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マホロバで迎える大晦日・謹賀新年!明けましておめでとう!

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第二章 大奥見学ツアーッ! 1

 年の瀬。
 マホロバ城下では、いたるところに立て札が立てられていた。

『大晦日と元旦の二日間のみ大奥解禁! 
大奥見学ツアーッ!
通常は男性も入れない禁断の園にアナタも特別ご招待!!』


「ふふふ……見学者が続々とやってきてるようでありんす。これで大奥の財政も潤うってもの!」
 葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)は頭に鉢巻を、牛乳瓶底眼鏡を掛けて、ソロバンをはじいている。
 ちなみにこれらのアイテムは実は、鉢巻は超高性能ケータイアンテナ、眼鏡は米軍特製ナイトビジョンゴーグル、ソロバンは最速CPU搭載の最新小型HCである。
 ハイナのパートナー葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)が、不安そうに見つめていた。
「いいのでしょうか。本来、女性だけが住む大奥に男性が立ち入るなど……何かが起こってからでは遅いのでは」
「大丈夫でありんすよ。鬼鎧は待機させてるし、いざとなったら、マホロバ城の地下座敷牢にでも放り込めば……」
「それは犯罪です!」
「おや……誰か来た様でありんすね」
 奥医師に付き添っていた本郷 翔(ほんごう・かける)が顔を出す。
「ハイナ総奉行様、今回のガイド。私が承ります。大奥に出入りしてる間に、それなりに中のことに精通しているつもりです。見物に来た方も、大奥にいる方も、満足していただくように尽くしますよ」
「頼んだでありんす。これにはわっちらのお餅代……いや、大奥の未来への希望がかかってるやんすよ!」
「はい! 頑張ります」
 恭しく礼をして部屋を後に翔。
 房姫はますますあきれ果てていた。
「ああん……もう。皆さん勝手ばかり。私だけいつも心配する損な役ばかりなんだから」
「え? 何か言ったでありんすか?」
「い、いいえ。それより、こうなったからには私たちも準備しましょうか。せっかく来ていただいた方を、おもてなししないわけにもいかないですからね」
 房姫はいきなり着物の袖をまくっていた。
 俄然やる気をみせている。
「マホロバ大奥の料理。是非ともご堪能いただきます」
 今度はハイナがびっくりする番だった。
 あの(清楚可憐で本編で全然目立たなかった)房姫が本気だ――?!
「そ、それはまことにめでたい、でありんすね」
 ただならぬ予感を感じ、ハイナの頬が引きつっていた。

卍卍卍


 大奥に入口にある広敷(ひろしき)に、大勢の見学者がいったん集められていた。
 ここから御根口(おねくち)を通り、大奥に入る。
「えーと、まずこちらの地図を受け取ってください。大奥の内部は迷路みたいになってますからね。初めての方はまず間違いなく迷いますからねー」
 御根口では大奥の女官竹中 姫華(たけなか・ひめか)が大奥の地図(姫華作)を見学者に手渡ししていた。
 姫華の地図は見学者にとってありがたい存在である。
「ねえ、姫ちゃん……ボク思うんだけどさ」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が見学者たちを横目で見ながら、ふと我に返ったようにぽつりと言った。
「こんな風に平和に大奥の見学ツアーなんてやってていいのかな? アレは明らかにシリアスだったよね? あの終わり方はシリアス以外の何ものでもないよね?!」
 氷雨はさらにぶつぶつと独り言を続けている。
「アレか! 『パラレルだから大丈夫ーっ』て、どこかのCM『100人乗っても大丈夫ー』なノリなのか! そうなのか!? ならしょうがないね、パラレルだからしょうがない!!」
「もうー氷雨くん! 落ち着いて! 中の人出てるから。むしろ憑依してるから。しかも自己完結してるし!」
 姫華は氷雨を正気づかせようと肩を掴んでぶんぶん振っている。
 氷雨はようやくはっとした顔で彼女を見た。
「あれ、ボク……何か言ってた?」
「うん、何かが乗り移ってた」
「あれ、ううん。何かを言おうとしていたんだ。えーと、そうだお蕎麦だ! ボク、お蕎麦って食べたこと無いんだ。だから、おうどんでもいいのかな?」
 突然訳のわからないことを口走ったり、蕎麦やうどんがどうのと言い出す氷雨。
 しかし、姫華は怒ることなく、氷雨に優しく教えてやった。
「そうだね、お蕎麦は『細く長く達者で暮らせるように』って意味があるらしいんだけど、『太く長く』って意味でおうどんを食べる地域もあるみたいだよ。だからどっちでもいいんじゃないかな?」
 姫華はいそいそと酒瓶を取り出し栓を開けている。
「え、姫ちゃん。それってどっから……」
「フフフ、氷雨君。さっきの大奥の地図、誰が書いたと思ってるの?」
 姫華は据わった目で含み笑いをしていた。
「もちろん、御台所から失敬してきたのよ。常に自分のための手札は持ってないと。パラレルだもん。固いこと言いっこなしだよ!」
 可愛い顔に似合わず、ぐびぐびと酒をあびるように飲む姫華。
 氷雨は呆然とその姿を見ていた。
「姫ちゃんがここでも……抜け目がなくて怖い」
 きっとどの世界でも彼女はうまくやっていくことだろう。
 そして、何処からとも無くお酒を調達してくるに違いない。
「そういえば、姫ちゃんって、知る人ぞ知る名軍師竹中半兵衛の英霊だったよね。今度、日本史教えてもらおうーっと」
 氷雨はニコニコしながら、地図配りの仕事に戻った。
 一応、アイドルのサインの練習の為に、姫華の地図に自分のサインを入れるのを忘れなかった。