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カナンなんかじゃない

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カナンなんかじゃない
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                              ☆


 そんな戦場を駆ける一台のジープがあった。
 その安くてオンボロなジープを操縦するのがジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)。ジープに乗って戦場の様子をカメラに収めているのがカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と天真 ヒロユキだった。

「ほらほらーっ!! そこ、もっと真面目に戦えーっ!!」
 ジュレールの運転する安ジープから身を乗り出しながら、手にしたメガホンを振るいつつ戦場を駆け抜けるカレン監督。
 監督自らカメラを手にして戦場の様子を撮っていく熱の入りようだ。

 そこに相変わらずテンションのおかしいヒロユキが加わったのだからもう大変だ。
「おーっ!! いいねいいね、その死に顔!! 迫真の演技だよーっ!!」
 ちなみに、撮られている死体役は日比谷 皐月(ひびや・さつき)である。

「ちょっと、そこ爆煙薄いよ、何やってんの!!」
 と、演技に興奮したカレンがファイアーストームをぶっ放して炎と煙を無理やり上げさせる。
「え、ちょっと監督!? 何やってるんですか!?」
 と、ネルガル軍の兵士、佐々木 弥十郎が抗議した。
「うるさーいっ!! 監督に口ごたえするなーっ!!」
 と、更にブリザードを放つカレン。
「おっと!!」
 だが、そのブリザードを仰向けに仰け反って奇跡的に避ける弥十郎。
「おお?」
「へっへっへ、そう同じ手は食いませんよってあれー!?」
 得意げに笑った弥十郎に今度はシューティングスターが炸裂する。
 流れ落ちてきた流星に当って木っ端微塵に砕け散る弥十郎。


 監督に抗議した佐々木 弥十郎、流星に死す!!


「ほらほら、どんどん行くよーっ!!」

 そんな弥十郎と皐月の死体を残して、ジュレールの繰るジープは戦場を駆けて行く。


                              ☆


「あれ?」
 ジープを止めさせたカレンは、一人の女性に話しかけた。
 その女性はリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。パートナーのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)と共に多数の軍勢を従えている。
 その軍勢の大半は一般人のようだったが、かなりの人数だ。

 そのリカインとシルフィスティをカレンは呼び止めた。
「あれ、ねえ君たちどっちの軍勢? 役柄に乗ってないみたいなんだけど」
 と、辛うじてリストにまとめられたカナン軍とネルガル軍のリストに目を通すカレン。
 だが、そんなカレンを嘲笑うように、リカインは宣言した。

「――どちらでもないわ、私はこの王国を治めていた女神にして女王、この国はかつて『カンナ王国』として栄えていたのよ!!」

「な、何ですってーーーっ!!!」

 と、驚くカレンを尻目に、リカイン・カンナは独り語りを始めた。
「そう……私はかつてこの国を治める女王だった。類稀な計算能力と天才的な閃きのもと、この国を治めていたのはいつの話か……。
 けれど、完全なるイレギュラーであるイナンナが現れてから、私の計算能力による予測は外れ始め、私はこの国を追われて行った。
 そしてネルガルによる反逆が始まった今がチャンスと私は悟った。
 隣国で身分を隠して歌姫として活動していた私は、いつしか絶大な人気を誇るようになっていた。
 今こそ、この混乱に乗じて私の王国を取り戻す時!!」

 つまり、ニセ環菜ですね。

「……よくもまあ、それだけ自分に都合のいい設定を主張できるわね……」
 と、カレン監督も呆れ顔。
「ほっといて。さあ行くわよフィス、数も戦力も正直言ってこちらはまだまだ不利。まずは優勢なネルガル軍に突撃してバランスを崩すわ、電撃戦よ!!!」

 リカイン・ニセカンナの合図で、フィスとカンナ軍はネルガル軍に突撃して行った。

「な、何だ!?」
「うわぁっ!!」
 だが、敵はカナン国軍とい義勇軍のみ、と思っていたネルガル軍にこの奇襲はそれなりの効果があった。
 自らの王国を取り戻すため、自ら先陣を斬るリカイン・ニセカンナとフィスに一般兵士が次々と蹴散らされていく。

「よおーっし、行くぞーっ!!」
 どうせ映画の中なら思う存分暴れてもOK、とやる気満点のフィスは超人的肉体と超人的精神を如何なく発揮し、手にした飛竜の槍で連続攻撃を放つ!!
「うわぁーっ!!」

 そこに、九条 ジェライザ・ローズが再び現れ、調子に乗るフィスに攻撃を加える!!
「ふんもっふ!」
 と、掛け声も勇ましく光術を放つが、フィスの超人的肉体の前にアッサリと霧散してしまう。
「あれ」
「喰らえぇ!!」
 逆にフィスの朱の飛沫を受けて真っ赤に燃え上がるローズ。
「ぎゃあああ!!」
「ロズ、ロズー!? しっかりしろ、傷は熱いぞー!!」
 ジェライザ・ローズ、戦友の冬月 学人と共にごろごろと転がりながら再び退場。


                               ☆


 ところで、七刀 切にうまいこと乗せられてネルガル役として飛空艇に合流したカメリアはというと。

「のぅ……切にぃ、儂はこんなところでのんびりしておっていいんじゃろか」

 飛空艇の一室でお茶を飲んでいるところだった。
 切はというと、そんなカメリアの様子をせっかくだからとカメラに収めている最中。
「切にぃ。どうせそのカメラは持って帰れんのじゃから、撮っても無意味じゃぞ」
 と、お茶菓子を頬張りながら冷静に突っ込むカメリア。
 だが、切も負けじと笑みを漏らす。
「ふっふっふ……確かにそうかも知れないがねぇ、こうして撮っておくことで映画のワンシーンとしてカメリアの映像が映ればいいのさ。
 そして後で映画関係者に掛けあってフィルムやテープを入手できれば、いつでもカメリアを見放題ってわけさぁ!!」
 それを聞いたカメリアは盛大に茶を噴いた。
 もちろん、切はそのシーンも見逃さない。
「そ、そんなこと考えておったのか。
 どうりで飛空艇までの道中、用もないのにオアシスで休憩したり、荒野の動物と遊んだりと寄り道しておると思ったら……」
「ふあっはっはっは! そんなカメリアの可愛らしい姿も全部このカメラに収めさせてもらったぜ!!」

 自慢げに胸を張る切に、もうカメリアは怒る気もカメラを回収する気もない。

「はぁ……もういい、好きにせぃ。……食べるか、ほれ?」
 と、手元のお茶菓子を切の方へと向けるカメリア。

「あーん」
「……」
 切は、お茶菓子に対して手を伸ばさず、代わりに口を大きく開けて見せた。

「あーん」
「……分かった分かった」
 根負けしたカメリアは、そのまま手を伸ばして切の口までお茶菓子を運んでやった。
 嬉しそうな顔で、お菓子を頬張る切。
「へっへー、さんきゅーだぜぃ」

「やれやれ……まるで大きな子供じゃな、切にぃは」

 目を細めて切の頭を撫でるカメリアだった。


 その飛空艇を、やたら目立つ背景、メキシカンな橘 恭司と、半ケツ サボテンはずっと戦場から眺めているのだった。