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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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3-06 地下神殿の決着
 
 久多は、ひたすら地下を下り、迷路を抜けた。一本道の通路の先に、怪しく豪奢な装飾の施され、しかしひっそり佇む扉の前に辿り着いた。
「ここ、か……」
 ためらうときではない。久多は扉に手をかけ押すと、静かに開いた。足を踏み入れる。
 煙が部屋を覆っているが、開け放たれた扉からそれが外へ出て薄らいでいくと、徐々に祭壇の形がはっきり見え出してきた。
 次に、風次郎伐折羅も入ってくる。
「凄い煙でござるな」
「この部屋が最奥の部屋か?」
「そのようでござる。おお、久多殿か……」
 久多。そしてその先の祭壇には……煙のなかから、黒い羊の頭がゆらり、と現れる。
「ラス・アル・ハマル……いや」
黒羊 アンテロウム(くろひつじの・あんてろうむ)副官?」
 久多は呟くが……
 
 キリンセイカ……オマエガ贄トナルトキ、我ガ復活ノ儀式ハ成就サレル……
 
 キリン、セイカ。
「ムウ!」黒羊が手を伸ばそうとしたところを、銃弾が妨げる。「邪魔ヲスルノカ?」
 その手の先にあるのは……祭壇に仰向けになった騎凛 セイカ(きりん・せいか)である。
「アンテロウム、いや、黒羊教の教祖か……!」
 久多は銃を向けたまま、言う。
「教祖ラス・アル・ハマル……」風次郎も、す、と刀に手をかけた。辺りに注意を巡らす。他に敵の気配はない。残るは教祖のみ、か。見ると、セイカの向こうに、もう一人横たわっている女がいる。あれは、誰だ? 復活祭で見た女……ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)という黒羊郷の神とされた女? 二人とも、眠っているのか。それとも、すでに死んでいるのか。
 久多、一歩前へ出る。久多には、わかる。信じる。セイカは死んではいない……
「……キリンは返してもらうぜ。俺の大事な女だ」
 久多は一直線に走り出した。
「無謀でござる!」
 スプレーショットで牽制する。教祖は動かない。
 風次郎は刀を抜いた。
 久多は祭壇の前まで来るとバーストダッシュで一気に駆け上がった。シャープシューターで狙いを定め、撃つ! あくまで時間稼ぎ、騎凛を確保できれば……!
「危ないぞ!」
 駆けてきた風次郎が叫ぶ。
 教祖の邪悪な炎が祭壇の四方から久多に迫った。
「うわ!」
 炎にもだえる久多の心臓に、教祖の手が迫る。「ハハハハ……」
 デゼルが部屋に入ってくる。
「ほら、ルケト!」
「オレは……女だぁぁぁぁっっ!!」
 続いて飛び込んできたルケトが装着していた加速装置でミサイルを発射。六連ミサイルが教祖を撃った。久多は、教祖の炎に火傷を負って祭壇から転げ落ちる。「……く、これじゃ近づけない……!」
 {さらにSFL0010147#ルー}、クーが入ってくる。「るー」「クッ。クッ!」
 デゼルはとっさに仲間のピンチを救ったが、祭壇にいるのはアンテロウム副官であり、その前に裸の騎凛教官が寝かされている、という状況である。アンテロウムは黒羊教の衣をまとっており、どう見ても尋常ならぬ様子。
 
 キリンセイカ……オマエガ贄トナルトキ、我ガ復活ノ儀式ハ成就サレル……
 
「……正直、状況に頭がついていけねぇが、教官がピンチっぽい。なら、助けるしかねぇーよなぁ!」
 状況に頭がついていけないというが、どうするしかないか、デゼルは意識裏には充分感じとっていたはずだ。
「行くぜ? ルー、クー。ルケトは、わかっているな」
「アア……」
「頼むぜ」
「拙者らも」「……うむ」
 風次郎、伐折羅も互いに目を見合わせ、とるべき行動を決めた。
 久多は、ゆっくりと立ち上がる。「騎凛…………!」
 風次郎がまず特攻していく。伐折羅も続く。
 ルケトがミサイルで援護する。デゼルが行く。「クッ。キュー……」クーも心を決めた。「るー も!!」
 教祖は笑っている。
「覚悟はできたか?」
 風次郎が問いかける。
「ハハハハ。同ジダァ」
 教祖の炎が風次郎を燃やす。だが風次郎の呼びかけは伐折羅への合図であった。
「伐折羅ッ! 俺を踏み台にしろォッ!」
「すまぬ!」
 伐折羅は燃え盛る風次郎を踏んで教祖に飛びかかった。
 デゼルもまた、灼熱の炎に行く手をさえぎられた。「ちっ。よし、クー! ルー!」
「クーー!」「るっ るー!!」
 デゼルは、二人をぶん投げた。「風次郎、大丈夫か?」「う、うむ……! 伐折羅。……」
 伐折羅は炎を飛び越える。
 ――教導団、黒羊郷、周辺諸国の者を問わず、数多の命がこの戦いで失われたでござる。それを止めるために、例え相手が誰であろうとも、拙者は全身全霊を持って戦うでござる。それに、拙者のために多くの者が戦ってくれた。ならば、拙者はそれに応えねばならぬ!
 盛夏の骨気。伐折羅の両手が燃え上がる。
「拙者のこの手が真赤に燃えるッ! お主を倒せと轟き叫ぶッ!! くらえ、正義のォッ!! 鉄槌をォォッ!!!」
「小賢しいわ!」 
 教祖の拳が伐折羅の心臓めがけて繰り出される。
 (そのとき。……)