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リアクション
★ ★ ★
「リカイン、遅いわねえ」
退屈そうなディジーをなだめながら、シルフィスティ・ロスヴァイセがつぶやいた。
「おとなしくしていてよね。岩とか、いろいろ変な物蹴っ飛ばしたりしたらダメよ」
口は災いの元。退屈していたディジーがカッカッと蹄で発着場の床を蹴った。何もなかったはずだが、ディジーが蹴りあげた後から何やらガラクタのような物が飛ばされていく。たちまち、粗大ゴミの滝ができあがった。
「ちょ、ちょっと、嘘! やめて!」
あわてて止めようとしたシルフィスティ・ロスヴァイセが、粗大ゴミと共に蹴落とされていく。
「うそでごんす」
ゴミの滝の中に、一緒に落ちていく鷽の姿があった。
★ ★ ★
「のどかだのう」
久々に白湯でなくグレープジュースを入れたワイングラスをかたむけながら、展望台でリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)がくつろいでいた。
そこへどかどかと音をたてて粗大ゴミとシルフィスティ・ロスヴァイセが落ちてきた。
「油断したかなあ……。きゅう……」(V)
ゴミの下敷きになってシルフィスティ・ロスヴァイセが目を回す。だが、さすがに鷽時空の中なので一応は無事のようだ。
「ん? こ、これは……」
散らばったゴミの一つをロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)が拾いあげた。何かの紙のようだが……。
「これは、失ったわらわの断章! まさか、おお、感じるでおじゃる。この近くに、わらわのすべてが!」
ロゼ・『薔薇の封印書』断章が歓喜の声をあげた。もともと、魔道書としてリリ・スノーウォーカーと契約をした時点で不完全な魔道書だったのだ。そのため、失ったページと同じだけの力を失っている。
「二章、三章……、戻る、すべての力が、すべての記憶が……」
粗大ゴミの山から魔道書のページが飛び出して、ひらひらと宙を舞ったかと思う間にロゼ・『薔薇の封印書』断章の身体に吸い込まれていった。
「そうじゃ、わらわこそがアレイスター・クロウリーの著しし『法の書』!」
完全に記憶を取り戻したらしいロゼ・『薔薇の封印書』断章が叫んだ。
似たような変化は、リリ・スノーウォーカーの方にも現れていた。
「封印が……。呪いが暴走を始めたのか……」
右手の甲に浮かんだ黒薔薇の印を左手で押さえてリリ・スノーウォーカーが呻いた。活性化した黒薔薇の印からは、トゲのある蔓が伸びて右手を被っていく。その手を持ちあげるようにして、いや、薔薇に被われた手に身体の方が持ちあげられていると言った方がいいのかもしれない。
「我は大魔導師マーリンの名も無き使い魔、薔薇の塔に囚われし主の命により法の書を封印する者なり」
ゆっくりと口を開いたリリ・スノーウォーカーが宣言した。
「使い魔、ふっ、そのような者がわらわを封印するだと?」
ロゼ・『薔薇の封印書』断章が一笑にふした。
「一度我に封印された者が言う台詞かな」
カラカラとリリ・スノーウォーカーが笑い返す。
「さあ、我に屈せよ。魔道カードドロー、サラマンダーを召喚。攻撃!」
「む、ライフで受ける!」
ついに二人が戦いだした……のだが。
「いたたたた、酷い目に遭ったわ……って、何よ、この厨な戦いは!」
やっと意識を取り戻して粗大ゴミの山から這い出したシルフィスティ・ロスヴァイセが、目の前で繰り広げられているカードバトルを見て目を丸くした。
「わらわのターン、トラップ発動。リリ・スノーウォーカーは変な踊りを踊る!」
「はらほろひれはれ、よよいのよい。おのれ、ペガサスを召喚。笑い飛ばす!」
リリ・スノーウォーカーが言うと、シルフィスティ・ロスヴァイセのディジーが現れて笑った。
