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リアクション
5.救出作戦決行
事件のことを耳にしたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、協力を申し出た。
「悪漢退治なんて、面白そうじゃないですか」
と、にこにこしながら言う。
トレル救出が最優先であることは分かっていたが、それよりもエッツェルは悪漢たちとの戦闘に興味を持っていた。
アジトの場所を探す途中、鉄心たちと合流した綾香は言う。
「まあ、いいだろう。トレル救出班と、退治班に別れて効率よくやろう」
「相手が何人いるかは分かりませんから、誰がボスを狙うか、あらかじめ決めておくべきですわ」
すかさず名乗りを上げたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。連絡を受けて駆けつけたばかりのルカルカは、元気よく言う。
「はいはーい! それはルカに任せてっ」
全員が彼女を見ると、鉄心が口を開いた。
「でも女の子が一人で立ち向かえるとは限らない。俺も行くよ」
そして彼は言う。
「ティーは、トレル嬢の救出に向かってくれ」
「分かりました」
すると綾香とアンリがティーへ顔を向けた。
「私も手伝おう。邪魔者がいたら排除してやる」
「そうですわね、私も協力しますわ」
ふいに頭上で風を切る音がした。一同が空を見上げた直後、唯斗がワイバーンから降りてきた。
「俺たちも仲間に入れてくれ」
と、着地する唯斗。後に続くようにして、エクスと紫月睡蓮(しづき・すいれん)、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が到着する。
「友人のためなら労力は惜しまぬ」
「私も兄さんたちの役に立てるよう、がんばります」
「喜んで協力いたします」
これで役者は揃ったかに思われたが、もう一人、近づいてくる足音がした。
「遅れて悪いな。オレも協力するぜ」
武尊だった。彼を知るものは少し驚いた様子だが、決して悪い人ではない。協力してくれるというのなら、それを拒む理由もなかった。
「日が沈む前に、片を付けようじゃないか」
どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのだろう。ただ拘束されているだけだからましだけど、こんなこと園井にも父親にも話せない。
それよりも、アジトが街外れの廃工場とはベタすぎる。広さは十分にあるけれど、そのおかげで組織が小規模でないことだけがはっきりと分かる。耳に入ってくる情報によると、彼らは他にもいろいろとやらかしている様子だ。
助けてほしいだなんて口にはしたくないけれど、見捨てられるのはもっと嫌だった。だからこそ、トレルは心の中で願う。誰か、助けに来て――!
「来ました! あいつらです!」
工場内がざわめき、一人一人が武器を取り、戦闘態勢に入る。
トレルを見張っている男は、トレルを見下ろし、にやりと笑った。
「良かったな、お嬢様。助けに来てもらえて」
その言い方が気に食わず、トレルはむっとした。柱に自分を縛り付けているロープさえ切れれば、あとは一人でだって逃げ切れるのに。
そう思っている間にも、悪漢たちは中へ入ってきた勇者たちへ襲いかかっていく。
エクスの『神の目』により暴かれた悪漢たちに、プラチナムの『バニッシュ』が襲いかかる。光輝属性のダメージを受けている隙に奥へ向かうティーと綾香、アンリ。
その道を開くようにエッツェルが『アシッドミスト』を、涼介が『凍てつく炎』で相手の注意を自分たちへ向けさせる。
鉄心はボスの元を目指すルカルカの後を、『迷彩防護服』による隠れ身を使用し付いていく。
「マヤーもやる気なのですねぇ。でも注意しないと」
と、レティシアは所構わず暴れるマヤーを守る盾となる。その横からミスティが『ファイアストーム』で炎の嵐を巻き起こす。
