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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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1-03 宴会作戦

 一方ここは、黒羊郷付近の山々からは幾分隔たった西の山中である。
 黒羊郷の一大食糧貯蔵庫は、ここにあった。
 ここへ辿り着いたのは、本営に残っていた林田 樹(はやしだ・いつき)らの【騎狼部隊】と、これまでは自警団を担い戦いにも参戦してきたエル・ウィンド(える・うぃんど)らの【黄金の鷲】であった。が、聳え立つ敵拠点に対し、些かこちらの数は心もとなかった。こんな山中に、一大拠点があったとは……。
「ボクたちに、策がある」
 エルが、呟く。しかし、自信あり気に。
「本当か。キンピカ」
 林田の外見で呼ぶに従うとエルは"キンピカ"になる。確かにまさしくそうだが。キンピカ、もといエル、「……うん。任せてくれ。では、ギル!」
 ここはひとまず、その策によって、エルは黄金の装備を脱いでキンピカから真っ黒になることに。
 彼らは前回、黒羊軍捕虜から入手した黒羊軍の装備を持参してきていたのだ。
「……これでいい、な。……黒羊の将ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)! か」
「わぁ、樹様も、似合ってますよ!(?)」
「ふむ。そうか。……。
 黒羊の将、林田樹ぃ! ……さて」
「はい。樹様」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は単身、騎狼を駆って本営に向かう。増援を頼みに行くのがジーナの役目だ。
「戻ってくるまで約三日間……待っていて下さいね、樹様」
 三日間。
 さて、エル、林田らはその間、何を……作戦は決行される。
「門を開けよ!
 我々は黒羊軍の極秘部隊である。ここに指揮官への面会を願う」
「は、はぁっ。しばし、お待ちを……」
 さすがギルガメシュ。将然とした堂々の振る舞いだ。早速、食糧基地を守る賊の守将が出てくる。
「な、なんですと。指揮権の委譲……はぁ」
 一体ここに及んで何なのか、守将はじめ兵らにはさすがに訝しがる様子も見られた。
「あ、あの。戦況の方は……」
「戦はもう終わるのだ」
「は、はぁ。そうですか。なるほどそれで……」
「うむ。では、新指揮官就任祝いに……宴会だ!」
「ひゃ、ひゃっはー!」
 この新任、わかってらっしゃる、盗賊らは喜んだ。
 エルとギルは顔を見合わせた。「よし。あとは宴会をぶっ通しで行うぞ。……増援の到着までな!」



「皆、上手く、潜入できたようだね。コタ君」
「こた、あーてひさーになったれす!!」
 緒方 章(おがた・あきら)林田 コタロー(はやしだ・こたろう)
「コ、コタ君? あまり大きな声は駄目だよ……」
「らってきめせりふれすよ!!」
「コ、コタ君っ」
 門番が、ん? と見回したが、辺りにはひそやかな暗がりがあるばかり。
「……」「……」
 気のせいか……。門番は槍を抱え直し、あくびした。
「……ふぅ」「……あーてひさーになったれす」
「……うん。コタ君、おめでとう。
 さてとコタ君、本営から持ってきた情報とか、パソコンに入っていないかい?」
 二人は、敵陣の状況把握と万一のときの撤退路の把握、砦の構造解明を開始した。
「こた、もびゃーるぱしょこんもってきたお」
 どれどれ……そこには、確かにパソコンが("情報作戦諸課特製・超頑丈モバイルPC"と書いてある。「ソーラーパネルもついてるお!」)。
「くりぇーめっくしゃん(注:クレーメック)から、いろんなおはなしき−て、こた、このなかにいれてきたんらお。
 ここのとりれのはなしも、きーてきたお。んれ、てきしゃんの、ぼすしゃんは、このあたりらお」
「えっ。そこまで情報が……ボスは、さっき出てきてた守将だよね。
 あまり強そうなやつには見えなかったけど……一応、チェックだね。それからと……やることは多いぞ」



 ぶっ通しの宴会が催されている頃(内容は秘密……あとのお楽しみ?)、ジーナは一日半かけて本営に到着する。
 本営では……
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)がジーナを待っていた。
「あなたを拘束させて頂きます」
「え?? ええ??!」
「い、いや違うのだ。すまぬ。最終回なので……。(く、南臣め。この自分を本営返還にするとは。まあ、しかしこれでちょうどあたるべき任務ができましたな。)」
「あ、あの……マーゼン様?」
「うむ。自分が増援を編成し共に参ろう。
 それ程の大規模な盗賊団が残っていたとは、まだまだ治安は完璧とは言えないな。
 君は林田の機晶姫ジーナ殿か。宜しく。このマーゼンに任せて」
「はい! 頼もしいです。一刻を争います、参りましょう!」
「うむ」
 ジーナは、マーゼンがクレーメック、クレア両代表の指示のもとに増援部隊を召集する間、三日月湖にいる獣人らを訪れた。
「あの砦をぶち壊すことができましたら、皆さんたらふく上手いものが喰えるんですよ!」
「オウ!」「タラフク、喰エルャ!」「樹チャンノトコ行クゾ!」

 マーゼンとジーナが陣頭に立つ。
 マーゼンは騎馬にまたがり、騎兵として編成された増援部隊を、ジーナは騎狼に数人ずつで乗った獣人兵らを率いる。
「さあ!! 先行した友軍を救援するぞ!」
 マーゼンが兵を鼓舞する。
「樹様……待っていてくださいね……!」
 ジーナは手綱を固く握りしめた。
 
 

 
 
 ジーナが戻る先の三日月湖本営では……
 久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)と{SFL0018137#ほわん ぽわん}が丹精込めて、シャケおにぎりをにぎっていた。
「寂しいのう」
 久我は、騎狼が持ち帰る情報を整理して各方面へ送り返すので待機。
「孔、しっかりがんばるのでパンダよ……ほわんも最後までおにぎりにぎるのでパンダ!」
 ほわんは前線で戦う孔中尉らにがんばってほしいと願いをこめる。
「あんまり食料ないんで街の子どもたちにだって行き渡らないくらいなんですから」
 捕虜たちの監視と世話を行っているパティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)も、おにぎりに加わった。とうぜん捕虜の食事は米粒ひとつくらいしかない。
「戦争するにしても、子どもとかお年寄りとかが困らないようなやり方ってないですかねぇ。そういうのなら、いつでもかかってこいなんですけど」
 子どもたちの平和もかかっている。
 もう、食糧も残り少ない。
 シャケと、ごはんしか、ないのだ!! 
 


   
 最終回での行方不明者:
 ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)イル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)(彼らについては、四人揃って戦後、道に迷っていたところを三日月湖付近で救助された、という話等も残されている。木の実を食べ、夜露を集め渇きをしのぎ、やがて時間の感覚もわからない夢のような現のような狭間のような世界を彷徨っていたと。砂漠で彼ららしき者を見た、という者もいた。砂漠の幽鬼は彼らであったという説もある。)