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砂漠のイコン輸送防衛前線

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砂漠のイコン輸送防衛前線

リアクション

――、二日目、襲撃!

 二日目となる。
 砂漠は相変わらず、何も無い。ただただ、身を焦がすような暑さと、太陽からの熱線が降り注ぐ。トレーラーの行く先の視界が陽炎で揺らぐ。
 朝より、キャンプを出立した輸送部隊は今日で20時間を越す運転と護衛を続けている。生徒たちの数名には疲れが見えているものだっている。荷台の中は空調が聞いているとはいえ、見張りで外に出れば砂漠の暑さが体力を奪う。ひたすらに代わり映えのない視界はストレスを蓄積させる。
 トレーラーの運転手なんていい礼だ。先頭を走る0号車以外は、常にその視界の殆どを前方車両のコンテナ壁で覆われている。砂漠の景色を眺めることすら許されない。
「――聞いていますか? 燕馬?」
 助手席のサツキの声に燕馬は我に返る。長時間の運転で眠気が彼を襲っていた。
「……あ、だいじょうぶ、大丈夫寝てないから」
 嘘だ。酷く眠い。
「ほんと? もうすぐ、第7チェックポイントの通過ですよ?」
 サツキは【銃型HC】に表示した周辺地図を確認しながら、そう報告する。
 第7チェックポイント――、
 それは白竜とダリルの両名が敵の襲撃を予測しているピークポイントである。
 コンボイは今ワジ(かれ川)を走行しているが、ワジを抜けた先は砂地が多い。車両がタイヤを獲られないように、ルートは考えられてはいるが、この先はそのルート以外の逃げ場がなく、道の変更が効かない。
 更に言うなら、砂地による起伏が視界を塞ぐ。侵食大地が道に歪みを作っている。
 敵にとってこれほど待ち伏せに適した場所はない。そしてこの道だけは、どんなにルートを選定しても、国境へと至るために通らざる負えない道でもあった。
《この先、危険地帯につき、護衛の強化をします》
 ユイリの通信が各トレーラーへと伝達される。イコン部隊の護衛を増やしてコンボイの脇を固めるよう、ダリルが指示を出したのだ。
 右を紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)荒人
 左を朝霧 垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)光龍
 後ろを天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)フィオナ・ベアトリーチェ(ふぃおな・べあとりーちぇ)アトラ・スモスとリリ、とララのラルクデラローズが守る。
 彼らに加えて、
 北都とクナイのアシュラムに寄る《禁猟区》警戒、
 {ICN0001694#りゅ〜ちゃん}に乗ったミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の上空警戒。
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)アム・ブランド(あむ・ぶらんど)トーテンコップと、
 大吾、アリカのアペイリアーによる随伴機の追加がなされる。
コンボイ後方には桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)の乗った六天魔王が配備される。
 生身部隊も増強する。各車両の荷台にて以下の者たちが待機する。
 1号車にエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)緋王 輝夜(ひおう・かぐや)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)アーマード レッド(あーまーど・れっど)はダッシュローラーで車両と並走する。

 2号車に平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)
 3号車にエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)
 4号車にラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、サンドラ。
 5号車は1日目と同じくリカイン、シルフィスティ、アレックスが肉眼による警戒をする。
 残りの者たちはトレーラー内で待機し、随時出撃する準備が出来ている。
 それだけではない。偵察部隊も全員が前方へと出ている。
「皆さん大分警戒していますね……大丈夫ですか?」
 飛空艇内にも緊張が走っているのを察知し九品寺が護衛の加夜へと訊く。
「勿論です。私たちに任せてください」
 加夜は笑顔で答える。が、内心は不安が募っている。
 今のところ、九品寺に妙な動きはない。緊張のせいか、冷房のかかった機内であっても多汗しているくらいで、それはこの場に居る者の手が湿っているのと同じことだ。

「大丈夫だろうか……」
 ヒロユキが自分が極秘に作った自警団の拠点を心配する。輸送ルートの最後の方でその近くを通過するのだが、砂漠の海賊とやらに被害を受けていないだろうかと思う。
「だいじょうぶよ! そうなる前に、このミッションで敵を叩いておくんだよ!」
 フィオナ・ベアトリーチェ(ふぃおな・べあとりーちぇ)が気丈に彼を励ます。
 二人は自警団の仲間の無事を祈った。


「おかしいですね……」
 ミスファーンにのって偵察するジーナが呟く。
《ジーナもそう思う?》
 ルカルカも直感的に違和感を捉えていた。目の前の揺らぐ視界は砂漠そのもののはずなのに。魔道レーダーで敵影の確認をするも、今は何の反応もない。
「視界が霞むな……」
 昨日までの砂漠の様子とは違い、陽炎が淵の覗く望遠鏡も拒む。
《淵、後方の様子はどうだ?》
 ダリルに聞かれ、後ろを向く。昨日と変わらない砂漠の姿が地平まで見える。
「昨日と変わらないぜ」
《昨日と変わらないだと? 陽炎はでていないのか?》
「前方ほどじゃないな」
 淵の答えに、ダリルは眉を顰める。
 砂漠では蜃気楼が起こりやすい。それはよく知られていることだ。
 上空と地表の温度差により光が屈折して眼に入る。それにより、地平の先で幻影のオアシスや浮島を見ることに成る。
 陽炎はどうだ。これもまた空気の温度差によって引き起こされる。日本の夏場に遠くの道路が揺らぐのはそのためだ。
 では、局地的に数十メートル先すら揺らいであやふやに成るほどの陽炎が発生するだろうか?
《前方警戒! 敵襲の可能性有り!》
 白竜が指示を飛ばす。
 それと同時に、朧気な視界を割いて、偵察部隊を銃撃が襲った。
 また、0号車に置いても異変が起きる。
 おそらく、前方の陽炎は敵が術を用いて人為的に起こしたものだ。ただでさえ代わり映えのない砂漠の風景で護衛部隊は気づくのが遅れてしまっていた。

 輸送部隊は知らぬ間に敵の罠の中へと入っていたのだった。