その他大勢の悪漢たちは、リネンが囮役となって引きつけた。そのスピードを武器にかく乱させていくと、フェイミィが『ソニックブレード』を振り下ろす。
「手加減はしないぜっ」
そうして激しい戦闘を繰り広げる仲間たちに、武尊は『弾幕援護』で後方から支援をしていく。
一人の男がマヤーのしっぽを掴んだが、すぐに唯斗が相手の腹に拳を入れて手を放させた。
「お前の相手は俺だ」
と、唯斗が相手に向き合うと、睡蓮がすかさず加勢に入った。
「女が二人で来たところで、勝てると思ってるのか?」
トレルを後ろにして余裕を見せる男へ、綾香は言った。
「それはこちらの台詞だ」
と、『炎の聖霊』を出現させ、その隙に『狂血の黒影爪』により隠れていたアンリが男の喉を潰す。
すかさず『バーストダッシュ』でトレルの元へ寄ったティーは、すぐにロープを解いてやった。敵が増える前に、アンリがトレルを抱きかかえる。
「トレルお嬢様、すぐに出口へ向かいましょう」
綾香が『光条兵器』で応戦する中を通り抜け、ティーが『警告』を発する。
「教導団です、神妙にお縄について下さい!」
しかし、それが効く相手ではなく、ティーはすぐに拳をぐっと握りしめた。『則天去私』による実力行使に出たのだ。
敵味方が入り乱れる中、アンリはトレルを傷つけまいと『悲しみの歌』を歌いながら出口を目指す。
ボスを守る幹部らしき男たちへ、ルカルカは両手に装備した『レーザーガトリング』を放った。それに加えて『スプレーショット』を使用し、容赦なく撃ちまくる。
鉄心はその間を縫うようにしてボスへ近づくと、『さざれ石の短刀』を突きだした。
「教導団です。命が惜しければ降伏してください」
「くっ……分かった。やめろ、お前ら! 今すぐ、戦闘をやめるんだ!」
と、部下たちに言いつけるも、混戦した工場内にその声は届かずに消える。
かろうじて幹部たちはルカルカへの応戦の手を止めたが、そのことにも気づかないほどその他の男たちは戦いに夢中になっていた。
トレルの無事を目で確認したマヤーは、無防備なまま駆け寄った。
「にゃあうー」
喜びを身体で表現するマヤーだったが、隙だらけになっていた。男が刀を振り下ろそうとしてきて、レティシアが間へ入る。
「マヤーも一緒に外へ逃げるです」
惜しくも止められなかった刀を身に受けるレティシア。すぐにフェイミィの従者たちが援護をし、男はあっという間に不利へと追いやられる。
仲間たちの姿にマヤーはどきっとすると、出口へ向かって走り出した。
「……にゃん!」
その後を、トレルの盾になりながらアンリが追いかける。
出口までもう少しという所で、数人の男たちが行く手を塞いだ。立ち止まったマヤーは高ぶる感情を抑えつつ、トレルを無事に逃がす方法を思考する。
――それはほんの一瞬だった。すっかり怯えきったトレルめがけて、銃弾が放たれた。
「……っ!?」
アンリが機転を利かせたおかげで弾はトレルの左腕をかすっただけで済んだが、その衝撃でトレルが床へ落ちてしまう。すっかり腰を抜かしたトレルにマヤーが駆け寄り、かばうように覆い被さる。
その向こうで、男たちが炎と氷に襲われるのを見た。相反する二つの力に翻弄され、武器が、人が、血が滴り落ちるのを。
どうしたらいいのか分からなくて、ただ自分を守ってくれている猫娘の凛々しい表情だけが頼りで、トレルは右腕を上げてマヤーの頬を撫でた。きょとんとした様子で、猫娘が目を丸くする。
「こっちです!」
外で待機していた凶司とエクスが声をかけ、マヤーとトレルを立ち上がらせた。
おぼつかない足取りで外へ出たトレルは、すぐに石に躓いて転んでしまう。
未だ、工場内からは戦闘の音が聞こえてくる。
凶司に支えられて再び立ち上がったトレルは、安全な場所へと誘導される。
――思えば、今回の一人旅は一人ではなかった。懐いてくる猫娘を邪険にしていたが、本当は目が合った時から離れられなかった……。
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