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リアクション
SCENE 15
神崎優は無言で鞘を払った。
「派手に来たものね」
水無月零が彼の背に、そっと手を乗せる。頼りにしているわ、との意思表示だ。
神殿内はまるでゴーレムの倉庫だ。狭い通路の前方から、大量のアイアンゴーレムが押し寄せてきたのだ。大斧に槍、あるいは剣、物々しい武装が擦れあい金属音を立てていた。銃を構える個体もあった。
「アイアンゴーレムの見本市って感じだねぇ」
清泉北都はむしろ感心したかのように、押し寄せる甲冑の重騎士たちを待ち受けるのである。
「これ……って……」
メイベルもさすがに閉口した。なんといっても数が多すぎる!
まさしく奔流、何体いるのか数えることすらできない。ゴーレム軍団の先頭はもう優に触れそうだ。
「火系を使うと危険だし、有事の際には『アルティマ・トゥーレ』かな」
武器に絶対零度の冷気をまとい、白銀昶が迎撃姿勢に入ろうとしたそのとき、
「……っ、と、まさかリハーサル不足とかいう話じゃないだろうな?」
思わずそんな言葉がでるほどはっきりと、ゴーレムの足が乱れたのである。
「ご無事ですか?」
凛然たる声が頭上から聞こえた。見れば天井に映像が映し出され、そこに神代 明日香(かみしろ・あすか)の姿があった。
「今ので、落とし穴の罠が発動したはずです。ゴーレムたちの中央の足場を崩しました」
明日香はかすかに紅みがかった魔鎧を身につけている。その鎧、すなわちエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が問いを発した。
「明日香様、『今ので』ってどういうことです? 何かされたんですの?」
「ああ、ごめんなさい。説明をしていませんでした。顔なじみの方もいますね? 私、神代明日香と申します。神殿の制御室にたどりついて、その防衛機能を操作したんです。この神殿は、何者かの手によって改造されています」
「おそらくは塵殺寺院ですわね。この神殿には大量のアイアンゴーレムが待機しておりましたもの」
明日香は調査において、空気の流れを特に重視した。結果、いち早く神殿と、その制御室入り口を発見し、はやばやと主導権を握ったというわけだ。
アイアンゴーレムは知性的な存在ではない。狼狽してしまうと混乱は増す一方だ。さらに、
「一気に片付けるぜ! 数は多いが烏合の衆、こちらからも追い立てる!」
後方からジェイコブ・ヴォルティの声が聞こえる。ゴーレムを尾行した彼も、この場所にたどり着いていたのだ。これに勇気づけられ優たちも、鉄の甲冑兵士に向け一斉攻撃を開始した。
神殿の制御室。明日香は、操作していたモニターから振り向いた。
「及ばずながら私も、ジェイコブさんに協力しに行こうと……」
「明日香様、私を着ていることをお忘れですわ」
「そうでした……えと、私とエイムちゃんも、ジェイコブさんに協力しに行こうと思います。美羽さんは?」
声をかけた相手は小鳥遊美羽だ。美羽もジェイコブとともに明日香と合流していたのである。
「うん、私も行く!」
美羽はブライトマシンガンを、縛り上げた男に向けている。
気弱そうな男だった。男は、塵殺寺院の研究員だという。ゴーレムを尾行し制御室を発見した美羽に、あっさりと捕縛されたのである。
「念のためもう一度確認しておくわ。あなたたちの目的は何? 何のためにアイアンゴーレムなんて投入したの?」
あどけない美羽が物騒な機銃を抱えている姿というのはなんともミスマッチである。しかし銃口を前にした研究員としては、そのミスマッチに感じ入っている心のゆとりはない。
「わ、私はアイアンゴーレム部隊の実戦データを集めているだけですっ……ゴーレムは呼吸をしないから、植物が反応して襲ってくることがないのでッ! し、植物の発生源については知らないんですってば!」
「嘘だったら撃ちまくりだよ」
「ひいっ! 撃ちまくらないで! 植物の発生原因は確かに我々塵殺寺院ですが、た、担当が別なので、原因とかそういうのはまるで知らないんですぅ〜。本当ですってばぁ〜!」
この研究員も『緑の心臓』という言葉だけは知っていた。『心臓』はやはり植物大発生の鍵を握る場所らしい。少なくともこの神殿が『心臓』でないことも研究員は断言する。だが、これ以上の情報は引き出せそうもなかった。
「そうとわかれば」
「徹底的にアイアンゴーレムを撃破だねっ!」
明日香、美羽は連れだって飛び出した。さあ、もうひと暴れと行こう!