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【怪盗VS探偵】煌めく船上のマジックナイト

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【怪盗VS探偵】煌めく船上のマジックナイト

リアクション

「たまにはこういうのも悪くはない」
 パーティー会場を眺め、互いのパートナー達を見、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は同時に同じ事を口にし、驚いて、互いの顔を見たあと、ゆっくりと笑顔になった。
「あー……その……なんだ……シャノンは綺麗だな」
 今日のシャノンは雄軒から貰った背中の開いた蒼いドレスを纏っており、それに似合うプラチナのネックレスを付けている。
「ありがとう……選んでくれたドレスが素敵だったからだな」
「そ、そうか……?」
 パーティー用のスーツを着た雄軒は照れくさそうに鼻の頭をかく。
「少し外の空気に当たらないか?」
「良いな」
 シャノンの誘いを雄軒は受けた。
「ああ、ちょっと待ってくれ。飲み物を取って来る。温かいのと冷たいのどちらが良い?」
「では、温かいものを」
「ん、わかった」
 雄軒は小走りで飲み物が置いてある近くのテーブルまで行くと、温かいアールグレイティーと冷たいカクテルを持って、戻ってきた。
「ありがとう」
「いや、私が持つ。先に会場の扉を開けてくれると助かる」
 シャノンは飲み物を雄軒に任せ、先に扉のところまで、行き、開ける。
 自分の分の飲み物を持つと言っても、雄軒が許さず、結局船首の方の甲板まで持って行ってくれた。
 甲板の反対側にはルカルカと真一郎がいるが、ちょっと離れているので、互いに気になる距離ではない。
 寒いからか、他に外に出ている人の姿は見られず、恋人同士には良い感じの空間になっている。
「寒い中で飲む、温かい飲み物は格別に感じるな」
「暑い日にキンキンに冷えた麦茶やビールを飲み干すのと同じくらいにな」
 シャノンはカップの紅茶を一口すする。
 とりあえず、飲み物は近くに設置されているテーブルの上に置き、海を見ながら会話を楽しむ。
「ふふ、本当に……その、シャノンが傍にいて、嬉しいな」
「私もだ……雄軒」
「少し寒いんじゃないか?」
 来ていたスーツの上着をシャノンに掛けてやる。
 海を見ていた2人は互いの顔を見つめあった。
 雄軒はシャノンの腕を少し引っ張り、抱き寄せるとシャノンは大人しく従った。
 すっぽりと収まるシャノンが愛おしく、つい、顔をじっと見てしまう。
 見つめられたシャノンはちょっとだけ気恥しく、視線を海の方へと向けようとして、顔を反らした瞬間――頬にキスを落とされた。
 雄軒は、そのままシャノンの耳元に唇を持って行くと触るか触らないかの位置で囁く。
「そんな仕草されたんじゃ、可愛くて、つい……」
「雄軒……」
 2人の仲睦まじい様子を月明りが照らす。

 そんなラブラブの2人の背後には実は護衛が4人も邪魔にならない程度の距離を取っていた。
 互いのパートナー達だ。
「姐さんと雄軒兄さんは相変わらずだな」
「ああ、仲が良いのは良い事だ」
 スーツを着た魄喰 迫(はくはみの・はく)バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)に話しかける。
 バルトは迫があまりにも退屈そうだったので、肩車をしてやっている。
「しかし……よくこのパーティーに入れたな。今でも不思議だ」
「護衛として入れてもらっただけだ」
「それでも止められたけど、その格好はだいぶ威圧的に見えるもんな」
「それで主を守れる場所にいられる」
「そうだな」
 会話が一段落すると、迫は持ってきた料理を口の中に放り込む。
「食べるか?」
「結構だ」
「美味しいのに……こういうのも楽しまないと損だぜ?」
 迫はもう1口料理を頬張る。

