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十五夜お月さま。

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十五夜お月さま。
十五夜お月さま。 十五夜お月さま。 十五夜お月さま。

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第三章


「嗚呼……今夜はこんなにも――月が綺麗だ」
 どうせ綺麗な月の夜なら。
 大好きな恋人とだけではなく。
 大切な友人を誘って、一緒にお月見に洒落こんでみるのもいいのではないか、と。
「陣くん、それ、言ってみたかっただけでしょ」
 七枷 陣(ななかせ・じん)の言葉にツッコミを入れるはリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)。そのリーズのもみあげを、陣がぐいっと引っ張った。
「いたいよぉ、やめてよぉ」
「なんつーか、自分でもわかってることを言われると、こう、なぁ。もみあげ引っ張りたくなるよなぁ」
「ならないよぉ! ほら、お月見するんでしょー!?」
 ここは、ヴァイシャリーの湖畔。
 人気はあまりなく、街灯もない。だけど、
「大きな月ですね」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が言うように、空に輝く大きな月が、光源としては十分以上の効果を発揮していて。
「そうですね……とても大きな、綺麗な月」
 遙遠の言葉に、紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が頷いた。
「今日は十五夜で、晴れ渡る満月です。お月見にはもってこいの日ですよ」
 小尾田 真奈(おびた・まな)が微笑んで、荷物の中から重箱を取りだす。
「わわっ、真奈ちゃん、それなに?」
 重箱に驚いて、遠野 歌菜(とおの・かな)が尋ねた。真奈は微笑み、蓋を開ける。中身は、
「「「お団子!」」」
「お月見といえば、お団子。ですよね? お茶も用意してありますから、月を見ながら……って」
 真奈が説明する間にも、リーズが、歌菜が、ぱくぱくと。そろりそろりと手を伸ばすのは遥遠で、食べるとみんな微笑んだ。
「美味しい〜♪ 真奈ちゃん料理の天才だー♪」
「はぐはぐもぐもぐ……ふぉいひぃひょひぇ〜♪」
「リーズさん、何を言っているのかわかりませんよ? 飲み込んでからお話ししないと」
「ん、ん。んぐっ!」
「詰まったっ!?」
「リーズ様、お茶をどうぞ」
「っっ、ぷはー! 危なかった、お団子が美味しすぎて死ぬところだったよ!!」

 わやわやと、お団子に盛り上がる女性陣を見て、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は苦笑にも似た笑みをこぼす。
 月を見て、歌菜に封印を解かれた日の月を思い出して――歌菜はどうなのだろうと見てみたら、団子に夢中で。
 花より……いや、月より団子か、歌菜らしい。
 隣をちらりと見遣ると、遙遠も、遥遠を見ていて。
「月、掴めそうな錯覚に陥らん?」
 不意に、声。
 立ち上がって月を見ている陣の声に、羽純は空を見上げる。
 大きい。とても。
「クレーターまで見えていますね」
 ふむ、と遙遠も頷く。
「なぁ? 星々もでっかいし……なんで手ぇ伸ばしても届かないのか、不思議なくらいじゃね?」
 そう、喋っていると、ばしゃんと水音。
 リーズが、真奈が、歌菜が、遥遠が。湖の中で、水遊びする音。
「……元気だな」
 あまりにも楽しそうにしているから、こちらまで笑みが漏れる。
 と、歌菜と目が合って。
 何か言うのも野暮な気がして、微笑んで手を振った。歌菜は顔を赤くして控えめに手を振り、水遊びに戻り。そんな彼女を見て可愛いなあと思うと同時に、
「歌菜ちゃん、綺麗だよねぇ……見惚れちゃってるんすかぁ?」
 にやにや笑いの陣にからかわれた。
「ヨウくんも。一言も発しないと思ったら、ずーっと遥遠さんのこと見ちゃってるし? らっぶらぶですなぁ♪」
「ヨウエンは遥遠を見ているだけじゃなく、こういう楽しい場の空気を皆と共有しているつもりですよ。騒がしいのも、見ているのは楽しいですしね」
「ヨウくん、見てるだけなん? 一緒に水遊びとか」
「嫌です。ヨウエンは、遥遠やみなさんが楽しんでいるところを見る方が、好きです」
「つれないねぇ、ヨウくん。羽純は? 水遊び」
 遙遠をからかおうとしていた陣の、からかいの矛先がこちらへと向けられて。
「俺も、パスだ。見ている方がいい」
 と、言ったあたりで。
 ぱしゃん、と水が掛けられる。
 三人全員、多かれ少なかれ水を被って。
「……リ〜ズぅ〜っ!! 真奈ぁ〜!」
「きゃーっ、なんで陣くんボクだけ追いかけるのっ!?」
「ふふ、折角ですし、皆様も遊びませんか?」
「羽純くん、見てるだけじゃなくて! 遊ぼう? 濡れたら乾かせばいいもんね!」
「遙遠、苦手といいつつ逃げないでくださいね? そう言いつつ、楽しんでいるんでしょ? ほら、戯れましょう?」

