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第二章 電力回復作戦


「はぁぁぁぁぁぁ」
 暗い倉庫の中、盛大なため息を吐き出したのはハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)だ。
「なぜ、董琳教官とは別のチームされてしまったのでしょうか。彼女の前でカッコイイ姿を見せて、デートに誘おうと考えておりましたのに……」
「まぁまぁ、私達の目的が達成されれば、きっと董琳教官も評価してくれるわよ」
 アム・ブランド(あむ・ぶらんど)がハインリヒの肩を叩いて慰める。
「ブレーカーを外につけちゃえば、こんな苦労はしないで済んだんだけどねー」
 最もな事を言ったのは、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)だった。
 彼らの目的は、最深部に設置されているブレーカーまでたどり着き電力を復活させることである。
「電力が回復すれば、監視カメラも利用できますわ。そうすれば、今のように闇雲に戦うのではなく、効率よく戦闘が進められますわね」
 クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)の言葉にあるように、盗難などを防止するために倉庫には監視カメラが設置されていた。もっとも、モニタールームも倉庫の中で、基本的には無人なので、後手の対応しかできないものではあった。
「本当にここのゴキブリとかダニとか、お腹が空いてるんだね。出くわしたらすぐに襲い掛かってくるんだもん。やっぱり、電線もあいつらが齧っちゃったのかな?」
 天津 亜衣(あまつ・あい)は周囲の警戒を怠らずに会話に参加する。
 監視カメラも、倉庫の中の照明も今は生きていない。ところどころにある非常灯だけがささやかな光源になっていた。倉庫の作りも、恐らく無計画に増築されたのだろう、まるでダンジョンのようになってしまっている。扉を開けると壁、なんてトラップみたいな場所もあった。
 明かりを灯し、監視カメラで全体の状況を把握するのは、急務だった。
「……この程度、こんな人数を割いてやるような事件でもないでしょう」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)がぼそっと呟く。
 確かに、ゴキブリやダニは単体では相手にならないほど弱い。カビは、その性質上何も考えないでいると危険だが、凍らせるなどの策を撃てば脅威には至らない。
「相手がゴキブリでなければ、こんなことにはならなかったのかもしれませんね」
 どこかから、誰かのくしゃみをする声のようなものが聞こえてきたような気がした。



「どりゃぁぁぁぁぁぁぁっ」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は【軽身功】で壁を伝い、天井から必殺の一撃を叩き込む。二匹いたゴキブリのうち、一匹が避けられずに直撃を受けた。
「そっち一匹行ったぞ!」
「任せろ!」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)の【氷術】が阿吽の呼吸で打ち込まれ、もう一匹もすぐに氷漬けになって動かなくなる。
「こんなに連続で襲撃されると、何匹倒したかわからなくなっちゃうね」
 綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)が、【火術】で辺りを照らしだしながら少し疲れたように息を漏らした。
「私達は一つずつ監視カメラをチェックしなければなりませんから、そのぶんちょくちょく立ち止まってしまいますしね」
 そうゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が丁寧に説明する。
 こちらのチームは、監視カメラの状態を確認しつつ、噛み千切られたと考えられるケーブルを繋ぎ直していくことを目的にしている。
「幻舟さんのおかげで、ケーブルを齧られない方法が見つかったから助かったわよね。そうじゃなかったら、今度はケーブルを守らないといけなかったわけだし」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)は天井を見上げながらそう語る。
 天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が見つけたケーブルを齧られない方法というのは、ケーブルを天井に這わせるというものだ。
「あやつら、体大きくなりすぎてしまって、壁はともかく天井に張り付いてはいられないようじゃの」
「巨大化するのも考え物なのね」
 と天津 麻衣(あまつ・まい)
「でも、実際大した事ない相手で助かりましたね。もし、もっと彼らが強ければ、大きな被害が出てもおかしくはありませんし」
「みんな、ゴキブリに耐性があるのも幸いじゃな」
「董琳教官、大丈夫かな。一番嫌がってるように見えたけど」
 なるべく敵との交戦を避けるため、彼らはかなり後になって倉庫の中に入っている。それでも結構な連戦をしているので、先発組みはもっと大変だっただろう。
 そんな先発組みとして、首根っこ掴まれて倉庫に引きずりこまれた董琳は今頃どのような事になっているのやら。麗夢が心配するのも当然かもしれない。
「お喋りはそこらへんにして、次のチェックポイントにいくのだよ。先陣がブレーカーに到達してても、漏電をなんとかしないと電気はつかないのだからな」
 ケーニッヒが声をかけ、一行は次の目的地に向かって進み始めた。



 しばらくして、モニタールームに到達していた神矢 美悠(かみや・みゆう)に【精神感応】による連絡入った。内容は、一通りチェックはし終えたので一旦通電してみて欲しい、というものだった。
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は彼女からその報告を受けると、すぐにブレーカーに向かっていたチームに連絡を取った。
 連絡を取ってすぐに、モニタールームの照明が点き、モニターにも映像が入った。
 本来なら、【ユビキタス】を用いるはずだったのだが、通電されていないため操作することができず、故障していた可能性を考慮してここまで足を運んだのである。
「これで、もうほとんど片付いたようなもんじゃね?」
 映像が映ったのを見て、美悠はそう言った。
 映像は白黒でカクカクしたものだったが、状況を把握するには十分だろう。
「まだ油断はするな。まだ、完全に全容を把握したわけではないのだからな」
 クレーメックは各モニターに移されている状況を見つつ、戦況を分析していく。ここに来るまでに、クレーメックも何度か戦闘を行って分析したとおり、害虫は巨大な事以外に特筆するべき部分はほとんどなく、冷静に対処すれば問題はないだろう。
 むしろ、どう害虫どもを追い詰めていき、漏れなく殲滅するかが考えるべき点のようだ。
「映像を見る限り、卵のようなものはみつかりませんわね」
 桐島 麗子(きりしま・れいこ)はモニターに一通り目を通してそう呟いた。
「恐らく、卵は見つかりにくい場所に隠しているのだろう。それを見つけることも考えないとだな」
「ねぇ、クレーメック。いくつかついてないモニターがあるみたいんだんけど」
 麻生 優子(あそう・ゆうこ)が指摘したとおり、いくつかのモニターは画面が真っ黒なままで何も映っていないものがあった。
「本当ですわね。カメラが壊されているのかしら?」
 そう、クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)が首をかしげる。
「ゴキブリやダニにそんな知能は無いと思うが、どうだろうな」
 ゴキブリやダニが偶然ぶつかったりなどして、壊れてしまうというのはありえるだろうか。とクレーメックは思案する。
「とりあえず、映像が届かない部分に関しては直接出向いて調べてみればいいだろう。カメラが設置されている場所は、一通りケーニッヒ達が調べているはずだ。何かあったら、連絡があったはずだろうしな。それよりも、まずは今動いているパーティを再編し、掃討作戦を実行していくべきだ。ここまでくればあと一息だが、まだ油断をするには早いぞ」


「電気がついちまったみてぇだな」
 ジュゲムが舌打ちをする。
「思ったより早かったですね」
「どうするよ、ユキノシタ。諦めるか、さすがにこのまま実行するには分が悪いぜ」
「いえ……卵を守るためなら、彼らも協力したいと。ですから」
「そうかい。んなら、俺もガシっと覚悟を決めないとだな」