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十五夜お月さま。

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十五夜お月さま。
十五夜お月さま。 十五夜お月さま。 十五夜お月さま。

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第九章


「どうして香苗の愛情は受け入れてもらえないんだろう……」
 姫野 香苗(ひめの・かなえ)は、月見団子を、月餅を、甘酒を、ヤケ食いヤケ飲みしながら呟いた。
 パートナーと、恋人と、いちゃつきラブつき、イベントとあらば湧き出るリア充たち……。
 それを見せつけられるのも、見て嫉妬する自分も嫌で、ねえ誰か香苗と一緒に居て! そう思って、夏の間中、付き合ってくれる女の子を探してみた。
 探してみたけど、逃げられるか、拒絶されるか、そんなのばっかりで。
 さすがに心が折れ始めていた。
「女の子が女の子を好きでもいいじゃないのー」
 団子を食べて、お月さまに向かって吠えた。
「女の子が女の子を好きでも、いいと思うよ」
 そこにそう声をかけて来たのは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)
 ススキのお飾りを手にして、月明かりに照らされ。どこか幻想的な美しさと可愛さを持って、微笑んでいた。
「……だよね!?」
「だもん。私も、女の子だけど女の子が好きだよ」
「……!」
 見つけた、自分と同じ思考で嗜好の女の子!
「香苗、考えたの」
「うん?」
 隣に座った沙幸に、香苗は言う。
「香苗の愛情が受け入れてもらえない理由」
 団子を食べながら、沙幸は香苗の言葉を待ってくれていて。
 言ったら変に思われないかな、と一瞬だけ躊躇するような気持ちになって、ああでも、聞いてもらってるんだ、ためらわずに言ってしまえ! と勢い半分で口からついて出た言葉。
「香苗のおっぱいが、お団子みたいに小さいのがいけないんだ!」
「…………えぇ!?」
 何を言っているのかわからない、そんな表情で香苗を見ていた沙幸が驚いた声をあげるが、気にしないで言葉を続ける。
「きっと、お月さまみたいなまんまる大きなおっぱいになれば、女の子のほうから香苗の胸に飛び込んできてくれるはず! ちっぱいじゃ、だめなんだもん!」
 だから考えた。素敵な方法を、考えた。
「仲のいい女の子達に、香苗の胸を揉んでもらえば……! 数ヵ月後には香苗もお月さまおっぱいになって、超モテモテになるはず!」
 だから、さあ、揉んで!
 とばかりに胸を張ると、勢いにやられたのか。
 沙幸の手が、香苗の胸に伸びて来た。
 ソフトなタッチで、ふにゃりと揉まれる。
 くすぐったさと、それだけじゃない感覚。ふわふわとしてくるような、なんともいえない気分になってくる。
 月の下でこんなことをやっているという、背徳感や、いろいろ。
「わ、私、なんかドキドキしてきたよ……」
 沙幸が、香苗の耳元に囁くように、言う。
 雰囲気、異常性、背徳感。それらにやられながらも揉まれていると――
「ふわ! 女の子と女の子のイチャラブがこんなところで見れるなんてー、けしからもっとやれ〜」
 青島 兎(あおしま・うさぎ)の、声がした。

 けしからんもち肌だ。
「きみも揉んでって〜!」
 とねだられて、言われるがままに香苗の胸を揉んだりつついたりしながら、兎は思う。
 パラミタウサギと一緒に、さっきまでさんざん餅をついて、褒められ喜ばれ凄いと言われ、月見に出て来た目的の一つは達成できたと喜んでいたら。
 まさかのサプライズ、もち肌つつきを通り越してのもち肌揉み。
 しかも、隣にはもう一人可愛い女の子。久世沙幸。彼女ももち肌だ。あっちもつつきたいところ。
「? どうしたんだもん?」
「んー、もち肌気持いいなーって、それだけ〜」
「うん、もち肌だよね。気持ちいいんだもん」
 じっと見ていたらそう言われてしまって、普通に返すので精いっぱいで。
 あれ、このままもち肌揉み続けてても、なんかダメ? と、不意に思った。
 楽しいけど、楽しいけど。
 こればっかりでは、きっと変態さんだ!
「……! よし」
 思い至った結論に、兎は香苗のもち肌から手を離し、杵を担ぎあげた。
「ほえ?」
「な、何するの?」
 疑問符のついた声に、ニッと笑って。
「ほいほいー、兎たちの餅つきはじまるよお〜」
 杵と臼で、もち米をぺったしぺったし!
 ついて、こねて、ついて、こねて。
「はい召し上がれ!」
 餅をずいっと差し出して。
 続いてうるち米を練って団子を作り、「こちらも召し上がれー」配って回った。
「!! 香苗のもち肌に負けない、もちもち餅!」
「柔らかで美味しいんだもん〜♪」
 二人の声を聞いて、満足げに笑ってから。
 あっそうだ、と一つ思い至って、改めて団子を作る。
 とっておきの団子を、届けたい相手が居たのだ。
「えへへー、それではもち肌ご馳走様でしたー、それではここらで御免〜」
 しゅびっ、と敬礼一つして、杵も臼も軽々持ち上げ走っていく。
 届けに向かう相手は、団子を喜んでくれるだろうか?
 そしてけしからんもち肌美少女たちは、あのあとどう発展するだろうか?
「考える事がたくさんだ〜」
 ちょっと楽しい。
 月の下で笑いながら、兎は走る。


