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砂漠のイコン輸送防衛前線

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砂漠のイコン輸送防衛前線

リアクション

 生徒たちはダリルの製作した、部隊配置を元に、トレーラーへのイコンの積載や、整備を進めていく。
 黒豹小隊の乗る囮のトレーラーを除き、5台のトレーラーにはそれぞれ、『改良型イコン』が2機ずつ積載されている。
 トレーラー1台はイコンを4台は積載できるかなりの大型車を使用するが、5台では参加者たちのイコンを積載しきれないので、護衛と待機の割り振りをする必要があった。

「順調な……ようだな」
 多くの生徒がシャンバラより護送へと駆けつけてくれたことに、安堵の表情を浮かべる、今回の依頼人である九品寺だった。
 輸送する『改良型イコン』は学園からの預かり物であり、本来なら研究所が責任を持って送り届けないといけないモノなのだが、事が故にそうもいかない。
「Q策さん。あなたも護送に同行を?」
「……」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)を連れて、九品寺の側へと近づいた。彼女も研究所の職員であり、部署は違うものの、九品寺の同僚という事になる。そして、この護送作戦に参加したメンバーでもあった。
 尤も睡蓮が九品寺へと近づいたのは、第一輸送部隊が鏖殺寺院のシュメッターリングを含むイコン部隊に襲撃、イコンを奪取された事を考えて、彼が鏖殺寺院に関わる内通者ではないかと疑っての事だ。
「水無月くんか……、一応これは俺の担当責任だからね。見届けはしないとな」
 研究者らしく白衣を纏う九品寺は、当たり前のことだというように、そう告げるが、その表情は何処か不安を隠している感じがする。
「責任とは前の輸送部隊が襲撃された事ですか? それとも……」
「それとも、事故によるパイロット不足のことですかな?」
 睡蓮の質問に男が割って入った。
「失礼、俺は源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。前に、イコンの土木作業を提案させて頂いたものだ。聞きましたよ。イコンの起動実験中に事故があったと」
 鉄心の言葉に、九品寺の目が一瞬泳ぐ。鉄心も睡蓮もそれを見逃さなかった。恐らく、彼は事故に関しての何らかの事情を知っている。
 鉄心は更に踏み込んだ問をする。
「事故自体、今回の強奪事件と繋がっている可能性はありませんか? もしそうなら、研究所内部に敵……例えば、鏖殺寺院の工作員が居たということもあり得るのでは」
 睡蓮も同じことを訊きたかった。九品寺への回答に耳を傾ける。
「それは……わかりません。俺は、イコンの研究以外には関わっていませんから」
 つまり、彼は鏖殺寺院と関係は持っていないと言っているのだ。
 無論、鉄心としても九品寺が「はい、私が工作員です」などと、言ってくれるのを期待している訳でもない。しかし、彼が何かを知っているのは確信していた。
「そうですか、では事故にあわれた方は今どちらに? 会って話を聞きたいのですが?」
 九品寺が顔を強張らせ、固唾を呑む。
「Q策さん、機密に触れるような事であれば、《テレパシー》で。鉄心さんもトランスヒューマンなら可能でしょう」
 睡蓮が気を利かせるが、九品寺は首を横に振りそれを断った。
「いや、いい。所内では知られていることだしな……。実は事故にあったパイロットは俺の恋人のイレイシア・ミナミだ」
 苦い表情で九品寺が答える。睡蓮も所内の噂では知っていたが、本当に付き合っているとはと思った。
 九品寺は続けて言う。
「イレイシアはイコンの耐圧実験で事故にあった。原因はコックプット内の減圧システムが作動しなかったこと……。心肺機能にダメージを受けて喋る状態じゃない」
「それは……お気の毒に……」
 鉄心は詫びるように頭を垂れる。彼の事情を察せなかったことへの謝罪の意だ。
「いえ、俺よりも気の毒なのは、彼女の双子の姉である、アレイシャだろう……。同じ専属パイロットでありながら、イレイシアだけがあんな目にあったんだからな」
「もしかして、脱退したパイロットって?」
 ふと思った睡蓮が訊く。
「アレイシャのことだ。彼女が抜けたのと同時期にイレイシアも病院から居なくなっている。恐らくアレイシャがイレイシアを別の病院へ連れて行ったんだろう。カナンの病院じゃ処置のしようがなかったからな……」
 アレイシャのパイロット脱退は当然なものに思える。実の妹が職場の事故で重体となり、自分にも同じ事故の可能性がある。間接的ではあるが、アレイシャがトラウマを抱き、仕事への恐怖から、目覚めぬ妹を連れて行ったと考えられる。
「安全性を高めても……事故は起こるんですね」
 鉄心の後ろにくっついているティー・ティー(てぃー・てぃー)が呟く。
「安全性を確かめるために、実験するんだ……。ハッキリ言って、あの事故は万が一でも起こりえない不測の事故だった」
 人を載せた耐久テストを行う前に、無人での実験も何度となく行い、整備や計器類のチェックも余念無くしてあった。それまでのテストでは失敗もなく、不安要素すらも無かったはずだった。
 そのことは、睡蓮も職場の資料から分かっていた。
 それ故に、これが人為的な事故ではないかと、思い至るのだった。

「九品寺。出発の準備は順調か……」
 研究所の中から、一人の男がこちらへ近づいてくる。白衣姿から彼も研究者なのだろう。外見は九品寺より年を重ねており、彼の上司と言ったところか。
「主任……、はい、輸送用イコンの積載は既に終わっています」
 九品寺に主任と呼ばれるシャンバラ人、グラフ・シュメリッヒは髭を掻いて頷く。
「前の輸送は護衛の配備を欠いたワタシにも責任がある。今度はしっかりと学園側へイコンを届けておきたい」
 グラフは開発部署の責任者であるため、部下の失敗は彼の責任となる。幾ら、海賊に襲われたからと言って、預かっていたイコンを盗られたとあっては、部署どころか、研究所の信用に傷が付く。
「本来なら、私どもが届けるべきなのだが、皆さんしっかりと護送をのほど頼みましたよ」
 その場に居る生徒たちに、グラフは軽く頭を下げた。
「任せてください。主任さん。我々教導団の白竜とルカルカがしっかりとルートを選定しています。ご安心を。ところで、研究所の防衛体制は十分なんですか?」
 欠員が出ている上、誤送にも何人かの研究所の人間が付き添うはずだ。となると、研究所の方が無頼の徒に狙われるのではないかと鉄心は考える。
「その事に関しては、問題ない。何しろ、これだけの人数が加勢に来てくれたのだから、こちらが護送で割く人員は見届け役の九品寺一人と、雇いのトレーラー運転手くらいだ」
 なるほどと鉄心が頷く。
「鉄心、ティー、そろそろ、主発するそうですわ」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が鉄心たちを呼ぶ。学校側のイコンの積載が終わったようだ。後はイコンを使用していない参加者の乗り込みを待つだけだ。
「ではQ策さん。飛行艇に乗り込むとしましょう」
 睡蓮、九頭切丸も、輸送部隊の元に向かうことにする。
 グラフは一人、所の前に残って、彼らを見送った。
「では、頼みましたよ……」

(鉄心さん……今の話どう思いますか?)
 睡蓮が隣を歩く鉄心に《テレパシー》を送る。彼もまた、《テレパシー》での会話が可能だ。返答する。
(どうもな。九品寺が何かを知っているのは確かだろう)
(Q策さんが嘘をついていると?)
(半々、てところでな。まあ、スノーウォーカーの探偵さんにも相談しつつ様子を探ろう)