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第5章 秘めた真意Story2

-PM17:00-

「鎌鼬さん・・・知らない間にお家を出てしまうなんて。でもきっと何か理由があるんですよね!―・・・うぅ・・・でもお化けさんは怖いです」
 ロビーにいる咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、真っ暗な廊下を歩きながらプルプルと震える。
 テンションが上がったり下がったりする彼女の姿に、アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)はおかしそうに笑いを堪える。
「とり憑き殺そうとしてくるのもいるんですよね。あぅー・・・そんなのに出会いたくないです、出ないでくださいよー・・・。はぅっ!?」
 俯きながら歩いている由宇が、ゴツンッと柱におでこをぶつけてしまう。
「ちゃんと前を見て歩きなよ。視界も悪いんだから、目もしっかり開けてさ」
「へぅっ・・・はい」
 顔を上げた瞬間に恐怖度が増し、がくがくと足を震わせながら進む。
「ね、ねぇアレンくん。何か聞こえません?」
「ううん、聞こえないけど」
「ぁあぁぁって女の声が・・・外階段の方から・・・」
「風の音じゃないか?怖いと思うとそういうふうに聞こえるんだよ。で、怖いと思ってるとありもしないものが見えたり、本物が寄ってくるんだよね」
「はぅう!?最後の本物って何ですかっ」
 さりげなく追い討ちをかけるようなことを言う彼の袖を引っ張る。
「本物ってアレに決まってるじゃないか。―・・・あなたが知らない・・・・・・あっちの側の住人・・・。なんてねっ」
「きゃぁあ、やめてくださいっ。―・・・つぅっ」
 アレンの顔を叩いたつもりが、壁を叩いてしまい片手がヒリヒリと痛む。
「(からかうと面白いね、本当に・・・)」
 ドジな彼女にニヤニヤと笑う。
「ん・・・何か聞こえるね」
「やめてください!お化けさんじゃなくて風ですからっ」
「いや・・・足を引き摺る音がエレベーターがあるところから聞こえるんだ」
「風です・・・風なんですよっ」
 恐ろしさのあまり由宇は両手で耳を塞ぐ。

 フッフフフッ、フフフッと不気味な笑い声がだんだんと近づいてくる。
「―・・・怖いですぅうっ。うぅ、でも怖がってがってばかりじゃ、鎌鼬さんに会えないです!」
 超感覚で音感を高め、レクイエム調のメロディに幸せの歌を乗せてギターを弾き演奏する。
 しかし霊が動きを止める気配はなく、フフッ・・・フッ・・・フフフッ・・・と笑いながら迫る。
 霊にとって幸せは生者に対しての嫉妬を増幅させてしまう。
「スピリットの方か・・・ちょっと厄介だね」
 通り過ぎるのを待とうと、アレンは由宇と椅子の傍に屈んで隠れる。
 血のような赤いワンピースを着たどす黒い肌の女の霊が、2人が隠れている傍を通る。
 窓に映る姿は顔面がめちゃめちゃに潰れ、歪んだ唇から笑い声を漏らている。
 隠れている近くで探すように摺り足で徘徊していたが、見つけられなかった様子で悪霊はそこから離れていく。
 たった数分のことだったが、由宇にとっては数時間も絶えた感じだった。
「な、何ですかいまのは!ははははは早くロビーから出ましょうアレンくんっ」
 一刻も早くその場から離れようとアレンの肩を掴みがくがくと揺らす。
「分かったから離してくれ!」
「あぅ、ごめんなさいです。取り乱してしまって」
「それよりも早く見つけに行かないとさ」
 カーペットから立ち上がり、彼女の手を引いて立たせてやる。
「鎌鼬さん・・・こんなところにいて平気なんでしょうか。いいえ、平気なはずはないです!お化けさんに会ったら泣いちゃうはずですっ」
「うん・・・?そうだね」
「早く探して保護しましょう!」
 アレンの腕を引っ張り中庭へ進む。



