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カナンなんかじゃない

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カナンなんかじゃない
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第6章


 リカイン・ニセカンナ軍の登場により局地的に盛り返してはいるものの、全体的にはネルガル軍が圧倒的に優勢であった。

 中でも驚異的なのが、レッサーワイバーンに乗ったルカルカ・ルーと共に自らも小型飛空艇で先陣を切り、奇襲攻撃を繰り返すダリル・ガイザック扮する征服王ネルガル。

 矢を射掛ける兵士たちに我は誘う炎雷の都による炎や雷を降らせ、蹂躙して行く。
「どうした、そんなぬるい攻撃ではこの俺には届かないぞ」

 そんなダリルの様子を横目で見ながら、ルカルカは呟いた。
「……なんか、いつにも増してやる気だなあ……」
 普段は兵器としての自分の意識にブレーキをかけているダリル、どうせ映画の中だからとついつい本気をだしてしまっているようだ。
 自らも我は射す光の閃刃による攻撃をしかけながら、ルカルカはダリルの横顔に震えを覚えた。


「うん、ダリルは本気で怒らせないようにしよう、怖いから」


 と、そんなカナン王国の勇士たちを陰ながら見守る二人がいた。
「よし、いいぞ……ピンチになれ、もっとピンチになるんだ……!! そして助かれ、俺のパワーで助かるんだ……!!」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)だった。その横には、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)もいて、アキラと共に念を送っている。
「……あの」
 そんなアキラに話しかけたのは、演出兼雑用係のフィオナ・ベアトリーチェ。
「何? 今忙しいんだけど」
 とてもそうは見えないが、とフィオナは出演者名簿を調べる。
「えーとさ。キミ、何の役?」
 フィオナが戸惑うのも無理はない。何しろアキラは物陰から戦場の様子を見守りつつ、ひたすら念を送っているようにしか見えないのだ。

「宇宙からやってきたさすらいの地球からの勇者救援隊カナン王国騎士団長、佐藤一郎」
 と、アキラは答えた。

「……え?」
 と、フィオナも答えた。

「あ、ごめん聞こえなかった? 宇宙から――」
 アキラはもう一度大きな声でハッキリと自らの役柄名を説明しようとするが、問題はそこではない。
 フィオナはその長い役柄名を両手で制して止める。
「あ、いや聞こえてはいたの。聞こえてはいたけど理解できなかったっていうか――」
 すると、アキラはコホンと咳払いし、解説を始めた。

「えーとねぇ。
 ごく簡単に言うと、地球からカナン王国のためにやってきたコントラクター勇者たちを救援するため、宇宙からやってきたさすらいの救援隊。
 そのカナン王国担当の騎士団。
 の、団長」

 全然簡単じゃない。

 説明の中に救援の文字が二回入っていて理解しにくい。
 救援するならさすらってちゃだめでしょ。
 宇宙から来たのに騎士団とかどういうセンス?
 あと隊長っていうけど団員はそこの一人だけ?

「えーと……で、その隊長さんは何をする役なの……?」

 という数々の突っ込みを胸の奥にしまいこんで、少しでも建設的に会話を進行させようとしたフィオナさんを誰か褒めてあげて下さい。

 その問いに対して、アリスはぐっと胸を張って答えた。
「良くぞ聞いてくれマシタ!!
 ワタシ達はここから勇者たちに救援パワーを送っているのデース!!」

 ふと、戦場の様子に目を向けるフィオナ。
「……あんまり、救援できてないみたいだけど」
 その言葉通り、戦況はあくまでネルガル軍優位に進み、一部のコントラクター達が食い止めてはいるものの、佐野 亮司が用意した空中戦艦とあまりにも多すぎるネルガル役の戦力の前にカナン国軍と義勇軍は壊滅寸前であった。

「……そうなんだ、あまりにもネルガル軍とカナン軍の戦力差がありすぎて、救援パワーをいくら送っても足りないんだ……!!
 くそっ!! 俺の……俺の救援パワーでは足りないというのか……!!」
 がくりと膝を落とすアキラ。
「アキラ、諦めちゃダメネ!! 諦めずに救援パワーを送るのヨ!!
 みんなを救援するワタシ達が先に諦めるワケにはいかないワ!!」
 と、必死に励ますアリス。

 その時だった。


「そうだ、諦めるのはまだ早い!!」


 アキラ達を見下ろすように、戦場の隅っこにこっそりと登場した一団があった。
 彼らを見たアキラは叫ぶ。

「ああ、お前は勇者救援隊シャンバラ王国騎士団長、田中 弘明!!
 それにコンロン担当の斉藤 健一も!!
 ポータラカ担当の鈴木 洋介まで!!」
 どうやら他にも数人の団長たちが応援にかけつけてくれたようだ。
 アリスと共に立ち上がったアキラは、力を振り絞って気合を入れた。

