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カナンなんかじゃない

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カナンなんかじゃない
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第7章


「勝手に終わってんじゃねーよ」

 と、荒野の半ケツ サボテンは突っ込んだ。
「ん、何か言ったか?」
 と、その横でメキシカンな衣装を着たやたら目立つ背景、橘 恭司は呟いたが、サボテンが喋るはずもない。
「……空耳か……」
 空を見上げた恭司。激しい風が流れて行く。
 その先は、いよいよ最終局面を迎えようとしている戦場だった。


                              ☆


「さぁさぁ、降参するなら今のうちよ……!!」


 シャーロット・モリアーティ――今は十二星華、セイニィ役――は、戦艦内部に侵入して他の義勇軍勇士と共にひと暴れしているところだった。
「――セイニィ!!」
 そこに一人の男性、ヴァル・ゴライオン大帝が声をかけた。
 ゴライオン大帝もまた、自らが率いる義勇軍と共に戦艦に突撃していたのだ。

「これは、ゴライオン大帝」
 両手に装備していた星双剣グレートキャッツを下ろし、礼をするシャーロット・セイニィ。
 そう、彼女のもうひとつの役割、スパイとして送り込んでいたのはゴライオン大帝だったのだ。
「お前からの情報のおかげで迅速に義勇軍を集めることができた、良くやってくれたな」
 労をねぎらうゴライオン大帝、だが、シャーロット・セイニィは物陰から大帝を狙う人影に気付いた。
「――危ない!!」
 咄嗟に大帝を突き飛ばすと、そこに一本の矢が刺さった。

「……ち、外したネ」
 物陰からのそりと現れたのは、ネルガル――キャンディス・ブルーバーグだった。
「もう少しでカナン王国を乗っ取って盛大なろくりんピックを開催できたというのに……」
 そう言うと、キャンディス・ネルガルはセフィロトボウを構える。
 大帝を庇うように前に出て、シャーロット・セイニィは前に出た。
「……ここは私に任せて。大帝は他のネルガルを」
「……分かった」
 ゴライオン大帝は、この場を信頼すべき部下に任せ、自らの役割を果たしに行った。

「……大体、どうしてろくりんピックなのよ、ここはカナンよ?」
 カナンで十二星華しているシャーロットに言われたくはないだろうが、キャンディス・ネルガルは持論を展開した。

「くっくっく……シャンバラで開催されたろくりんピックの大成功は耳にしているネ。
 王国の発展には、次期ろくりんピックをカナンで開催する必要があったのヨ。
 しかし、そこでカナンの選手が金メダルを取らなくては意味がないネ。
 そこでミーは考えたネ!!
 開催国の地位を利用してちょっとスゴい薬で強化した選手や、女子選手に紛れて男の娘選手を次々と送り込むという大作戦をネ!!」
 それを聞いたシャーロット・セイニィはぽかんと呆れ顔をした。
「えーと、それってドーピング検査やセックスチェックを誤魔化す……ってことよね?」
 ふっふっふ、と含み笑いを漏らすキャンディス・ネルガル。
「大義のためにはあらゆる手段は正当化されるのネ。
 だが、女神イナンナは自国の発展のためだというのにこの計画と良しとしなかった!!
 邪魔者は死あるのみ、だからミーは……ってあれ?」

 キャンディス・ネルガルは、話の途中だというのにシャーロット・セイニィの星双剣グレートキャッツにより一刀両断されている自分に気付いた。
 まあ、正確にはグレートニャッツなのだが、気にしてはいけない。


