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【怪盗VS探偵】煌めく船上のマジックナイト

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【怪盗VS探偵】煌めく船上のマジックナイト

リアクション


―美緒サイド―



 乗船前、美緒に護衛を申し出た大佐は、美緒の側をほとんど離れることなく、また、メイドとしても立派に果たしていた。
 サイコキネシスを使って、離れることなく、美緒の飲み物や食べ物を運んでいたりする。
「まあ、素晴らしい技術をお持ちなんですね」
「そんなことはないよ」
 美緒に褒められても、この反応だ。
(くっ……なかなか近づくのは難しそうですね……それならば!)
 人混みに紛れて、美緒の様子をうかがっていたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は近くにいたウェイトレスを捕まえ、綺麗な2層になっているノンアルコールカクテルと一緒に何かを手渡した。
 クロセルはタキシードにマント(イルミンスール改造制服)と仮面(アイマスク)をしているのだが、パーティー会場である為、ほとんど目立たない。
「失礼致します」
「何かしら?」
 さきほど、頼まれたウェイトレスが美緒に声を掛けると、大佐は一瞬身構えたが、このウェイトレスに何かする気はない事を感じると、戦闘態勢は解除した。
 ただ、注意は怠らない。
「あちらのお客様よりこちらを預かってまいりました」
「まあ、ありがとうございます」
 ウェイトレスは役目を果たすと、自分の仕事へと戻って行った。
「このカードは何かしら?」
 飲み物と一緒に送られてきたのは1枚のカードだった。
 中を開くと、『貴女の大切なモノを奪わせていただきます。怪盗紳士』というメッセージが書かれていた。
「大切なモノ……」
 それを読んで、きゅっと胸元のペンダントを握りしめる。
「大丈夫。我が守ろう」
「ありがとうございます」
 一瞬曇った表情が大佐の言葉により、晴れた。
 そして、様子を見ていた者が話しかけてきたので、美緒の気は完全に晴れてしまったようだ。


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「そのペンダント綺麗ですねー」
「本当、綺麗ですね」
 メイド服を着て、給仕役として船に乗っている稲場 繭(いなば・まゆ)と、白いロングドレスと頭にドレスとお揃いの布で出来た大き目のリボンを付けた橘 舞(たちばな・まい)が話しかけてきた。
「ありがとうございます。これはパートナーであるラナ様からいただいたものですわ」
 とても愛おしそうにペンダントを見つめる美緒。
「実は私のつけているロケットもブリジットとお揃いなんですよ」
 そういうと、ドレスからロケットを取りだし、美緒に見せる。
「ほら、今日もちゃんと持ってるわ」
 青いロングドレスを着たブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)もドレスからロケットを取りだし、見せる。
「素敵ですね」
「去年ブリジットの誕生日のプレゼントに送ったんです。中にお互いの写真が入っているんですよ」
「まあ」
 美緒と舞は楽しげに笑い合う。
 お互いに似た大切なものを持ち、親近感がわいたのだろう。
「……」
 ただ、その様子を繭はちょっと沈んだ表情で聞いていた。
 繭はちょっとだけ頭のリボンに触れる。
「そういえば、どのようにここの招待状をもらったんですか?」
 舞に聞かれると、美緒は自室の扉の前に落ちていた事を話した。
「これは……やっぱり、怪盗パープルバタフライの予告状ですよ! この怪盗は大切なものを盗むんです!」
「そうなんですか? それと、さきほどこんなカードも頂いたんです」
 クロセルから贈られたメッセージカードも見せる。
「大切なもの……このペンダント……でしょうか」
 美緒はもう一度、きゅっとペンダントを握った。
「パートナーとお揃いのペンダントねぇ……それって本人にとっては通価格以上の価値がある品よね」
「勿論ですわ」
 ブリジットの言葉に、素早く答える。
「絶対に離しちゃダメですよ。ブリジット、美緒さんとペンダントを守りましょう!」
「しかたない、守ってあげるわ。まぁ、この名探偵ブリジットが守るんだから、タイタニック号に乗ったつもりでいてくれていいわよ」
「いえ、タイタニック号はちょっと……」
 ブリジットの言葉にすかさず舞がツッコミを入れたのだった。
 そんなやり取りを無言で見ていた繭は、いつの間にか、美緒の側を離れていた。
 そして、会場を出ると、すぐに繭とお揃いのメイド服を着たエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)を見つけ、近寄っていった。
「美緒の大切な物は分かった? ……どうしたの? 繭?」
 繭の暗い表情を見て、何かあったのかと心配する。
「エミリア、お願い。今回は止めよう?」
「どうしたの?」
「だって……私もこのリボン……失いたくない……美緒さんが大切にしているのはパートナーさんからもらったペンダント……そんな大切なもの……盗めないよ」
 繭はパートナーであるエミリアからもらった大切なリボンを触りながら、そう告げた。
「……おっけ。元々私たちは正義のヒロインだもんね♪」
「エミリア……」
「さ、頑張るわよ!」
「うん!」
 2人はこっそりと、美緒の側へと移動して行ったのだった。


