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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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10.客寄せパンダは誰が胸に 後


「それにしても、笠が飛んでもすぐに魅了されるわけではないみたいですね」
 緋音は自分で起こしている風と、他の魔法によって飛びゆく編み笠を眺めながらそんな事を考えていた。
「とはいえ、皆像が気になって一度はあれを見てしまうようですが」
 次の瞬間、緋音の編み笠が飛ばされた。
「……パンダ様の素晴らしさを他の人と共有するには、やっぱり皆の編み笠を飛ばさないといけませんね」
 視線がパンダ像に行っていたため、すぐに魅了された。
「緋音っちー、あんまぼーっとしてると負けちゃうぞー?」
 村の中を飛び回っていたルチルが、そんな事を言っている。
 その言葉で、緋音に火がついた。
「臨むところです。ここからは本気で行きますよ!」
 手始めにルチルの笠を吹き飛ばした。
「うわ、ルチルの笠がー!」
「自分の持っているのも一つですよ。さあ、勝負です!」
 そのせいで、風が強くなっていく。

            * * *

「……どこだ、どこにいるんだ!?」
 鬼崎 朔(きざき・さく)もまた、村の中心に向かっていた。だが、彼女が探しているのはパンダ像ではない。
「紗月……」
 彼女が探しているのは、恋人の椎堂 紗月(しどう・さつき)だ。無人島でのパンダ像争奪戦以後、彼は行方不明になっている。
 いるとすればこの村。そして戻らないという事は、既にパンダ像の虜になっているのは間違いないだろう。
「それ以上、パンダ様に近付くな!」
 聞きなれた声が耳に入った。
 目の前に立ちはだかったのが、彼女の恋人その人だ。
「紗月ィイ!!」
 黒壇の砂時計を発動し、ベルフラマントで姿を視認しにくくした上で、迫っていく。
「朔ゥウ!!」
 だが、紗月は彼女のしびれ粉を神速でかわす。その動きに何とか焦点を合わせ、黒薔薇の銃の銃口を向ける。
「目を覚ますんだ!」
「何を言ってるんだ! パンダ様のおかげで皆が平和に過ごせる町が出来ようとしているんだ。そう、パンダ様は平和の象徴なんだ」
 黒薔薇の銃の弾丸を先の先で読み、神速と軽身功で避けようとする。だが、朔もスナイプで狙いを定めており、完全に避ける事は難しいようだ。
「違うッ!」
 再び態勢を立て直す。
「違うものか。パンダ様がいれば世界は平和になる。憎しみで不幸な目に遭う奴もいなくなる!」
 次第に話が壮大な方向に向かっている。
(お願いだ、正気に戻ってくれ!)
 それでも、朔は恋人を止めようと必死で立ち向かう。
「紗月の邪魔をするなら、誰であっても止める」
 椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が紗月に加勢する。
「アヤメ様、武器を収めて下さいなのであります!」
 彼の攻撃を止めるため、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)がアヤメと対峙する。
「く、目晦ましか」
 スカサハが光術で目晦ましを行い、続いて氷術でアヤメの足を固めようとする。
 だが、アヤメも煙幕ファンデーションで視界を防ごうとしてきた。
「朔、どうして分かってくれない!」
 鳳凰の拳を撃ち込もうとする。だが、それはスカサハが放っていたオリヴィエ博士の改造ゴーレムによって阻まれる。
「紗月、正気に戻ってくれ!」
「俺は正気だ!!」
 だが、なかなかお互いの攻撃が当たらない。
 そうこうしている間に、大荒野の獣もまた、襲いかかってきた。
「二人の邪魔をするような無粋は避けてもらおうか」
 尼崎 里也(あまがさき・りや)がハイエナのような獣を流水の型で一閃する。
「やれやれ、またアンデッドもいるのか」
 今度はもはや原型がなくなっているグロテスクなアンデッドだ。さすがにこちらはもう動くのがやっとというレベルだが。
「仕方ない、露払いといきますかな」
 アンデッドや獣の群れに向かって、一気に攻め込む。朔達が戦っているところに、さらにモンスターまで加えるわけにはいかない。
 里也がモンスターの相手をせざるをえなくなっている間も、パンダ像を巡る攻防は続く。
「これならばどうでありますか!?」
 スカサハは祠の方へ向けて、メモリープロジェクターによる投影を行う。映し出すのはもちろん、
「パンダ様が増えた?」
 もちろん、本物は一つだ。そして、魅了の効果を持っているのも。
「パンダ様は唯一絶対。そんなもので俺の目はごまかせない!」
 どうやら、紗月達魅了されている者には本物がどれか分かるようだ。むしろ、奪還しようとする人を混乱させる事になってしまう。
「目を覚ませ、紗月!!」
「違う。俺は、パンダ様の代行者だ!」
 鳳凰の拳を繰り出す。それをラスターエスクードで受け止める朔。
「俺が――パンダ様だ!」
 二発目を撃ち込む。それによって盾が弾かれるが……
「――――ッ!!」
 その後ろには銃口があった。
 策が引鉄を引く。至近距離からの弾丸は外しようがない。
「……ごめん、少し眠っててくれ」
 黒薔薇の銃の効果で、紗月は眠りについた。さすがにまともに食らえば効くという事だろう。
 そのまま紗月を抱え、朔は一旦離脱する。

