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リアクション
★ ★ ★
「来ました。ここから先には行かせません!」
世界樹の枝の端に立ったソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、イルミンスールの森の奥から世界樹を目指して飛んでくる鷽の群れを見据えて叫んだ。
とはいえ、あれだけの数の鷽をどうしたらいいのだろうか。
もちろん、他の生徒たちも、迎撃に出ているだろうが、去年はいいように鷽たちに翻弄されてしまったのだから、油断はできない。
「何かいい方法は……。ああ、こんなときにお父さんがいてくれたら……」
里帰りしたときの父の頼もしさを思い出して、ソア・ウェンボリスがつぶやいた。
『私を呼んだかな』
そんな声と共に、ソア・ウェンボリスの視界を被うほどに激しく木の葉が舞った。
つむじ風が解けるようにして木の葉が散ると、その中からメカ雪国ベアの勇姿が現れた。
本体の腕を組んだ上から、マフラー型のパワードアームを組んでポーズをつけている。
メカ雪国ベアが腕組みを解くと、頭部が後ろにスライドして胸の上部にあるコックピットハッチが開いた。
「私を呼んだかな?」
中から姿を現した雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、再度ソア・ウェンボリスに訊ねた。
「ベア? でも、ちょっと声が違うような……」
少し唖然としながら、ソア・ウェンボリスが小首をかしげる。
「よくぞ見破った。さすが我が娘!」
あがーっと雪国ベアが大口を開けると、着ぐるみがストンと脱げて中からディーグ・ウェンボリスが現れた。中年と呼ぶにはちょっとはばかれる、ダンディなお父さんだ。
「何を臆することがある。あれは一度戦った敵ではないか。再登場した怪物は弱いと決まっている。よく相手を見るんだ」
再生怪人なら弱いが、相手が修行してきた場合のことは完璧にスルーしてディーグ・ウェンボリスが言った。
「でも、相手は空を飛んでいてなかなか捕まらないんです」
奇声をあげてこちらを挑発する鷽たちを見つめて、ソア・ウェンボリスが言った。まともに攻撃しても、鷽たちはそのダメージを嘘にしてしまって、簡単にはやられないのだ。
「空か。だが、空こそ、お前の世界なのだよ。昨年末にも話したが、お前の母さんは守護天使……つまりお前はハーフなんだ。だから、その気になれば禁猟区だって使えるし、翼だって生えるぞ。試して見なさい」
「本当? やってみます。うう〜んっ」
父親の言葉を信じたソア・ウェンボリスが、うーんと力む。
ばさあっと風が起きた。
飛び散った羽根毛が、ふわりとソア・ウェンボリスの眼前に舞い落ちてくる。
「これって……凄い!」
ソア・ウェンボリスが、自分の背中から生えた虹色に輝くふわふわ羽根毛の大きな翼を確かめて歓声をあげた。
「さあ、行け、娘よ。鷽を倒すのだ。今こそ、お前がパラミタで培ってきた魔法の力を見せるとき!」
空中でくるくると飛び回る鷽たちを指さして、ディーグ・ウェンボリスが言った。
「はい、お父様! いっきますよ〜」(V)
ソア・ウェンボリスが、翼をはためかせて空へと舞いあがった。
「す、凄い、は、速いです〜……」
きらん。
すばらしい加速で、ソア・ウェンボリスが空へと飛びあがり……、お星様になった。
「みごとだ、御主人……」
ディーグ・ウェンボリスの背中のファスナーが開いた。中から、雪国ベアが現れる。相変わらず、外と中身のサイズが一定しない不条理さだ。
「さて、回収に行くとするか」
そうつぶやくと、雪国ベアはメカ雪国ベアに乗り込んでいった。
★ ★ ★
「もうじきつくわよ」
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に言った。
「何でもいいから、早く着いてほしいわよ」
ペガサスのディジーに襟首を銜えられて運ばれているリカイン・フェルマータが、早く解放してほしいとばかりに言った。
ペガサスは一人乗りなので致し方ない。
「もう一度乗れるか確かめてみる? うまくいけば、落っこちるかもしれないし」
「どうして、落としたがるかなあ。とにかく、現状はなんとかしてほしいわ」
「それじゃあ」
リカイン・フェルマータの了承は得たとばかりに、シルフィスティ・ロスヴァイセがディジーに命じた。
ひひんとくぐもった声をリカイン・フェルマータの耳許であげると、ディジーが彼女をポーンと宙に放りあげた。
「ええええ……!?」
空中で一回転したリカイン・フェルマータが、ポトンとディジーの背中に落ちてきて無事に収まった。
「やればできるものねえ」
「うそだっぴゃ」
安堵するリカイン・フェルマータの頭の上で、ちっちゃな鷽がと鳴く。
スーッと弧を描いて降下すると、ディジーが世界樹の飛空艇乗り場に着地した。
「じゃあ、私は場宿君を探しに行くから、フィスはここで待っていてね」
そう言うと、リカイン・フェルマータは世界樹の中へと入っていった。
「とりあえず、どこにいるのか分からないから、虱潰しに探すしかないかしら……」
ポリポリと頭を掻いたリカイン・フェルマータの足許で、何かがもぞもぞと蠢いた。子犬ほどの巨大な虱だ。
「何これ……、虱? きゃああああ!! うわあああ、手が、手が勝手に……。嫌ああああ!!」
プチッ!
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