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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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4.謎を追う者 前


 つい先日まで客寄せパンダが存在していた無人島。
 佐野 亮司(さの・りょうじ)はそこを訪れていた。
「静かだな」
 前に来た時は、亡者達がパンダ像を守ろうと行く手を阻んできた。ところが、今はアンデッドの気配すらない。
 島からパンダ像がなくなった事で、それを追って島から離れていったのだろうか。雲海をふわふわと漂い像を求めて進む様は、さながら百鬼夜行だ。想像すると非常にグロテスクである。
 前に来た時にあった死体やアンデッドの残骸がない事を考えれば、そのような亮司の想像も強ち間違ってはいないのだろう。
(この前に調べられなかった場所も調べてみるか)
 とはいえ、単にこの島を再調査する分には、誰もいないのは好都合だ。今の彼は一人だという事もあり、何者にも邪魔される心配はない。
 一応は明倫館にはこの島を調査するとは申し出ている。これ以上調べても進展はないだろうとは言われており、現にほとんどの者は客寄せパンダ村へと向かった。無論、亮司自身もパンダ像に関する発見を期待しているわけではない。
 それよりも、パンダ像がなくなった事で、島にどのような影響が出るのか、それが知りたかった。パンダ像を座敷童子に置き換えて考えれば、何らかの変化があって然るべきなのだが……
(アンデッドがいなくなった事くらいか)
 ただ、それはかなり大きな変化だろう。死してなお像にすがる亡者が、島から離れたパンダ像の影響下にある。それは、客寄せ(人寄せ)の力がそれだけ大きいという事だ。むしろ、
(パンダ像の力が増しているのか?)
 増している、というよりは封じられていた本来の力が戻りつつある、というのが正しいのだろう。おそらく、今は像に魔封じは施されていない。だから人を集めて集落を作っているのだ。
(とはいえ、これ以上の進展はやっぱりなさそうだな。一応、前に持っていけなかった遺留品を少し積んでいくか)
 劣化して読めなくなっている資料でも、空京大学でならある程度の解析は出来るかもしれないと考え、出来る限り運ぼうとする。
 ある程度気になるものを得たところで、亮司は島をあとにした。

            * * *

 空京大学図書館。
「ねーさま、この前の無人島の出来事を整理してみようよ」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、客寄せパンダ像の情報をまとめるため、ここに来ていた。
 大学なら、この手のものに精通している民俗学の教授がいるかもしれない。話を聞ければいいのだが、その前にある程度自分達なりに知っている事を整理する必要があった。
「あの島の記録にはこうありましたわね。『わた……ここ……ダ様……見い出……新た……人を迎……も益々……れも……おかげ……』と。ここだけを見れば、パンダ像のおかげで繁栄したというように推測は出来ますわ」
 途切れ途切れだが、ある人がパンダ像に魅了され、さらにその力で引き寄せられた人々によって村が活気づいた。それによって尚更「パンダ様万歳」となったと考える事が出来る。
「ですが、その後には『争』『嘆』『飢』『恐』『死』などイメージのよくない文字が書かれていましたわ」
 繁栄したにも関わらず、なぜそのような負の流れが生じたのか。それも含めた上で、美海が仮説を打ち出す。
「わたくし思いますに、町がパンダ像の力で発展したものの、その力が強すぎて、やがて人はパンダ像を求めて争いだしたり、ますます増えるお供え物で人々が飢えたりし始めたのかもしれません。そして、その影響で亡くなった方が、アンデットとしてパンダ像に使役させられてしまったのかもしれませんわね」
 概ね的を射ている意見であるようには思えた。特に、「飢え」というのが重要なキーワードにも感じられる。
 人が最も恐れるのは、食糧の枯渇だからだ。
「……そうだよね。パンダ像の力は強くなってきてるみたいだし、町も作られてる。このままだと、記録にあったような災厄が訪れちゃうかもしれない」
 人は外に出ない、それでいて魅了される事によって増え続ける人口。平穏が長く続くとは、沙幸には思えなかった。
「その記録、最後は、『……により……印す。我等とこし……守……巫……なり』で締めくくられてたよね。ってことは、巫女さんがパンダ像を封印したんじゃないかな?」
 文章から、パンダ像を御神体とした共同体のようなものだったと想像する。そうなると、神主なり巫女なりがいて、その人が像の力を抑える術を知っていたのではないのか。
 沙幸は思考を巡らせる。
 魔封じの籠、それと同じ素材で作られ、同様の効果を持つ編み笠。籠は力を確実に弱めていたらしいので、そこに何かヒントがあるように感じられた。
「編み笠を作った人なら、詳しいかも」
 ここまで考えたところで、話を聞きに行こうとする。しかし、記録があったのは葦原であり、編み笠を用意したのは明倫館だ。
 今回の一件はアクリト学長だけでなく、民俗学者にとっても興味を引かれるものに違いはなかったのだが、空大もまだ調査に取り掛かったばかりというのが現状だ。
 葦原に足を運んでいれば、もしかしたら何か発見があったのかもしれないが、彼女達が掴んだのは、「争いを止めるため、パンダ像を封印した可能性がある」という事であった。

            * * *

 その頃、パンダ像のある村をアンデッドが取り囲みつつあった。
「まさかこないぎょうさんおるとはなあ」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は苦い顔をしたまま、迫り来る亡者達と戦っている。
 像がただ人を集め、繁栄をもたらすものだとは考えてはいない。むしろ、その力はかえって危険なものだという予想はしていたのだが、これはいよいよもってその通りであるような気がしてきた。
 死した者を今もなお魅了し続けているというのは、もはや「呪い」と言っていいのではないだろうか。
 ある程度の距離を取り、火術で応戦する。アンデッドを退けるにはこれが最も効果的だ。とはいえ、彼の目的はあくまでも引き寄せられるアンデッドの調査であり、状態が分からなくんあるほど傷つけるわけにはいかない。
 火はあくまで自分に接近させないため、攻撃はスリングを用いて足下を重点的に狙う。
(ん、なんや? こいつら、あの島におった……)
 ふと、亡者達の顔ぶれを見る。無人島で倒したアンデッドの服装や特徴は、粗方チェックしている。人の原型をギリギリで留めている程度のものがほとんどではあるが、やはりあの無人島で遭遇したアンデッド達と同一であるようだ。
(わざわざパンダ像を取り戻しに雲海を渡ってきたんか)
 パンダ像の力が、おそらく彼らを引き寄せているのだろう。前に配られていた籠には魔封じが施されていた。それはつまり、
(像は籠には収められていない、ってことやないか)
 だからこそ、人だけではなく、それ以外のものも引き寄せ始めたのだと泰輔は確信した。
 そして彼は思考を巡らす。
(像のパワーを抑えないから、こいつらが渡ってきた。でも、それならあの島に入った時点でこいつらが動いていた理由にはならへん。あの祠の様子も考えれば、封印に綻びが生じていた? だからこいつらは像を僕らから死守しようとしたんか?)
 それでも疑問が生じる。それならば、封印した状態で祠を作って放置した事になる。封印を施すという事は、それが危険だと分かっているからこそやる事だ。
(パンダ像を壊さず、封印するだけにしたのはなんでや? いっそ壊してしまった方がよかったような気もするんやけど……)
 そこに引っ掛かりを覚えつつも、答えに辿り着くのは難しい。亡者を調べるだけでは、そこまではなかなか見えてこないのだ。