            * * *

「モンスターの類は減ってきましたが、先ほどから笠がたくさん飛ばされていますわね」 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が言う。
 笠を被っていない状態でパンダ像を見ると、魅了から逃れる事は出来ない。現に、ついさっきまで正常だった者達が敵に回るなんて事も多い。
「これ以上パンダを守る人が増えると、ちょっと厳しいよ。この編み笠、もう一回被せれば元に戻せないのかな?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の疑問に対する答えは別の人が出しているが、彼女はまだ気付いていない。
 被せれば、確かに元に戻せるが、少し厳しい状況である。
「パンダ様には指一本触れさせません」
 彼女達の前にでパンダ像への道を塞いでいるのは、ルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
「ああ、パンダ様、貴方様は誰にも渡しはしません。貴方を狙う者、その全てを全力で……全力でお仕置きです! この持てる力、その全てを貴方に捧げます!」
 魅了されているルイには、目の前の人間の判別も出来ていないようだ。
「これは、説得は出来そうにありませんね……」
 出来れば戦いたくはなかったとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は思っているのだが、これはもう話し合えるという次元を超えている。
「O☆SHI☆O☆OKI☆DEATH!!」
 最初から即天去私を撃ってくるルイ。それをメイベルがウォーハンマーで受け流す。
「眠って下さい!」
 ヒプノシスでルイを眠らせようとする。
 これが効けば、これ以上戦う必要はないのだが……
「パンダ様の前でおちおち眠っているわけにはいきません!」
 その信仰心から、ヒプノシスでも眠らないで済んでいる。実際は、肉体の完成によって簡単には催眠術の類が聞かないだけだ。
「………っ!」
 だが、厄介なのはそれだけではない。
 様々な魔法が村中で放たれているせいで、かなり大気が乱れている。油断したら笠を吹き飛ばされかねない。
「同じように足止めするのもいいですが、もう少しやり方を考えて頂きたいですわね」
 ただでさえ、契約者の能力は普通の人より高いのだ。
 まして、熟練の契約者ともなれば、一人で蛮族の集落程度なら消滅させる事も出来る。そんな力がぶつかり合っている今の状態は双方共に危険だ。
「契約者ではない方が外にいないのがせめてもの救いですね」
 ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)が周囲を見渡す。もはやアンデッドもこの奔流に巻き込まれて消滅しかけている。特に、実体のないタイプは魔法攻撃に耐えられないようだ。
「とにかく、笠は死守しないと。僕達までパンダの虜になっちゃうよ」
 一応予備の笠も確保はしてある。
 だが、ここからは祠が見え、うっかりその中に見える像の姿を見てしまったら、しかも笠が飛ばされた時だったら、どうしようもない。
「多少手荒な事をするのは、仕方ありませんね」
 覚悟を決め、ルイと向き合う。
 四体一だが、パンダ様への想いのせいか、本来の力以上を発揮しているように思えてくる強さだ。
 魅了された契約者が皆こうやって強化されているとなると、他の場所の戦いも苦戦している事だろう。
 彼女達は息を合わせ、四方からルイを囲む。
「悪く思わないで下さいね」
 時間差で、ヘリシャ、フィリッパが轟雷閃を撃ち出す。が、それに耐え、カウンターを食らわしてくる。
 それを、ミラージュで幻影を生み出す事によってかわすセシリア。
 なかなかどちらも譲らない。
(足止めにはなってますね)
 この隙に少しでも多くの人が像に向かう事が出来ていれば……
「キリがありませんね。こうなったら最終手段です」
 ルイが唸りを上げる。
「私の生き様を見よ、巨大化ぁぁぁぁ!」
 鬼神力によって、ただでさえ二メートル近い巨漢が、二倍くらいの大きさになる。さらに、超感覚によって五感を強化もしている。
「はははははは、この私を倒せるのなら倒してみなさい!!」
 パンダのためにここまでするか、というほどだが、さすがにこれは分が悪い。
 その時だ。
 馬が地を蹴る音が響く。
 その音の方を見れば、それは馬ではなくユニコーンであった。そこに編み笠を被った男が跨っている。
「葦原の暴れ小天狗、参上!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。警告とともに颯爽と登場し、祠を見据える。
 そして、目の前の鬼――ルイに視線を移す。
「鬼をも呼び寄せるとは……やはりパンダ像は危険だ」
 実際は違うのだが、角が生えた四メートルの巨漢がいれば、そう思いたくもなるだろう。
「ライザー、ミサイルを発射!!」
「了解です、マスター!」
 牙竜の合図で、迷彩塗装で身を隠していた重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が六連ミサイルポッドからミサイルを立て続けに放つ。
 ミサイルの着弾点は、祠の外周。今まさに契約者同士が戦っている人間の前だ。
 ドドン、という音共に爆風が吹く。
 それがただでさえ乱れている大気に、さらに刺激を与えた。
「どけえ!」
 そのまま煙幕に紛れて中心に向かって駆けていく。
「今だよ、メイベル!」
 突撃時、牙竜はメイベル達のいるルートを通った。その際、馬に乗ったままルイに銃弾と一太刀を浴びせた。
 もっとも、殺傷性はなく、あくまで気絶させるためだが。
 鬼神力による巨体は、力は増すがその分隙が出来る。しかも、爆風にはしびれ粉が混じっていた。それによって、ルイが膝をついている今が、無力化するチャンスだ。
「――――!」
 メイベルら四人によって、ルイが完全に倒れる。
 だが、意識はまだある。
「これで、どうですか?」
 鬼神力の効果が切れた彼に、編み笠を被せる。
「おや、私は一体……?」
 どうやら笠のおかげで正気に戻ったようだ。
「笠を被せれば魅了を解けるようですね」
 それがようやく分かったが、なかなか被せるのも大変だ。