 もう1組の護衛は迫とお揃いのスーツを着たマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)と、シャノンとは正反対の真っ赤なドレスを着たミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)だ。
「パーティー会場は慣れない感じがしたから気後れしちゃったから、こうやって外に出ると落ち着くわ」
「ふーん……なんかドレスに気合は入ってるよね」
「そ、そりゃそうよ! だって、パーティーだもの!」
 真っ赤なドレスは胸を強調したもので、右側の腰から裾に掛けての大きなフリルが印象的だ。
「ああー……でも、あの2人……素敵よね」
「そうだね」
「いつか私にも素敵な恋人が……」
「そうだね、現れると良いね」
「あ、そうだ、お姉さんが料理食べさせてあげる」
「そうだね」
 横にいたマッシュの気のない返事が気になり、横を向くと、マッシュは楽しそうにルカルカを見つめて、今にも飛びかかり、石化させそうになっていた。
「こーら……ダメよ、マッシュ、てぇい!」
「ふにゃっ! 尻尾はやめてよ〜」
 ミスティーアはいつでもマッシュの尻尾を握れるようにスタンバイしておいたのが役に立った。
「さ、ご飯食べましょうね」
 ミスティーアは適当に腰かけ、マッシュを膝の上に乗せた。
「フフフ、はいはい」
 なんだかちょっと可愛い光景になっているのだった。


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「オレにはこんなちゃらちゃらした服似合わねえよ」
 トイレから戻ってきた椿 椎名(つばき・しいな)は折角のドレスを着替えてタキシードに刀を2本装備して現れた。
「せっかく似合ってたのに、勿体ないですよ」
 無理矢理ドレスを着せた張本人のナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)はいつもの執事服を着ている。
「ナギだけいつもの服だなんて不公平だろ」
「そんなことないですよ。オーナーも女の子なんですから、たまには可愛い格好をしたって良いと思いますよ」
「……なんか、びみょうに話しがかみあってない?」
 一応ドレスを着ているソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が2人の会話を聞いてそんな感想を漏らした。
 ドレスに【一応】がつくのは、かなり動きやすさを重視したものになっているからだ。
 それに、ドレスなのに、いつものリュックを背負っているのも【一応】の理由の1つだ。
 ソーマのドレスを選んだのもナギだ。
「そんな事より、早く食べようぜ!」
「いこう、いこう〜♪」
 椎名が歩きだすと、その後ろをソーマがついていく。
「仕方ないですね」
 ナギはその更に後ろを歩く。
 料理のあるテーブルにつくと、椎名が真っ先に手を伸ばしたのは栗金団とぜんざいと黒豆抹茶のわらび餅という甘いものばかり。
 ソーマはイケイケ秋刀魚のお造りが気に入ったようで、山盛り取ってしまっている。
「このだし巻き卵と鶏ハムロールは絶品ですね……厨房にレシピを聞きに……行くよりは食べて味を盗んでしまいましょうか」
「そんなにおいしいの!?」
 ナギが食べていたものに興味を示し、ソーマが聞いて来る。
「はい、美味しいですよ。食べてみますか?」
「うん!」
 ソーマはなんの躊躇もなく、口を開けると、これまたなんの躊躇もなく、ナギが料理を口の中へ入れてやった。
(本当、保護者の気分ですよね)
 ナギがそう思っているからなのか、ソーマの雰囲気がこうだからか、あーんして食べさせるという行為なのに、色気も何もあったもんじゃなく、家族がやっている風にしか見えない。
「おいしい!! マスター! おいしいよ!」
「どれどれ?」
 今度はソーマが、あーんして椎名に食べさせたが、これも家族のだんらん状態にしか見えない。
「うん、確かにうまい」
 椎名は口の中に食べ物がなくなると、また甘い物を口の中へと放り込む。
「あ! あっちでなにかやるのかな? ステージがあるよ!」
 ステージを良く見ようと、走りだそうとしたのだが、裾をふんづけてしまい、盛大にずっこけた。
「う……」
 床から顔だけ上げると、額と鼻が赤くなっており、目には少し涙が溜まっている。
 とにかく、立ち上がろうとしたのだが、タイミングが最悪だった。
「え!? わっ!」
 ちょうど由宇が料理を運んで来ていたのだが、下がよく見えていなかったらしく、立ち上がったソーマの頭が料理のお盆の下に当たってしまい、そのままひっくり返る――だけだったら、まだ良かったのだが、料理は近くにいた椎名の頭上から落ち、椎名を黒豆抹茶のわらび餅だらけにしてしまった。
「すみません! すみません! ど、どうしましょう……えっと……すぐに着替えがあるか聞いて――」
「ああ、大丈夫です。着替えならありますから。ね?」
「確かに……あるが……はぁ……」
 由宇があまりにもあわあわしているものだから、怒るに怒れず、さっきのドレスをもう一度着替えてくる羽目になってしまったのだった。
「グッジョブですわ!」
 そんなドジっ子の由宇の様子をにやにやして見ていたのはアクアだった。