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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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3-05 激戦(2)
 
「な、なんと……城塞の方が、落ちたか……」
 マリーは戦いのなかで、濃い闇の中に沈む黒羊要塞を見つめる。その周辺、市街のあちこちで火が燃え、喚声が上がっているのが、小さく聞こえている。
 正面を守って持ち堪えてきた守備兵も、一気に動揺し、ある者は青ざめ、立ち尽くし、ある者はあてもない方角に逃げ散った。もはや、収拾は不可能であった。
「むう。これまでか……」
 マリーは馬首を返そうとした。
「待て、マリー! 今更、何処へ逃げる?!」
 メイドナイトのユウだ。
「仮面のメイドナイト、推参!
 潔く、その首を出してはどうか!」
 メイド服が宵風に揺れ、銀のランスが輝いた。その先はマリーを指している。
「フン。わてが逃げるでありますと?
 ふふり。ふふり。笑止な」マリーは和弓を掲げた。鋭い矢がひゅん、っとメイドナイト・ユウの頬をかすめ飛んでいった。
「く、……!」
「ああっ、ユウ……っ!」
 近くで敵と打ち合っていた三厳が涙目でユウの援護にすかさず駆けつける。「ユウのことは、討たせるもんか!」
「……フ。そうはさせん」道満が三厳の前に下り立ち塞がった。
 しかし、ルミナルゥがマリーを囲んだ。
「し、しまったであります」
 ふふ、とユウは笑う。「覚悟するんだな、黒羊の将マリー」
「待て。マリー、ここは私に任せてもらおう」
「あなたは?!」
 マリーが一歩下がり、仮面の男が出てくる。
 ユウは、一瞬驚くが、すぐに彼が自分にとって避けられぬ戦いの相手であることを悟った。マリーと共にハルモニア占領軍の一翼を担っていた仮面のメイド男(かめんのめいどおとこ)。ユウの師匠であった。
 仮面のメイド男は、ユウに向き合った。まさか、ここまで勢いを保ち、攻め込んでくるとはな。内地での蜂起と機も一致した。この戦は、ユウ、おまえたちの勝利に終わるだろう。だが……メイド男はそう思いつつ、無言でするりと剣を抜き放つ。弟子ユウとの決着はここでつける。
「マリー。ここは私に任せてもらおう。貴殿の役割は、戦後に残されている」
「……」
 マリーは頷くと、騎馬を蹴った。「ハァァァ! 道満! いつまで手間取っているでありますか。仕方のないやつ。行くであります!」
「あ、ちょ、ちょっと……いやぁん」道満はマリーにわしづかみにされ馬に引っ張り上げられる。マリーは彼?をお姫様抱っこし走り去っていった。(チェルバラは、馬の後ろに縛り付けてある。)
 振り返ると、すでにユウとメイド男との一騎打ちが始まっていた。
 周囲では、もう兵たちは降伏するか、捕虜とされているところだ。
 解放軍相手にだけなら、マリーの遅滞戦術も十分効果はあった。しかし内地では潜入した蜂起軍の奇襲に市街はあっという間に占領され、大湖には連合水軍の艦隊がすでに占拠している。どうしようもなかった。
「……はっ。マ、マリィィィ。何を逃げているの?!」チェルバラが気付いた。チェルバラもハルモニアを一時は制圧した黒羊きっての将である。「戦うのよ!? 討ち死になさいっ。討ち死」ちゅう〜。マリーがちゅーで塞ぐ。がくっ。チェルバラは気を失った。
「わてらにはまだ、やるべきことが残されているであります。……。な、何??!」
 行く手にナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)
「にひにひ。マリーよ何処へ行く。
 決着がついてなかったよの。妾が相手してやろー。さあ、来ないのか?」
「ぬううぅぅぅぅぅぬうう!!」
 マリーは最後の力を振り絞り、アイドルコスチュームを脱いだ。突撃していく。「わては、生き残るでありますぞ!! 死ねナリュキオジョカンンン!」
 ぎゃー。マリー、道満、チェルバラが突如、騎馬ごとふっ飛んだ。
「にひにひ。悪いが、一対一と見せかけて」
「にゃー!」「ぶちぬこにゃ!」「悪は許さないにゃ!」
 ぶちぬこ隊だ。
「さて、あとは袋叩きじゃ。しかし、適度にな。
 ふーむ。でもこれが最後か、少しつまらんの。妾も少しくらい容赦無くドリルで風穴開けてやるかのぅ。よし! マリー覚悟。
 妾のドリルがづばーんと唸るのじゃっ」
 


 
 上陸後、市内を制圧にかかったセオボルトら教導団水軍とは行動を別にした刀真。目的は……
「邪魔するなよ……殺すぞ」
「じゃ、邪魔しない!」
 敵兵にはほとんど戦意は残っていない。
「ハマルの居場所」
「は、は?」
「何処だ。教祖ラス・アル・ハマルの居場所は」
「ひィっ。し、知らぬ。我らも詳しくはわからんのだ……教祖様は地下にいらっしゃるとは聞くが……」
 玉藻も追いついてきた。
「おや、以前ここで我に刃を向けた阿呆は火達磨になって愉快な踊りを見せてくれたが……貴様らもそうか?」
「ひゃぁー」
 燃えがる火の尾に、敵は戦う術もなく逃げ出した。
「教祖の場所は地下。……しかし、一体何処から?」
 要塞はすでに崩壊し炎上していた。
 教祖は、要塞にはいなかったという。
 ここは、大湖の周囲であるが……刀真は辺りを見渡す。
 そこへ……
「お姉ちゃん。もう戦い終わっちゃうのー?」
「うーん。何とか、私の野望を叶えたいね。あっ、あの湖から突き出る建物? 怪しい雰囲気だね」
 朝野姉妹がやってきた。
「湖から突き出る建物……」
 近くで聞いていた刀真らも、湖を見てみる。湖賊の船が行き来している湖の真ん中辺りに、確かに何か突起物が突き出ているのが見える。「怪しい雰囲気? そうか……? ここからではただの突起物にしか見えないのだが」
 それを見つけてはしゃいでいる朝野姉妹ら。
「入り口なのー入り口なのー」
「行ってみよう。未羅ちゃんは……未那ちゃんと、待ってて」
「えー、なのー」
「はぁ、はぁ……」未那は、火を見たせいか、苦しそうである。
「未沙には、あたしが付いていくよ。心配しないで!」
 孫 尚香(そん・しょうこう)は、「チャイナドレスだから、何とか泳げるかな。あそこくらいまでなら……」
 未沙は……「じゃあ……あたしはちょっと脱いで」
「皆、見ちゃだめなのー!」
 その様子を見ていた刀真ら。
「刀真」
「あ、ああ。……」
 玉藻は刀真をあっち向かせて、朝野姉妹に近付いた。
「あれ。誰か来るのー」
「はっ。火……」未那は気を失った。
「あそこに向かうなら、湖賊に船を借りればいい」