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リアクション
第3章 見える敵、見えざる敵 2
刀真に跳ねられた蛮族の首が足下へ転がっていた頃――光条兵器である白銀に光る大剣を振る青年と馬乗りの猛将が、蛮族の拠点の一つへと奇襲を仕掛けていた。
「忍よ一人も逃がすなよ! 一人でも逃がすと、またこの山に蛮族共がやってくるからな!」
「ああ、分かっているさ。この山は誰の物でもない。自由に生きるすべての命の住む山だということを、蛮族たちに解らせてやる」
「うむ、その意気じゃ。私はまだ契約したばかりで昔ほどの力はまだ戻っとらんが……忍よ。お前に私の力を、今日この戦いで見せてやる」
猛将織田 信長(おだ・のぶなが)に決意を込めた声を返した桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、襲い掛かる蛮族たちをなぎ払って突き進んだ。目指すは、村人の捕らえられた小屋である。
がたんを扉を割った忍、捕らえられた娘たちへと声を張り上げた。
「さぁ、早く逃げて! ここは俺たちに任せるんだ!」
「てめ、ふざけるなっ……!」
娘たちの縄を切った忍へと、その隙を突いて背後から襲い掛かる蛮族
「甘い……!」
――だが、次の瞬間には脇より逆手に突き出た剣先が敵を貫いていた。その間に、娘たちは小屋から逃げ出して行く。それを見届けた忍は、突貫してくる敵へと抗戦を開始した。
「野郎ども、このナメた連中をぶっつぶしちまえ!」
「そうは、いかないんだよっ!」
一人、二人、三人――大剣はその大きさに感じられぬ速さで舞い、敵を斬り裂く。確実に倒されていく仲間たちを見て、青ざめた者は逃げ出していった。
そんな忍たちを上空から見ていたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、少しだけ興味ありげに呟いた。
「あら、アレもなかなかやるわね……」
双方を飛ぶ使い魔のカラス「フギン」と「ムニン」を従えて、彼女は楽しそうに拠点を見下ろした。そして――
「ファイアーボール!」
火術で生み出した火炎の玉を、容赦なく……拠点にぶち落とした。
まるで隕石でも落ちるような衝撃に加え、炎と爆風が辺りを包み込む。蛮族たちは慌てふためき、巻き込まれた者は悲痛な悲鳴を上げて吹き飛ばされた。
「うん、やっぱり盗賊退治って言ったらコレよね♪」
まるでどこぞの悪人に人権はない宣言である。
さて、そんな爆風が拠点を揺らしたとき、彼女と契約を交わしている月詠 司(つくよみ・つかさ)は気配を隠していたブラックコートを剥いで、飛び出した。
「まったく……無茶しますよね……」
シオンの暴虐さに呆れつつも、彼は彼女の暇つぶしに付き合うためにミラージュを展開した。司の幻影が何体も現れ、まるで分身の術のように敵を混乱させる。
「な、なんだこりゃあっ!」
「分身の術……なんちゃって」
幻影の動きに合わせてサイコキネシスを使い、司は本当の分身のように敵をなぎ倒していった。
そんな彼の視界には、赤黒いオーラを纏った武将の姿が映りこむ。うねり上がる炎のようなオーラに包まれた武将は、顔に刻印を浮かべて敵へと突貫した。
「すごいですねぇ……」
「一応、かつての天下無双の武将ですからね」
呆けたように呟いた司へ、横にやってきた忍が声を返した。お互いに目的が一致していることは理解している。暁のワンドで敵を吹き飛ばしながら、司は忍と連携して蛮族たちを次々と倒していった。
すると――
「あ、そーれ」
どこからか聞こえてきた楽観的な声とともに、炎の燃え上がる音が聞こえてきた。司と忍がそれに気づいて逃げ出そうとするが、時既に遅い。
シオンの手から放たれたファイアーボールは、忍もろとも司を吹き飛ばしてしまった。轟音が鳴り響き、爆風が拠点へと広がる。
それを見届けて、シオンが何事もなかったかのように箒から降り立った。
「あら、このくらい避けられないの? 情けないわね」
「ンナッ……!? 無茶なことを……。と言うか、いま私の事狙いませんでしたか?」