「誰かしらあの女・・・悪霊じゃないみたいだけど」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は煙管を吹かしながら歩く女の姿を見つけ、物陰からそっと見る。
「きっとあれが十天君ね・・・見つけたわ。でも変ね、鎌鼬ちゃんがいないわ」
 秦天君の傍に妖怪の少女がおらず、中庭を出ようとする女の周囲を見回す。
「生徒に捕まっちゃってる!?」
 中央へ視線を移すとグレンが簀巻きにされた姿の少女を抱えている。
 しかし彼が捕縛したのではなく、鍬次郎が投げ渡したのだ。
「状況が見えないけど、グレンさんたちなら危害をくわえないと思うから鎌鼬ちゃんのことは後ね。今は魂探しをしようとするあの女の邪魔をしなきゃ!」
 2本の槍を握り配達用ローラーブレードのスピードを利用し間合いを詰める。
「十天君の傍に誰かいる・・・2人も!?」
 殺気看破で察知し、足を狙う刃を間髪槍で防ぐ。
「ちっ、気づかれたか」
 姿を隠していた鍬次郎が舌打ちをする。
「お姉ちゃんで人形遊び・・・、出来なかったの・・・」
 ハツネは白狐のしっぽをふりふり揺らしながら不満そうな顔をする。
「待て秦天君・・・そいつらと行くな」
 説得に持ち込む機会を失ってしまうと、グレンがアヤカシの女を追ってきた。
 注意が彼女に向いている隙にと新兵衛が彼の手から鎌鼬を取り戻し、ロープを解いてロビーへ走る。
「もう1人いたのか・・・っ」
「秦天君と戦うならまず俺たちを倒してみな」
 傷つけさせるものかと鍬次郎が歌菜を挑発する。
「あの村で旅人さんの命を狙ったり村の人たちを殺したやつらね!」
「そうだぜ。俺らが何人かぶっ殺した影響で大変なことになったみたいだな?クククッ・・・」
「退きなさいよ、邪魔するなら容赦しないわっ」
「いやだっつたら?」
「気絶させるまでよっ」
 怒った歌菜が鍬次郎の頭部をぶっ叩こうと狙う。
「相手は俺だけじゃねぇぜ?」
「ばいばい・・・お姉ちゃん、お兄ちゃん」
 ハツネは2人が話している間に仕掛けたトラップで歌菜を襲う。
 プチンッ。
 照明に引っ掛けたワイヤーを切ると台所にあったナイフが落ち、歌菜とグレンの首を貫こうとする。
「これくらいじゃ私たちは倒せないわよ!」
 魔鎧のマントでガードし、ナイフを弾き落とす。
「―・・・どこに消えた?」
 ナイフに気をとられている間に、目の前にいたはずのハツネたちの姿がいつの間にか消えている。
「じゃあな、ガキども。せいぜい悔しがって絶望に落ちろ。クククッ、はっははは!」
 鍬次郎たちは秦天君と共に、暗闇の中に身を隠すように逃げる。
 鎌鼬を逃がした新兵衛は、ロビーの椅子の上にちょこんと少女を座らせる。
「ここにいれば・・・、誰か来るはずだ・・・・・・。傷・・・大丈夫か・・・?」
「うん・・・ありがとうクマたん。かわいい♪」
「そうか・・・?」
 もふもふっと抱きつかれた彼は少女の頭を撫でてやる。
「もう・・・行かなくては・・・・・・。外道はどうでもいいが・・・・・・お嬢が待っている・・・。誰か来たようだ・・・元気でな・・・・・・」
 新兵衛は少女をそこへ残して壁際へ隠れる。
「中庭にもいなかったですね」
 残念そうにしょぼんと歩き、由宇たちがロビーへ戻ってきた。
「あっ、アレンくん。椅子のところに鎌鼬さんがいます!」
「やれやれ。これでもう歩きまわらなくて済むかな」
「ギター弾きのお姉ちゃん・・・」
「突然お家からいなくなっちゃうから心配しちゃいましたよ」
「(さて・・・、戻るか・・・)」
 由宇たちなら任せても大丈夫だとほっと息をつき、新兵衛はハツネたちの元へ戻り合流する。