「そ、そんな! まだ話の途中ネ!! 卑怯すぎるネ!! せめてスポーツで決着をーーーっ!!!」


 そんな抗議も虚しく、派手に爆発するキャンディス・ネルガル。
 それを見届けたシャーロット・セイニィは呟いた。


「卑怯はどっちよ。スポーツは参加することに意義があるのよ……せめてスポーツくらい正々堂々としなさいな」


『女神王国カナン〜決着はろくりんピックで〜』完


                              ☆


 また別の一室では、自称ドーナツの精ネルガル――ライカ・フィーニスと、愛とカレーうどんの戦士、岬 蓮は対峙していた。

 まあ、揃いも揃ってドーナツだったりカレーだったり。

「……ネルガル、覚悟しろ!!」
 手にしたカレーうどんも勇ましく、蓮は叫んだ。
 それに対し、精一杯の威厳を持って答えるライカ・ネルガル。
「ふっふっふ、よくぞここまで着たな勇士よ。だが、カレーうどんなどというふざけた武器でこの私を倒すことはできないのだぞ!!」
 その台詞にカチンと来た蓮は反論する。
「ふ、ふざけてなんかいない!! 私は愛するカレーうどんと共に生き、そして戦ってきた!!
 そっちこそネルガルのくせにドーナツの精なんておかしいよ!!」
 蓮の言葉にムキーと怒るライカ・ネルガル。
「何だとーっ!? ドーナツのおいしさを理解できない愚民めーっ!!
 こんな愚かな世界はバナナの皮に埋め尽くされて滅びてしまうがいいのだーっ!!」

「……ところで、ドーナツの精なのに何でバナナの皮?」

「……」
「……」

「喰らえ、我が最大の秘術!!」
「あ、ズルい!! 特に何も考えてなかったんでしょ!!」


 子供の喧嘩か。


 だが、蓮の抗議も無視したライカ・ネルガルは、5秒で考えた必殺の呪文を発動する!!

「バネーネ・ド・ドドーン!!!」

 バナナ! バナナ!! バナナ!!! バ! ナ! ナ! バナナ、バ・バ・ナ!!!

 独特のリズムが響き、周囲からおびただしい数のバナナの皮が飛来した。
「こ、これは!?」
 バナナの皮は空中を飛びまわり、次々とライカ・ネルガルの身体に装着され、あっという間に黄色いバナナアーマーになった!!
「ふははは!! このバナナの鎧を纏った私はまさにバナナの化身!! 喰らえ、バナナストーム!!!」
「うわぁーっ!!」
 身構えた蓮に向かって放たれる無数のバナナの皮!!


 バナナの皮である。


「……で?」
 せいぜい皮が当って痛い程度。まだ次があると言わんばかりに必殺技を連発するライカ・ネルガル。
「バナナブラストーッ!!」
 一直線に炸裂するバナナの皮!!
「バナナワインダーッ!!」
 狙いを外さず確実にヒットするバナナの皮!!
「野生バナナの蹂躙!!」
 どこからともなくやって来るバナナの皮の大群!!

「はあ……はあ……なかなかやるな……!!」
「いや、私何もしてないし」
 と、無傷の蓮はバナナにまみれた部屋を見渡した。
「よ、よかろう……ならば私自ら手を下してゲフッ!?」
 勢い良く突進しようとしたライカ・ネルガルはバナナの皮を踏みつけて当然のようにすっ転んだ。派手に後頭部を強打する。
「……ねぇ、大丈夫?」
「う、うるさい、この程度でやられる私ではネグシャッ!?」
 今度はおでこを強打。
 起き上がろうとした途端バナナの皮に足を取られたライカ・ネルガルは、部屋中をバナナの皮で滑りまくって転がりまくる。


「えーと……そろそろいいかな?」
「……うん」
 もはや起き上がる気配もなくなったライカ・ネルガルに向かって蓮はとどめのカレーうどんを放った。
「よいしょ」
「うわあーーー」


 適当な断末魔をと共に、小爆発をあげるライカ・ネルガルだった。


『女神王国カナン〜バナナ王国の野望〜』完


                              ☆


 志方 綾乃演じるネルガルは、飛空艇の上、大空の下で高笑いを続けていた。
「はーっはっはっは!! その程度では私は倒せませんよーっ!!」
 志方ネルガルの相手をするのは、リネン・エルフトとヘイリー・ウェイク。そしてフェイミィ・オルトリンデの3人だ。
 かつてネルガルに倒され、リターンマッチの勇者ヘイリー――ここではヘリワードと、勇者フェイミィの二人は果敢に攻撃を仕掛けるものの、その優しそうな外見の志方ネルガルに攻撃を当てることすらできない。

 それもそのはず、彼女はその外見からは想像もできないほどの実力者で、『イナンナの加護』や『護国の聖域』などで防御も充分に強化していたので、生半可な攻撃では通用しないのだ。

「ふふふ、無駄ですよ……どうせあなた達の苦しみはずっと続くのです……永遠にね……」
 志方ネルガルは、我は射す光の閃刃による光の刃を乱舞させた。

 ところでそれら、どっちかと言うと正義寄りの技ではないですか?