*...***...*


 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が超感覚を使用して、生えた犬耳と犬尻尾を。
「リアちゃんこれ、かわいいねぇ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、楽しそうにつっつく。
 生やす必要は別にないけれど、生やしているとレティシアが、そう言って笑ってくれるから、生やした。
 ああ、だけどまだ触らないで。ふにゃりと力が抜けて、甘えん坊になってしまうから。
「レティシアさんっ」
「うん?」
「今日はお月見に誘ってくれて、ありがとうっ♪」
 まずはお礼を言いたいし。
 お礼を言う拍子に、誘ってもらった嬉しさから、尻尾が左右にふりふり振られるのは、仕方のないこと。
「いーえ。日本風のお月見とか、風流だもんねぇ。だから一緒に楽しみたいねぇ」
 ヴァイシャリーの別邸でリアトリスを待っていたレティシアは、そう言って縁側で微笑む。水色の生地に、ひまわり柄の振袖。よく似合っている。
「お着物、きれいだね。すごく似合ってる」
「そう? ありがとう。……それじゃ、リアちゃんもあれ着ましょっかねぇ?」
 レティシアが指差した先。室内に、広げられた着物があった。白地に朝顔柄の振袖。
「着物? 僕、着物着たことないよ」
「心配しないでも、あちきが着せてあげます」
 任せてねぇ、と笑う顔が、月に照らされてとっても綺麗。
 いつも見てる笑顔と違うような気がして、つい見惚れてしまった。
「リアちゃん? 着物、イヤ?」
 なので返事が遅れて、そう問われ。
 そんなことないよ、と勢いよく首を振って、否定。
「じゃあ、着替えましょ」
 縁側から、室内に上がって。
 着付けを、頼んだ。

 初めて着付けてもらったけれども、どうにも恥ずかしい。
 それが、着慣れない着物を着ているからなのか、着付けられた時「リアちゃん、お肌すべすべで綺麗ねぇ」と背中や鎖骨ら辺を撫でられた時のことを思い出しているからなのかは、ともかくとして。
「に、似合う? かな?」
 おずおずと、訊いてみる。
「あはは、リアちゃんお耳がピクピク動いてるよ。
 心配しなくても、とっても素敵。似合ってる」
「本当? レティシアさんがそう言うなら、きっとそうだね」
「今度は尻尾がぱたぱただねぇ。本当、可愛いねぇリアちゃん」
 言って、尻尾を撫でてくるレティシア。
 ふにゃん、ふにゃん。力が抜ける。ぱたり、縁側に倒れ込んだ。背中を、頭を、撫でてくる手が心地よい。
「美少女二人が縁側に座ってお月見って、神秘的ですよねぇ」
「うん〜、でも、僕は男だし……」
「野暮なことは言わないの、見た感じのことだからねぇ」
 見た感じ。
 着物姿の、女の子が二人。
 片方は撫でられてふにゃり、片方はそれを見てにこにこ。
 神秘的というか、どうもじゃれ合っているようにしか見えないけれど。
 それを言う事の方が野暮というものだと、リアトリスは笑う。
「そうだね、神秘的」
「ふふ〜。さ、お団子食べようか」
「お団子と言えば、青島 兎ちゃんがお団子作って持ってきてくれるって――あ、来た!」
「おぉーいー、すっごい美味しそうなお団子、でーきーたーよ〜!」
 ぶんぶん、遠くで手を振りながら走ってくる。
「だからもち肌をつつかせろ〜!」
「わー!?」
 走る勢いそのままに、どーんとリアトリスの腰のあたりにダイブして。
「むぅー、お着物じゃつつく箇所が少ないぞー、えいえい〜」
 頬をつついて、不満そう。
 でもそれが、レティシアにとっては面白かったようで。
「あはは、もち肌だねぇ、本当に」
 彼女まで頬をつついてきて。
 もみくちゃにされていて、団子も月見も関係なくなってきてないか? と思いつつも。
 楽しいから、いいよね?
「やめてよ〜」
 言いながら、視界に映した月は、とても大きく優しく佇んでいた。