「鎌鼬さんが怪我してるじゃないですっ」
 少女の傍へ駆け寄り、由宇は大地の祝福で足の怪我を癒す。
「どうして・・・こんなところに1人で来たんですか?」
 じっと見据えて何の目的で危険なゴーストタウンに来たのか聞く。
「うん・・・魔女ちゃんの魂をドッペルゲンガーに取り込ませて、秦天君たちが悪用しようとするから止めたいの」
「きっと皆が頑張って取り戻した魂も吸収させようとするはずだよ。全部奪われたら・・・本物の魔女ちゃんが消えちゃうんだよぉ・・・」
「今の話・・・本当なの!?」
 中庭からやってきた歌菜が驚愕のあまり目を丸くして声を上げる。
「そうだよぉ。―・・・各地のいろんなところを闇世界化しようとするかもしれないし」
 生きる者を抹殺しようとする死の満ちた世界に変わってしかもうかもと言いプルプルと震える。
「ゴーストタウンの外が現実世界って思うかもしれないけど、現実とあまり変わらないんだよぉ?魔女ちゃんが悪夢を見るとその影響で、闇世界が出来ちゃうの〜」
「村は完全に闇世界化する前に元に戻りましたよね。でも侵食されて最悪の場合・・・、現実のものになるってことですか」
 あのまま現実化していたら鎌鼬はもうこの世にはいなかったのだと、由宇は少女をぎゅっと抱きしめる。
「悪霊たちと戦うことが出来たとしても、毎日そんな日々が続いたら気がおかしくなっちゃう人もいるかもしれないわ・・・」
 もしもそうなってしまったと思うとぞっとすると歌菜は最悪な状況を想定して呟く。
「このマンションはお姉ちゃんたちが校舎や病棟に行く前に、すでにゴーストタウンにある建物なの」
「そうなの?近くになかったから全然気づかなかったわね。分かっててもその時、ここには兵器作りを止める関係があるものがないはずだから行かなかったと思うけどね。病棟からかなり遠いみたいだし、何かを運ぶにしても行き来するのに不便だもの」
 他の建物もあるのかと歌菜は頷きながら聞き、ゴースト兵器作りに関係ない場所だし十天君は来ていなかったはずと話す。
「あ、そうだ。お腹減ってない?お菓子作ってあげるわね」
 虹色スイーツを鎌鼬に作ってやり食べさせた。
「食べながらでいいんだけど、他に何か知ってることがあったら話してくれないかな」
「んー・・・ゴースト兵器の作り方の資料ね、まだ他の十天君が持ってるの。作れるお姉ちゃんが封神されちゃったから今は作ってないよ」
「その女以外に作れるやつはいるの?」
「うーん・・・いるかもしれない。資料があるからある程度、十天君の誰でも作れるんだよぉ。でもねぇ、難しいのは作れないのぉ」
「そうなの。(よかった、あんなのがまた出ることはないのね)」
 蛇女や裂けた心臓から酸を吐き出すゴーストは作れないと分かり、歌菜はほっと息をつく。
「ゴーストだから細胞変化を起こして進化するものはいなさそうですよね?」
 彼女たちの話を聞き、由宇が問うように話しかける。
「えぇ、殺菌を使ったものだとかじゃないからね。殺すことだけのために進化させられたら最悪よね・・・」
「一番不味いのは命令する者がいなくなって暴走することか?」
「そんな・・・まさか。ゴースト兵以外の兵器は試作段階だから時間が経つと消滅しちゃうみたいですし」
 さらりと強烈なことを言い放つアレンに由宇は頬から冷や汗を流す。
「魂を吸収させるのを止めるにしても、他の生徒たちと安易に合流は出来ないな。まだ警戒しているのもいそうだからさ」
 アレンは妖怪の少女を横目で見て、さてどうしたのもかと言う。
「私は仲間から連絡をもらったらそっちに行くかもしれないけど、鎌鼬ちゃんと3人だけで大丈夫・・・?」
「まぁ、その時はその時で考えるさ。オレたちのことは気にしないでくれ」
「鎌鼬さんを連れて行かないでくださいね。殺されちゃうなんていやですし」
 ぎゅうっと抱きしめたまま、由宇は不安そうに歌菜を見つめる。
「さてと、話がだいたいまとまったところで、他の階に移動しようか。さっきこのロビーに悪霊がいたから、また来るかもしれないよ」
 顔を蒼白させる由宇の頭をぽふぽふと軽く叩き、アレンたちは2階へ向かう。