「よおし、やるぞアリス!! 俺たちの救援パワー、ここで使い切るんだ!!」
「了解ネ、団長!!」


「うおおおぉぉぉっ!!」
 アキラとアリス、そしてカナンを救援するためやってきた勇者を救援するためやってきたアキラを救援するためやって来た他地区担当の救援団長たちの救援パワーによって、戦場には次々と奇跡が起こっていた。


                              ☆


 敗戦確実かと思われた戦場に、一筋の光明が差していた。
「みんな!! まだ諦めないで!!」
 領主の屋敷の屋根の上から誰かの声が響いた。
 その声の主は、ローザマリア・クライツァール。
 当然、その横には南カナン領主、エシク・シャムスもいる。
 黒い鎧に身を包み、黒い兜を被ったまま、彼女は全軍に告げた。

「ワタシはナラカより古の剣術を学び、今ここに戻った!!
 これから反撃に移る、全軍、体勢を立て直せ!!」

 どよめきが戦場を走る。
 国軍と義勇軍の士気が回復し、僅かながらネルガル軍の攻め手を押し返す動きが始まった。


 ――さらに。

 突然、ネルガル軍空中戦艦の横っ腹に火柱が立った。
「――何!?」
 前線で奇襲攻撃を繰り返していた、ダリル・ネルガルもさすがに驚いた。カナン国軍にこの空中戦艦を攻撃できるような兵力は残っていない筈なのだ。
 そう、確かにカナン国軍にはそんな戦力はもう残っていなかった。
 その攻撃は、外からもたらされたものだったのである。

「――あれは、何だ――?」
 と、空を見上げた木崎 光イナンナは呟いた。
 その横でユーリエンテ・レヴィ――魔法少女イナンナがはしゃぐ。
「わー、すっごーい! いっぱい来たよーっ!!」

『そうだ、諦めるな南カナンの民よ!!』
 ネルガル軍空中戦艦に砲撃を加えたのは、突如として戦場に現れた飛空艇の一団だった。
 ひとつひとつのサイズはネルガル軍の戦艦にくらべてそう大きなものではない。
 だが、数が多い。
 100席は優に越えようという数の飛空艇は、その種類もサイズもまちまちで、ひとつの統率された軍勢ではなく、各地から集められたものであることが分かる。
 その先頭の比較的大きな飛空艇に乗り、外部へと檄を飛ばしているのはヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)

 彼は、東の海を越えたところにある帝国の帝王、ゴライオン帝王だったのだ。
 ゴライオン帝国は小さいながらも独立した軍事力を持つ軍事国家で、エリュシオンやネルガル軍とはまた別の政治を行なっている。

『ネルガル軍が南カナンに向かっている間に、カナンに残った戦力、そして他地方の各国からの勇士で義勇軍を結成したのだ!!』
 絶望的な戦場に、ゴライオン大帝の声が響き渡る。
 少しずつ、人々の心に希望が蘇りつつあった。

『集まった義勇軍の諸君!!
 我々の目の前に映る女神は我々と異なる存在だろうか!?
 いや違う、戦火に憂い、民衆の身を案じる彼女らは、我々と何ら変わりない隣人なのだ!!
 さあ往こう、これは未来を掴む戦いだ!!』
 それを合図に、ゴライオン大帝の義勇軍は次々に砲撃を開始する。
 戦場のネルガル軍兵士、そして空中戦艦に向けられ砲撃は次々にヒットし、大きなダメージを与えて行く。


『気炎を上げろ!! 全軍、突撃――!!!』
 南カナン軍と義勇軍の、反撃が始まった瞬間であった。


 その奇跡的な逆転劇を見守っていたのが、やたら目立つ背景、メキシカン 恭司と半ケツ サボテンであった。


                              ☆

 ついでに言えばその頃、緋ノ神 紅凛をさらった天音ルガルを追って、奏 シキはレイスデット・スタンフォルドの操るイコンと対決していた。

「てやあああぁぁぁーっ!!!」
 役者特権とアキラ達の救援パワーをフルに活用したシキは、レイステッドの乗るイコンと天音ルガルを真っ二つに切り裂いた!!

「――わっ!!」
 天音ルガルに囚われていた紅凛姫は、ひらひらのドレスのまま落下し、シキの腕の中に落ちる。
「だ、大丈夫ですか、紅凛さん?」
 特に演技ができるわけでもないシキは、素のままで話しかけた。
「だ、だだだ、だだだだいじょうぶぶぶぶぶ」
 そして、こちらも別の事情により演技どころではない紅凛姫。
 そのまま、真っ赤になって顔面から煙を吹いてしまう。

「――あ」
 と、妙に冷静な声を出した紅凛に、シキは問いかけた。
「どうしました?」
「うん――もうダメ。ムリ」
 と、宣言したのもつかの間。
 紅凛姫は、その全ての機能をシャットダウンした。

「わ、紅凛さん、しっかりし下さい紅凛さーんっ!!」
 ゆさゆさと紅凛を揺するシキ。だが、紅凛姫の意識が戻ることはなかった。


 ほんのちょっとだけ、夢心地を味わいながら、紅凛は眠った。