「嫌あ、うちの子があ!」
シルフィスティ・ロスヴァイセが悲鳴をあげる。
「埒が明かぬな。我が最大の魔法を受けよ!」
リリ・スノーウォーカーが、痺れを切らしてレアカード「すべてちゅどーん」を使った。その場にいた全員が、不条理な爆発で吹っ飛ばされる。
「うそでっしゃろ!?」
それに巻き込まれて、鷽までが吹き飛んだ。
「まだだ、人生という名の冒険は続……」
ダイイングメッセージの途中で、リリ・スノーウォーカーが力尽きてばったりと倒れた。
★ ★ ★
「今こそ、俺様たちゆるゆるパイレーツがイルミンスールを征服するときだ!」
「ちー」
「ちー」
「うそ〜」
「ちー」
シス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)の言葉に、十四匹のゆるスターたちが右手を挙げて答えた。なんだか、一匹だけ鷽が紛れているようではあるが。
とはいえ、現在の彼らは動物の姿ではない。人間の姿を取り戻した……らしい。
シス・ブラッドフィールドは、黒い礼服に黒マントを羽織り、黒いシルクハットを被り、手にステッキを持っている。手下のゆるスターたちは、全身タイツで首におそろいの髑髏マークのネッカチーフを巻いていた。
「俺様たちは、一人一人が竜騎士を冴え凌ぐ力の持ち主。イルミンスールを征服できぬわけがない。今こそ、ここにシス王国を建国するのだ。さあ、行くぞ、我らが野望のために!!」
「ちー!」
「ちー!」
「よし、では、まず戦力としてマジックスライムを支配下におく、ついてこい」
軍団を引き連れて通路を進むシス・ブラッドフィールドは、修練場を目指した。あの部屋の奥に、マジックスライムの養殖場があることは分かっている。
「人間たちをすっぽんぽんにするその力……なんとしても俺様の王国にほしいぜ。説得は頼むぞ、スラさん」
懐から取り出した小瓶に入っているスライムにむかって、シス・ブラッドフィールドが声をかけた。
「迎えに来たぞ、マジックスライム!」
ばぁん!
修練場奧の扉を開いてシス・ブラッドフィールドが勢いよく言い、直後に硬直した。
「いゃあんですぅ〜」
そこにいたのは、巨大な幼女だ。どうやら、マジックスライムもシス・ブラッドフィールドたちに感化されて、ヒューマノイド化してしまったらしい。狭い倉庫の中では立ちあがることもできないほどの大きさなので、両手で膝をかかえて横に転がっている。
「ええっと……。俺様たちに協力してほしい。シス王国を造るんだ。建国のあかつきには、人間たちをすっぽんぽんにし放題だぜ!」
とりあえず言葉が通じそうに見えたので、シス・ブラッドフィールド自らがマジックスライムの説得を始めた。
「すっぽんぽんは嫌ですぅ〜」
巨大な身体をくねくねさせながら、マジックスライムが言った。よく見ると、マジックスライムはすっぽんぽんである。
「どわっ」
思わず、シス・ブラッドフィールドが鼻血を出してひっくり返る。
「き、吸血鬼にとって、貴重な血があぁ……」
手下たちに囲まれたシス・ブラッドフィールドが呻いた。
「いやああんですぅ」
思いっきり恥ずかしかったのか、マジックスライムが身をよじった。当然、立ちあがれないので、部屋の中でごろんと転がることになる。
「ちー」
「ちー」
「うわああああ、やめろー!」
シス・ブラッドフィールドたちが叫んだが遅かった。そのままあっけなく、幼女の下敷きとなる。そのとたん、ぱしゃーんと幼女が赤いスライムになって弾けた。ちょっとグロい。
真っ赤なスライムの海の中に、猫に戻ったシス・ブラッドフィールドと、ゆるスターとデビルゆるスターのゆるゆるパイレーツの面々がぷかあっと浮かぶ。その横に浮かびあがった鷽が、しゅぽんと小さな爆発を起こして煙と共に消え去った。
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