「……気のせいじゃない?」
明らかに気のせいではないと思うが、うつぶせの司は呆然とした顔でシオンを見上げることしかできなかった。
しかし、巻き添えはくらったものの、同じくうつぶせで倒れこむ忍と信長の活躍もあってなんとか拠点を崩すことはできていた。
「この信長に勝とうなぞ、五百年早いわ!」
勝ち誇った台詞を言い放つ信長の大笑が、どこまでも響き渡った。
5
山岳に眠りし獣たちは、己の縄張りに侵入する者がいれば容赦なく牙を剥く。そして、それを知っていながらにして立ち向かう、容赦のない武人もまた存在する。
いや、武人と言えるかは定かではない。焔のごとき赤き髪を靡かせる少女は、どこか楽しげな微笑を浮かべて瞳に烈気を湛えている。
少女を取り囲む狼たちは、いままさに一斉に飛び掛らんとしていた。
「…………!」
狼たちが飛び掛ったと思った刹那――彼らの胸に穿たれた衝撃が、まるで砲弾でも受けたかのようにその身を吹き飛ばした。驚くべきは、衝撃の瞬間に宙を舞ったのが、唸りを上げる爆炎だったことである。
踊り子のように火の粉を散らす炎は、少女の拳を包み込んでいた。
「さすがは透乃ちゃん……素晴らしいです」
「えへっ、そう? でも、まだまだ殺し足りないよね〜」
言葉としては恐ろしいことを口走りながら、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)に爽やかそうな笑顔を見せた。一見すれば。明るく元気な好感の持てる少女だ。しかし、その背後から漂うのは、立ち向かう者を気迫だけでも怯えさせるほどの殺戮に魅せられた酷薄の力だった。
「足りないのは当たり前。獣よりも人のほうが楽しいもの」
「うーん、今回のは一応食料狩りだからね。あ、でもでも、この山って蛮族もいるらしいけどね」
獣を倒すことに飽きてきていた月美 芽美(つきみ・めいみ)はため息をつき、透乃は相変わらず片手間のように獣をなぎ倒していった。
「…………」
だが、透乃の動きがぴたりと止まると、同時に狼の獣たちが何かに怯えるように逃げ去っていく。透乃が立ち止まって見つめている茂みの奥からはむき出しの殺気が漂っており、芽美はそれを感じて唇を歪めた。
「楽しませてくれそうなお客様ね」
「そうこなくっちゃ!」
透乃が爆炎波の火力を高めた直後――そいつはけたたましい咆哮とともに現れた。
「……透乃ちゃん、芽美ちゃん、よろしくお願いします」
自分たちの身長の二倍はありそうな巨体へと、封印解凍した陽子が跳躍した。目の前のものを残酷に蹂躙する獣の爪を華麗に避けて、凶刃の鎖を振り投げる。
獰猛な茶色熊に絡まりついた鎖がどんどん回転し、先端の刃が鋼のような肉皮に突き刺さった。
「ブォオオオオォォッ!」
それだけで敵を吹き飛ばすような巨大な悲鳴が響き渡った。しかしこれで、熊は身動きが取れなくなる。
「よーし、やっちゃうよ〜」
その隙を突いて、女子高生のような明るい声をあげた透乃が正面から切り込んだ。逆に、芽美は背後へと跳躍する。木の上を飛んだ芽美は、透乃の対を成すような雷電を拳に纏った。
「……!」
熊の巨体に、電撃と炎の二重の力が注ぎ込まれた。二つの拳が、熊の肉壁にめり込んだのだ。
ずぅん――と、土埃を上げて気絶した熊は倒れこんだ。
「やったぁ! じゃ、解体して持ち帰ろう!」
「わかりました。では、取れたお肉は冷凍しますね?」
日曜大工セットを持ち出してきて、透乃は熊の肉を解体し始めた。解体された肉は、陽子が氷術で凍らせて保存する。まるで輸送業者さながらであった。
そんな二人を眺めながら、芽美は先ほどからどこか気になっていた大木の枝影を見つめた。
「…………」
端から見れば、何もなかったように見えるだろう。しかし、その影に隠れていた気配に気づいた芽美は、静かにくすりと笑った。それは恐らく、期待と予感。
「……面白く、なりそうね」
その気配は、どことなく自分たちにも似ていた。
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