。
 そして、去り際。
「邪魔したね」
 と、言った。
(え?)
 コハクを含めた四人の頭の中には疑問符が浮かぶ。
 そして、観世院校長は振り向きもせず去って行った。

 その後。
 開放されたコハクたちが脱衣所で見たものは、倒れ落ちる国頭たちの姿だった。
 観世院校長が外に出た際、国頭たちが美羽のロッカーにたむろしているのを発見し、「美しくない行為はいけない」といって倒したのである。
 この時の武器は、濡れタオル一本。
 剣を奮う能力を持つものであれば、十分に武器になる。
 その威力を、国頭たちは身をもって知ったのであった。

 そして……
 美羽たちが部屋に帰ってから、風呂にやって来た変熊 仮面(へんくま・かめん)によって、国頭たちは【華道!タシガン流一輪挿し!】を食らった。
「散って花びら拾うもの無し…南無三!」
 変熊はそう言って格好良く決めポーズまでしている。
「おっ、薔薇風呂? 豪華だね? 後から誰か入って来たけど、俺知らな〜い♪」
 そんなことを呟いて、変熊は去って行った。