「きゃあーっ!!」
「うわぁっ!!」
「くそぉっ!!」

 天空騎士としてリネンから渡されたという設定の愛馬『ナハトグランツ』から落ちたフェイミィは、飛空艇の甲板に叩きつけられる。
 遠距離から弓で攻撃していたヘリワードも、強力な魔法攻撃の前になすすべもなかった。
 そして、イマイチ乗り気でない『勇者ヘリワードを純粋な心で勇気付けた勇者フェイミィの盟友の天馬騎士リネン』は呟いた。

「永遠に……続くって……どういう……ことなの」
 辛うじて言葉を発するリネンに、志方ネルガルはにっこりと微笑んだ。
「だってそうでしょう、考えてもみなさいな。
 これは映画なのですよ? ということは今あなた達がどんなに頑張っても次の放映ではまた苦しむことになるかもしれないのですよ?
 万が一大ヒットしたりしたら次回作も作られるかもしれません……そしたらお約束としてさらに強大な敵が現れるでしょう?
 つまり、これはもう戦いの無限ループなのですよ、それよりはここで倒れておいたほうが楽ではありませんか?」
 その言葉にがっくりと肩を落とす勇者ヘリワードと勇者フェイミィ。
「そ……そんな身もフタもない……」
「そういうこと言うなよぉー、やる気なくすなぁー」

 だが、俯いたままの少女――リネンだけは違った。

「……違う」
「……」
 相変わらず顔は俯いたまま。自分に自信など元々ありはしない。
 だが、それでもリネン言った。
「そんなのは……違う。これが映画なら……見る人に希望を与えるような……そんな物語でなきゃいけない……。
 それに、ここはカナン……。ならヘイリーはユーフォリア様で…フェイミィはマルドゥーク卿のようなもの……。
 それなら、私の役はフリューネだ……!!
 フリューネだったら、絶対にこの程度で諦めたりなんかしない!!」
 きっぱりと言い切って、リネンは前を向いた。

 空賊団として実際のカナン地方でも戦っているリネン。カナン地方の境遇も胸に去来するものがあったのだろう、リネンは演技でありつつも演技であることを忘れ、扱ったこともないハルバードをしっかりと構えた。

 傷ついた身体を震わせて、ヘリワードとフェイミィも立ち上がった。
「リネンにしては……よく言ったじゃない」
「いがみあってる場合じゃねぇな……いくぞ、勇者リネンのサポートだ!!」

 いち早くバーストダッシュで志方ネルガルに向かって突進する勇者フェイミィは、手にしたトライアンフで煉獄漸を放つ!!
「おおっ!!?」
 辛うじてその攻撃を受け止めた志方ネルガル、そこに勇者ヘリワードのサイドワインダーが炸裂した!!
「いっけぇーっ!!」
「ぐわぁっ!!」


「ネルガル、覚悟!!」


 そこに、勇者リネンのハルバードが力いっぱい振り下ろされ、志方ネルガルを捉える!!

「ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
 ここらが潮時と、おとなしくぶった斬られた志方ネルガルは、地面に討ち倒される。

「見事です、勇者リネンよ……だがこれは始まりにすぎないのです……。
 この映画が放映されるたび、民は虐げられ、女神は封印され、ネルガルは何度でも蘇る……。
 あなた達の戦いは永遠に続くのですよ……!!」

 それを見下ろし、リネンは告げた。
「はぁ……はぁ……ところで……」
「?」
「映画のたびに……何度も苦しむのは……むしろ何回も何回も倒される、悪役のほうじゃ……ないのかしら……」
 それを聞いた志方ネルガルは、ぐずぐずと地面に溶けていった。


「ああー、それは盲点でしたぁー。もう志方ありませんねぇ……」


『女神王国カナン〜しょせん映画なんだから志方ないじゃありませんか〜』完


                              ☆