(魅了されている人がこんなにいる。しかも、こんな無茶な戦い方しやがって!)
 ユニコーンに乗ったまま疾走する牙竜だが、この乱戦の中を潜り抜けるのはかなり大変な事だった。
「馬に乗って登場たぁ、随分やるじゃねぇか」
 彼の前に立ちはだかるのは芹沢ら新撰組の面々だ。
 明倫館で芹沢の指導を受けた事があるが、第四階梯の人間すら軽々とあしらう彼には到底敵いそうもない。そうでなくとも、敵が多い。
「悪いが先生、今は授業じゃないんだ!」
 しびれ粉を撒きながら、カーマインで弾丸を放つ。
 彼の攻撃に合わせ、物陰のリュウライザーがミサイルを撃ち出した。
「パンダ様に危害を加えるやつは俺の屍を越えていけぇえ!! 気合の……一撃っ!」
 ユニコーンに乗っている牙竜に向かって、真正面から槍を突き出してくる。
「――!!」
 それを短刀で何とか止めるが、バランスを崩しユニコーンから落ちる。その直後に、リュウライザーのミサイルが敵に着弾する。しかも、そのミサイルの弾の中身は粘着製の接着剤だ。
 足止めをするためにも、再びユニコーンを呼び寄せ、飛び乗ろうとする。だが、
「……ぐ」
 原田が繰り出したその身を蝕む妄執。その効果によって幻覚を見せられてしまう。
「こんなところで、立ち止まってたまるか!」
 幻覚は一過性のものだ。何とか立ち直るも、その時には目の前に芹沢が立ち塞がっていた。
「さて、せっかくだ。どんだけ成長したか見せてくれや」
 一歩ずつ、芹沢は牙竜に接近してくる。
 が、これはこれでいい。止めておくべき人間を止めていられるのだから。
「…………」
 祠の方を見る。
 トラッパーとサイコキネシスで、こっそりと登山用ザイルをパンダ像の近くまで伸ばしている。だが、
「どれが本物だ?」
 メモリープロジェクターで投影されているフェイクまで混ざっている。これは面倒だ。
 考える。
 まだ誰もザイルには気付いてない。このまま罠を作動させる事が出来れば、像を確保して破壊する事が出来る。
 だが、壊そうとして大丈夫なのか。
「魅了されてるヤツらは俺達が抑える! パンダ像を真剣に調べたいヤツ、持っていけ!」
 短刀とカーマインを構え、芹沢と向き合う。
「覚悟は出来たみてぇだな。始めようぜ」

