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第4章 あさぱに! 薔薇学の巻(佐々木 弥十郎 編)

 今日は日曜日。
 彼女とデートの約束がある佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、ご機嫌な様子だった。鏡を見るまでは。
「わ、ワタシが…女?」
 銀色の髪は長くなり、肩先で揺れていた。
 顔の方は儚げな雰囲気があったせいもあって、なかなかの美女だった。くるりとターンしてみる。髪がふわりと舞う。男性時には中肉中背たっだのもあって、女になってもそこそこスタイルは良かった。胸は爆乳とはいかないが、女でも恥ずかしくないぐらいには大きい。
 しかし、目の前にいるのは、白い毛に覆われた犬耳美女なのだった。

(女になって、マタハリやシンシアのように、体を使った諜報活動もできそうだけど…)

 …と一瞬思った。

 しかし、犬耳が生えているのもあって、彼女に電話することにした。
 別にパラミタには獣人がいるから気にするほどのことは無いのだろう。ジャタの森は前人未到の地でもなんでもない。地祇すら空京に出てくるというのに、今更驚くには値しなかった。
 だが、本当に耳が生え、音まで聞こえるのは不思議な感じだ。まあ、感覚的なものは普通だし、獣人になったわけではなさそうだ。
「あ、もしもし…樹さん?」
『おはようございます…でござる』
「ごめん、今日のデートだけど、ちょっと用事が…え? 今、なんて…」
 佐々木は一瞬、樹が時代劇にハマっておかしな口調になったのかと思った。
『あの…なんか朝から喋ると語尾に【ござる】が付くんですけれど…で、ござ、る』
 段々小さくなっていく声に、佐々木は首を傾げた。
 そして、佐々木は全てを察した。
 今日は会えないと言おうと思ったのだがそう言う必要は無さそうだ。
 佐々木は水神 樹(みなかみ・いつき)に言った。
「もしかして、性別…変わってませんかねぇ〜」
『ど、どうしてわかったでござるか!』
「ワタシもなんですよ〜…いやぁ、これは…不思議ですねぇ」
『そ、そう…びっくりしましたでござる。今日はどうします? …でござる』
 いつもの丁寧口調にござるが混じって、可愛いことになっているとなぁと佐々木はのんびり考えた。
 約束どおりデートした方が、いつもと違う、可愛い樹の姿を見ることが出来そうだ。
「じゃあ、今日は逆転デートをしましょうか。空京なら買い物もできるし、服を見立ててもらえるかなぁ?」
 佐々木は自分の意思が変わらないことを伝える。
『え、でも…私、今は男の子でござる』
「関係無いですよ。樹さんは、樹さんです。どうせ、これは誰かの悪戯でしょうしねえ」
『そ、そうでござるね…そうかもしれせん…じゃぁ約束の場所で待っているでござる』
 気の抜けた声で答えた樹も、会えるとわかれば少し元気になれた。
 また後でといった声は楽しそうだった。

「はぁ…さて、これは事件ですねぇ…」
 そんなことを呟いていると、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が部屋に飛び込んできた。
「ちょっと聞いてよぅ!」
「おはよう、先生」
「うわッ…あなたも?」
「あなたもって言うことは、先生もですねぇ〜」
「いや、だから…ですねぇって言ってる場合じゃ…ああ、もうっ」
 真名美はイライラとして地団駄を踏んだ。
 股間にあるソーセージ感がたまらなく、嫌だ。
「もー、イヤ! 絶対にイヤだよぅ! この感じ、すっごくムカつくよう! あなた、よく我慢できるね」
 ピョンピョン跳ねながら真名美は怒った。
「それは…生まれてからの付き合いですからね。先生もでしょう、これ」
 そう言って、佐々木は自分の胸を指差す。
「そうだけど、それでもヤダぁ!」
「犯人って、本当に何と言うか…真名美を怒らせるなんてね。後は好きにしていいから、頼むよ」
「えぇ!? それって、どーゆーこと!」
「これからワタシは樹さんとデートです」
「うっそぉ! 探さないの? やっつけないの? お仕置きしないの?? あなた、寛大過ぎだよう〜」
「お仕置きしないなんて言ってませんよ〜? 実行するのは、先生ですねえ」
「ちょっと、私に押し付ける気なんだ…ヒドイ」
「来るって信じてる樹さんを置き去りにしろと先生は言いたいのでしょうかねぇ」
「そんなこと言えるわけないし! ああ、もう…わかったよう。行っていいよ…私でなんとかしますぅ」
 真名美は頬を膨らませつつ言った。
 仕方なく、事件解決をすべく、街へと向かった。
 佐々木も、学舎の人間に見つからないようにするため、帽子を被り、腰にジャケットを巻きつけて支度をした後、部屋の外に出た。