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「こんばんわ美緒さん♪」
「こんばんわ美緒様」
 そう会釈をして、話しかけてきたのは神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)だ。
 有栖は空色基調で、プリンセスラインのパーティドレスがよく似合っているし、ミルフィは黒色基調のベアショートドレスがその豊かなバストを惹きたてている。
「こんばんわ」
 美緒は会釈を返す。
「美緒さんもパーティに招待されてたんですね♪ 美緒さんのドレス、素敵です♪」
「ありがとうございます。有栖様のドレスも素敵ですわ」
「ありがとうございます♪」
「美緒様、もしよろしければ、有栖お嬢様と一緒にパーティーを楽しみませんか?」
「それは素敵ですね!」
 ミルフィの申し出に美緒は手を叩いて喜んだ。
「ところで……何か、さっきまで話し込んでいたようですけど、何かあったんですか?」
 有栖がそう質問をすると、美緒はどうやらペンダントが狙われているらしい事を話し、クロセルからのカードと招待状を見せた。
「あら……?」
 さきほどは招待状の中まで見ていなかったのだが、中を開けると、なんと招待状の中がすり替わっていた。
『夜空へ舞う美しい蝶を今宵、盗ませていただきます。 怪盗シリウス二世』
 フォンが乗船の前にすり替えておいた予告状がここで明らかになったのだ。
「大変です! ……あれ? でも、怪盗が怪盗を盗むんだから放っておいても良いんでしょうか?」
 有栖は首を捻ってしまった。
「この怪盗の蝶様もきっと誰かの大切な方なはず……盗まれてはいけませんわよね」
 美緒の言葉に有栖とミルフィは頷いた。
「私、探偵さん達に知らせてきます」
「お嬢様、わたくしも参ります」
「でも、美緒さんの護衛が……」
「それならば、沢山いらっしゃいます」
 ミルフィは大佐達を指してそう言うと、無理矢理付いて行った。
「なるほど……わかりました。では、こちらも注意しておきましょう」
 火焔達にこの事を知らせるとすぐに良い返事を聞けた。
「では、私達は美緒さんの元に戻りますね♪」
「はい、宜しくお願いします」
 有栖とミルフィは美緒の護衛をする為に戻って行った。


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「美緒さん、なんだか騒がしいね」
 そう話しかけてきたのはパーティーに出てもおかしくないスーツを着た正悟だ。
「あら、こんばんわ。そうなんです……実は……」
 美緒から蝶子が盗まれる事を聞いた正悟は軽く驚いていたが、特に蝶子に知らせる事もしない。
(危なそうなら守れば良いだけだしな)
 そう考え、普通に美緒と会話を楽しんだのだった。


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 よし、と気合いを入れてから美緒へと近付いてきたのはメイコ・雷動(めいこ・らいどう)だ。
 純白のフリルの多いドレスを着ているのだが、こういう服は始めての為か、服に着られている感じがする。
「あ、あの……はじめまして、メイコ・雷動だ」
「はじめまして、泉 美緒ですわ」
 挨拶をしたは良いが、メイコは固まってしまっていた。
(お姫様みたいで気になって話しかけちまったけど……どういう事話しゃ良いんだ!?)
「?」
 メイコの心の声は届くはずもなく、美緒の頭にはクエスチョンマークが飛んでしまっている。
「あの……その……綺麗なピンク色の髪だな」
「ありがとうございます。メイコ様の髪もわたくしと同じ、綺麗なピンク色ですね」
「き、綺麗……!?」
「ええ、綺麗だと思いますわ」
 笑顔であまり言われ慣れない言葉を聞いたせいか、赤面してしまっている。
「たまにはこういうパーティーも楽しいわね」
 メイコが固まっている間に話しかけてきたのは百合園女学院の制服を着た刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)だ。
 今回のパーティーには本名の夜川 紗希(よるかわ さき)で参加している。
「おい、人が話している最中だろ。勝手に割り込んじゃ失礼じゃないか?」
 執事服を着て刹姫の後ろにいるのは夜川 雪(よるかわ・せつ)
「あら、お邪魔だった?」
「いや、問題ない」
 刹姫の言葉にメイコはかぶりを振る。
「何か楽しい事が起こると良いわね」
「そうですね」
 刹姫の言葉の真意を知らず、美緒は笑顔で同意したのだった。
「えーっと……美緒は……何か習い事とかやってるのか?」
 メイコは頑張って、なんとか話題を見つけようと、お嬢様がやってそうな事を聞いてみる事にした。
「そうですね……茶道、華道、書道、絵画……音楽でしたらお琴、ピアノ、ヴァイオリン、それからバレエもやっています。メイコ様は何かやられているんですか?」
「そ、そんなに……!? いや、あたしは……特には……その……やってない。ただ、得意なのは雷拳だ。武闘に魔法を加えたものが得意だな」
「まあ、それは凄いですわ」
 美緒にキラキラした目で見られ、メイコはかなり照れてしまっている。
「刹姫は何か得意なものとかあるのか?」
 メイコは照れ隠しに刹姫に話を振った。
「私? そうね、あえて言うなら人の【闇】を――」
「だあっ! そうじゃなくて、違うのがあっただろ!? なっ!?」
 パーティーにそぐわない中二病発言を必死に雪が隠そうとする。
「別にないわよ」
 一刀両断され、雪は敗北した。
 しばらく、この4人で噛み合ってるのか、噛み合ってないのかわからない会話が続いた。
 傍から見ていると変な取り合わせに見えるが、本人達は結構楽しそうだ。


