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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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3-04 市街戦(2)

 黒羊郷の市街地には、教導団旗が立ち並んでいた。
 実際の兵力に比して多量の幟や旗を立てかけてあるのは、神矢 美悠(かみや・みゆう)の策である。ケーニッヒの麾下に新たに加わった明るくさっぱりとした女性であるが、教導団が進めていた研究によって生み出された強化人間である、との噂もある。
 ともあれこれにより戦意を失い、投降した敵兵も多かった。
 彼女は今、無言で炎と喚声の渦巻く市街にたたずんでいる。精神感応で仲間との連絡を試みているのだ。
 ご当地十二星華たち。
 天津 麻衣(あまつ・まい)は、市民たちに説明を行った。すでに市内は全て制圧下にあり、教祖の捕縛も時間の問題だ、と。市民に無益な流血を強いるのは我々としても本意ではないので、抵抗を試みる事無く、各自の家に閉じこもっていて欲しい、との要請を行った。しかし市街は炎に巻かれたため、抵抗をやめた市民たちを戦に巻かれないところまで移動させることとなった。
 アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)はシャンバラ旗を掲げ先頭に立ち、市民たちを連れて行った。
「民よ。黒羊教ではなく、復活したシャンバラ女王のもとにこそ集まるべし!」
 彼女はご当地十二星華らしくそう戦いの中叫んだ。武装した市民らのなかにはこれに反感を持つ者も少なくなかった。しかしもう、抵抗は無意味であった。
「……」
 レイラはそのフリップにも今は無言で、グロリアと一緒に、敗れて歩くこの地の民たちのあとをついていった。
「これで戦いも終わりですか。この民たちはどうなるのでしょうね。
 アンジェリカはああ言ってますけど、女王に帰依するんでしょうか……」
「……」
 レイラも今回は、ご当地十二星華の名を冠する以上ここぞと戦うアンジェリカや、主たるグロリアを支えるべく、グロリアらの前に立って一生懸命に戦ってきた。それはレイラにとって自ら行動するための第一歩であった。女子どもや老人たちにも槍や短剣を持って向かってくる者がいた。今はその複雑な思いをフリップに表すことはできなかった。
 
 教導団の攻撃は、すでに本城である黒羊要塞にも及んでいた。
 菅野葉月(すがの・はづき)も人々をシャンバラ女王のもとに、と胸に思い戦う。黒羊教は、残念ながらあまりに排他的で異質。女王にも敵対しかねない存在だ、と心を鬼にする。
 その近くでは……素手で戦う女の子? 菅野も感心する。
「パンチパンチパンチ!
 野郎ども、ボクサーの意地を見せてやろう!」
 ハヴジァ、撲殺教団などを含む西の山麓方面軍を倒したカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)。その後、撲殺寺院に代わる撲針愚寺夢(ボクシングジム)を設立したのであった。パートナー、イレブンは生きている……そのことを信じ、彼がいよいよ黒羊郷打倒に立ったことを聞くとすぐ手勢を率いて加勢に訪れた。
 カッティは、本城攻めを任された。
「これは撲殺寺院Aの分!」
 ぎゃあー!! わき出てくる敵兵に、懐に飛び込んでフック!
「これは撲殺寺院Bの分!」
 次の敵にはアッパー、そして……「あたしのパンチには撲殺寺院のみんなの魂がこもっているんだ!」炎のストレート!!
 要塞、炎上。
「あ、あれ? 火がついちゃったよ??」
 グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)は兵に指示を与え、要塞を取り囲む。
「さあ、始めるのですわ!
 うん。日曜大工セットと血煙爪(ちぇーんそー)を持ってきてよかった……
 いちばん非力な私がいちばん大きなものを壊すというのは痛快ですわ」
 彼女は……要塞の破壊を担当。柱に切れ目を入れていく。「宝物庫から、宝を運び出すのはお忘れなきよう!」
 デイセラ 留(でいせら・とめ)はグロリアーナと協同し、山から下りてきた動物たちに指示を出す。
 「いと小さきものよ、腰を曲げて頼む。黒羊郷でもっとも大きなものを壊すには、小さき力が必要なのだ」深々と頭を下げ、小動物や昆虫たちにまでそうお願いしてきた。その心意気に簡単する小動物たち、昆虫たち。
 彼ら小さき生きものたちは、石垣の石を抜き、柱をかじっていく。
 ぐら、ぐら、ぐら……
「さあー、この巨大な要塞がいよいよ壊れるぞ!!」
 菅野が問う。
「あ、あの。……イレブンさん要塞のなかに攻め込みましたよね?
 まだ、教祖との戦いって描かれてなかったのでは……」
 カッティ、グロリアーナ14世、デイセラお留、一斉に振り向く。
「……そういえばイレブン、どうやって逃げるつもりなんだろ」
「……ところでイレブンはどうやって逃げるおつもりなんでしょう?」 
「……はて、あの男、自分はどうやって逃げるつもりなのか?」
 ど、どど、ど……要塞が、崩れていく。
 
 その頃、イレブンは……
 


 
ラス・アル・ハマル。城下の砦はハインリヒたちが占拠した! 逃げ場はない。ジャレイラ倒れた今、おまえに戦う理由はあるか」
 最上階で、教祖と向かい合うイレブン
 以前はここで、教祖の魔術に敗れた。しかし、今度は。
「ジユー(序回参照)、ジヨー(生き別れの妹)!」
「ウヤャャャャ」
 スライムのジユーとジヨーが教祖ラス・アル・ハマルに噛み付いた。
「ぎゃぁぁぁ!!」
 教祖を倒した。
 空間が歪む。
「やはり、幻体か。どこだ……」
 ハハハハハ……教祖の不気味な笑い声が響く。黒い炎が、ぼ、ぼ、と周囲に浮き上がり、迫ってくる。「ウヤャャャ」ジユーは溶けてしまった。
 だが、そのとき、下階から炎が巻き上がってきた。空間が燃える。「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁ!?」
 イレブンは剣を構えた。静かに笑い、言う。
「おまえの炎も大地と一つになるがいい」
 イレブンは、空間を切り裂いた。
 城よ、割れよ! そして崩れ落ちよ!
 炎がすべてを包み、城が音を立てて崩れていく。イレブンは……「くっ。これで終わったか? 最後は、仲間が助けにくると信じる!」
「ウヤャャャ」
 ジユーは最後の力で、イレブンを体内に取り込んで、守った。
 要塞は、崩壊した。
 イレブン……イレブン……
「い、生きている。助かったのか。ジユー。……
 はっ。教祖は……?」
 イレブン。教祖の本体は、地下にいるらしい。
「何!! 向かうぞ。
 行こう、ジヨー!」
「ウヤャャャ」
 
 カッティ、グロリアーナ十四世、デイセラお留、一斉に振り向く。「イレブン。……行ってしまったか」
 菅野はミーナと、イレブンを追っていった。「イレブンさん!」