 濡らされて、怒るふりしてじゃれあって、湖に飛び込んだり、あるいは湖から上がったり。
 知らず知らず、カップル同士で隣り合って座っていて。
 月が照らす中、全員で騒いでいた時とはまた違う空気が流れる。

「遥遠、楽しめましたか?」
 遙遠は、濡れた遥遠の髪を拭きながら尋ねた。
「はい。遙遠と二人きりでなくなったのは、少し残念でしたけど……」
「そうですか」
「でも、なんだかんだでこういうふうに、皆と過ごせる空気は心地よくて大好きです」
「ヨウエンも、そう思っています。やはり、皆さんかけがえのない仲間なんだって……そう、思いますね。
 遥遠と考えを共有できて、嬉しいです」

「うわぁ、大人カップルだ……以心伝心だ……」
 遙遠と遥遠を見て、歌菜はうっとりと、言う。湖で遊びに遊んだため、びしょ濡れだ。
「ほら、歌菜。乾かさないと風邪引くぞ」
 タオルを持って、羽純が言ってきてくれるが。
 ちょっとした、悪戯心。
「……ねぇ羽純くん」
「?」
「このまま濡れててさ。それで私が風邪引いちゃったら。……看病してくれる?」
「アホか。……でもそうなったら、口移しで薬飲ませてやるよ」
「〜〜!?? は、羽純くんタオル! タオル貸して!」
 タオルをもぎ取って、頭からかぶる。
「って、嫌なのかよ……」
 嫌なんじゃなくて!
「そんなことされたら、余計に熱が上がってヘンになっちゃうもん……」
 歌菜はタオルをかぶっていたから、それも面白そうだなと笑った羽純の姿は、見えなかった。

「オレまでびしょ濡れやん」
「だって陣くん、ボクたちのこと追って湖に飛び込んでくるんだもん」
「私は、ご主人様やリーズ様と水遊びできて、楽しかったです」
 リーズの髪を拭きながら、真奈が笑った。
 もちろん陣だって、楽しくないわけがなくて。
「オレも楽しかった。最初、写真撮ろうかと思ったくらいやもん」
「写真?」
 リーズが、くりくりとした瞳をさらに大きくさせながら、問う。
「ああ。最初四人で水遊びしてたやろ? あれ、すっごい綺麗で……。
 でも、あの場限りだから余計に綺麗なもんなんやろな、って思ったら、写真なんて無粋に思えてしもうて。
 なら、オレらの頭に記憶しておけばえぇ話やし、ね」
 それに何より、他の奴らに見せるのはとてもじゃないが勿体なくて。
 ……そこは言わないが。
「では今から、今の姿を皆様で写真に収めませんか? その場限りの美しいもの、ではなくて、思い出として残しておきたい美しいもの、として」
「ナイス、真奈。思い出は大切やな。
 おーい、ヨウくーん、遥遠さん! 羽純、歌菜ちゃん! 写真撮るでー!」

 まだ濡れてるのに! とか、ヨウエンはいいです、見てます。とか。
 いやいやそんなこと言わずに、と押しきって、カメラのタイマー機能を駆使して撮った、その一枚は。