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 会場入りして、すぐにネクタイを緩めた閃崎 静麻(せんざき・しずま)は新入生である美緒を見つけると、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)と一緒に美緒の元に話しかけに行った。
 静麻は黒のタキシードを着ているが、その下にはカメハメハのハンドキャノンが忍ばせてある。
 レイナは蒼のイブニングドレスに蒼の長手袋、ヒールの高い靴を履き、プルガトーリオは紅のドレスに紅の長手袋と紅尽くしの正装をしている。
「よっ! 俺は閃崎 静麻だ」
「レイナ・ライトフィードです。宜しくお願いします」
「神曲 プルガトーリオって言うの、宜しくね」
 静麻は自然に握手を求める。
「わたくしは泉 美緒です」
 美緒は笑顔で握手に応えた。
「百合園に通ってるんですよね? どのような生活なのですか?」
「そうですね……楽しいですよ。日本にいた時に比べると、買い物や着替えが1人で出来るようになりました」
「えっ!? 着替え? 買い物?」
 レイナは自分が質問した事の回答に対し、また質問で返してしまった。
「ええ、日本にいた頃はやってもらっていたんですけど、こっちに来てからは自分で少しずつ出来るようになって、今ではこのドレスも自分1人で着られるようになったんですよ」
 楽しそうに話す美緒の言葉を聞いて、レイナは一般人とお嬢様の違いを感じていた。
「へぇ、日本出身なのね……ああ、名前が日本名だものね」
 そう言うと、プルガトーリオは静麻をちらりと見遣った。
「俺も日本人だ」
「まあ、そうなんですか」
 同じ出身国の人を見つけて、美緒は嬉しそうだ。
「今は百合園でしょ? 日本にいたときはどこの学校行ってたの?」
「実は、中学から日本の百合園女学院に入学していたんです」
「へぇ!」
「修学旅行でヴァイシャリーに来たとき、ラナ様と出会って、その場で契約したんです。だから、高校はこっちに来ました。今、こうやって楽しく過ごせるのはラナ様との出会いのおかげです」
 おしとやかに笑う美緒は本当にお姫様やお嬢様といった感じがする。
「……姉同様、噂通りのまことにけしからん胸だな……」
 ほとんど黙って、話しを聞いていた静麻の視線は美緒の胸に釘付けになっていて、思わず、そんなことを呟いてしまったようだ。
 確かに、けしからん胸だ。
 その呟きを聞いたレイナは笑顔を崩さず、振り向かず、履いて来た高いヒールで静麻の足をその場に縫いとめると同時に全力の裏拳を顔面にお見舞いした。
「……!!」
 言葉にならない衝撃にしばらく静麻は蹲っていたが、自分の服の上から大事な物の感触が感じられないと、見るや、顔色を変え、必死に床に這いつくばった。
 だが、人の大勢いる場所だ。
 沢山の足が目標物を見つけるのを邪魔している。
「もしかして、探してるのはこいつかい?」
 静麻がゆっくりと顔を上げるとそこにはロケットを持ったメイコがいた。
「それだ! 助かった……」
「たまたま拾っただけだしな」
 そう笑うと、メイコは刹姫や雪がいる場所へと戻って行った。
「本当に良かった……」
 静麻は幼馴染の写真が入ったロケットを強く握りしめたのだった。