            * * *

(よし、今のうちに)
 守りが手薄になってきたところで、秋月 葵(あきづき・あおい)が一気にパンダ像に接近する。
 百合園生である彼女だが、やはりハイナとの取引のため、引き続き明倫館に協力している。
(今度こそ、ハイナちゃんからたっゆんになるための、バストアップのコツを教えてもらんだ!)
 パンダ像がどうというよりも、それが彼女にとっては重要だった。そう、せめてもう少しだけ胸があれば、「小さい」と言われる事も減るだろう。
 だが、彼女の背丈でハイナクラスのバストサイズ(推定GかH)までいったらさすがにアンバランスであるが。
 とはいえ、リボンで飾りつけた編み笠を被り、魅了されないようにする。様々な魔法が交じり合った強風のせいで、油断していると飛ばされかねない。
(あんな風に飛ばされたら大変だもんね)
 その笠には水色と白のチェック柄のリボンが巻かれており、葵には見覚えがあったのだが、大して気には留めなかった。
 ハイナとの取引のため、パンダ像を確保しようというのは何も葵だけではない。
「この前は奪われちゃったけど、今度は渡さない!」
 無人島での雪辱を果たすため、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が燃えている。だが、彼女はパンダを確保した先を見据えていた。
「めいりんバーガー食べ放題の権利がかかってるんだから!」
 ハイナとの交渉は既に成立している。めいりんバーガーのためなら全力を出す事も惜しまない。
 どんなにパンダを奪還して疲れたとしても、めいりんバーガーが食べられればそんなものは一瞬で消し飛ぶ……はずだからだ。
 もはや風というよりは嵐の様相を呈しているが、この魔法の奔流を抜ければそこにパンダ像はある。
「パンダ様は絶対に守る!」
 まだ辛うじて動ける者が、それでも美羽や葵を阻んでくる。
「美羽は傷つけさせない!」
 美羽のパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、パンダ信者の攻撃を幻槍モノケロスで受け止める。
「今のうちに!」
「うん!」
 ヒプノシスで眠らせようとする。
 これまでも何人もが狂信者達を眠りの底へ誘おうとしたが、失敗してきた。
 だが、像を守る戦いで疲弊してきている今なら、効くかもしれない。
「お願い、眠って!」
 そこへ、同じように像を目指している葵もヒプノシスを行使した。二人分の催眠術によって、ここに来て初めてまともにヒプノシスが機能した。
「あと少しだよ!」
 彼女達は百合園、蒼学と、明倫館の生徒ではないが、立派な協力者だ。
 祠はもう見えている。
 百葉箱のような形状ではあるが、三百六十度どこからでも見えるようになっている。だが、その中にいるのは一体だけではないように見える。
「どれが本物?」
 どれが本物かはまだ分からないが、メモリープロジェクターだろうがミラージュの応用だろうが、触れる距離まで行けば分かるはずだ。
「危ない!」
 上空からワイバーンが飛来。何体やってくるのだろうか。
 コハクが飛び、槍でワイバーンを突く。美羽が像まで行けるように、彼はそのフォローをしている。
 一方の葵は、空飛ぶ魔法で飛びながら目指している。バーストッダッシュで移動している二人よりは高度が高い。
 だからこそ、より広い範囲を見渡せる。
「どれが本物か分からないなら、これでどうかな?」
 サイコキネシスをパンダ像に向けて放つ。メモリープロジェクターの映像だったら、これでぶれるから一目瞭然だ。
「よし、あれが本物だね……ん、あれはエミカちゃん、だよね? 笠は被ってないって事は」
 魅了されている。だが、彼女にエミカは気付いていないようだ。むしろ、目の前の男に紫電槍・改を構えて迫っているように見える。

            * * *

「ぱんだ様は言っている――我を愛せよと」
「あの……エミカさん?」
「正悟君、頼みってなーにー?」
 ここで、「パンダ像壊すからそれ(紫電槍・改)貸して」と言ったら、その瞬間エミカに刺されるのは確実だ。
「いや、ごめん、なんでもないんだ」
「ふーん、そーなんだー」
 髪を下ろしているといつもより大人っぽく見えるなあ、なんて思っている場合ではない。何だか彼女の笑顔がとっても不気味に、正悟には映った。
「こっちおいでよー、一緒にぱんだ様のために戦おうよー」
 手招きしているが、行ったら危険だ。
 パンダ像はもう少し、何とか祠の前まで出れれば。
「ああ、そうだね」
 エミカの方に向かって歩き出す。そのまま彼女に向き合い、何とか自分が祠に背を向けるように位置を調整する。
「でもごめん、エミカさん」
 準備は整った。
「嘘は良くないよ」
「……何のこと?」
「本当はAなんだろ? あの時のBの感触、あれは本物じゃない。あの残念さでさえ、パッドでの誤魔化しだったなんて!」
 あとはもう、祠に向かって走るだけだ。魅了されているから、例え怒りに駆られてもパンダ像を壊すような攻撃は……
「デストロイモード、起動」
「……やっぱり?」
「正悟君、君の敗因はたった一つのシンプルな答えだよ」
 目つきが海京の時よりもヤバイ。正悟も、決して好きで言っているわけではない。像を破壊するにはこれが一番確実だからだ。
 背を向けているといえ、まだ多少の距離はある。これ以上近付くと他の魅了された人の攻撃範囲に入る、それを考えてだ。
「二度もあたしを怒らせた」
 次の瞬間、パンダ村に雷鳴が響いた。