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昼食黙示録

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昼食黙示録

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第1章 平穏な日々の日常風景

 残冬の寒さから明けた皐月、とある日の蒼空学園ではいつも通りの時間が流れていた。
 朝からの登校で疲れた体を癒す貴重なお昼休み、生徒たちはようやく訪れた人時の休憩を楽しもうと各々動いていた。
 持って来たお弁当を友人たちで食べる者、久しぶりに食堂で安くて食べ応えのある食事をする者、購買でお目当ての品を手に入れようと奮起する生徒と様々である。
「いいですこと!? こ、今回もたまたまコンロの調子が悪かっただけですわ! あんな事故さえなければ見るも華やかなお弁当が出来あがっていたんですのよ!」
 そんな風景の中、食堂で一人の女生徒が何故か喚いていた。
 白く絹を思わせる肌、そんな両頬を真っ赤にしながら弁明しているレティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)
 レティーシアの話を聞いているのは彼女の前にいる黒く長い髪が特徴の加能 シズル(かのう・しずる)だ。
 だがシズルはレティーシアの話を真剣に聞いているようには見えず、それがますます怒れる女子を過熱させているのだ。
「次こそ成功しますわ! その時はこれまでの無礼を詫びていただきますわよ!!」
「そうね、まずはコンロに火を点火させただけで、爆発するようなことが無くなれば褒めてあげるわ」
 指を指して宣戦布告を思わせる発言をするレティーシアだが、シズルは彼女の顔を見ることなく答える。
 レティーシアは弁当作りに失敗している、それをシズルは知っている。
 ではシズルがなぜこんなにも素っ気ないのか、それはレティーシアの失敗が今回だけではないのだ。
 実は彼女、失敗は数知れず。そして毎度おなじみの台詞をこうして言ってるのだ。
 当然、毎回聞いているシズルからすれば信憑性など失せてしまう。
 そもそも、シズルは毎朝レティーシアの料理風景を見ては唖然するしかないのだ。
 裕福な家柄出身のレティーシアは普段使用人に食事を用意してもらっている。
 料理のスキルが乏しいのも仕方がないが、彼女はその事実を認めようとしない。
 この学園に来てからもそうだった。
 しかし調理実習という彼女にとっては未知の世界を知った時、考えが変わった。
 淑女たる者、料理くらい出来なくてどうする! と。
 意気込みは素晴らしい、しかし彼女には何の知識もない。
 そのため、毎度毎度料理する度に何かしら事件を起こす。
 そして必ず失敗しては、おなじみの食堂に彼女たちは訪れている。
 シズルも初めは応援していた、しかし限度というものが来てからは何も言う気がしなくなってしまったのだ。
 負け惜しみの台詞を吐いては毎朝見るも無残な正体不明の物体が出来あがる。
 シズルにはもうレティーシアを止めよとする気さえなくなってしまったのだ。
「そもそも火をつけただけで故障を起こすなんて非常識ですわ! 今度実家から最新のものを送らせまして、それで必ず成功しますわ!!」
「レティーシア、あなたも席探して」
「人の話を聞いていますの!?」
「うん、きいてるきいてる」
「きぃーっ!! 絶対にあっ!! と言わせて見せますわよ!!」
 レティーシアの言い訳に耳を貸す事もなく、適当に答えるシズル。
 昼時の騒がしい食堂で一人、金髪美少女が負けず劣らずの大声を張り上げていると、ある女生徒が声を掛けた。
「まぁまぁ、レティーシアさん。 淑女たる者、はしたないのではありまして?」
「……えっ? あっ、い、嫌だ……私としたことが……」
「落ち着きまして? それからシズルさん、こんにちは」
「つかさ? 葦原にいるあなたが何でここに……」
「それはですね、秘密ですわ」
「いや、答えになってないから」
「良いではありませんか、秘密を持つ女は美しくなる者でしてよ?」
 背後からの声にレティーシアは正気を取り戻す。見れば周りにいる者は皆レティーシアに対して苦笑を浮かべていた。
 興奮しすぎた、と今度は別の意味で顔を真っ赤に染め上げていく。
 そんな様子をうっすらと笑みを浮かべてみているのは声を掛けた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だった。
 つかさはシズルにも声を掛けるが、逆にシズルは他校の生徒である彼女が何故ここにいるのかと問う。
 だが答えようとしないつかさの答えにシズルはすぐにその疑問を払拭するのであった。
「ところで何か用? ただ声を掛けただけってわけじゃないでしょ?」
「そうでしたわね、よろしければお昼をご一緒にと思いまして。 今日はシズルさんのために腕によりを掛けて作ってきましたのよ」
「いや、別に頼んだ覚えは……」
「まぁまぁ、あそこに丁度いい感じに席が空いていますわね。 さぁさぁ、せっかくのお料理が冷めてしまう前に……」
「人の話は全く聞かないのね」
 どうやらつかさはシズルに弁当を持参してきたようだ。彼女の手の中には大層立派な重箱がある。
 そこからは何故かつかさのペースに持っていかれる女子二人。
 誘導されたテーブルに着くと、何故か誰も座っていなかった。
 これだけの混雑、あまりに違和感のある空白にシズルとレティーシアは戸惑いを見せる。
「どうかなさいましたの?早くお座りになられてはいかがですか?」
「いや、まぁその……何でここだけこんなに人がいないのかと……」
「苦労しましたのよ、色々根回しもしたので……」
「……根回し??」
「はい、お二人と楽しい時間を過ごすためにちょこっと小細工をしておきまして」
 何をしたのか、つかさは不敵な笑みを浮かべている。
 若干恐怖を浮かべる二人だが、とりあえずはゆったりとした昼食を過ごせると思い、無理やり納得する。
「ところで、つかささんは何を作っていらしたの?」
「ええ、シズルさんに美味しいものを思いまして」
「いや、もうここに料理が……」
「どうせあなたも素敵女子スキル皆無なのでしょ? どうぞこれを手本にしてくださいな」
「……あの、これは?」
「まさしく、謎料理ですわ。 創造者である私にも分からないのが売りですのよ」
「これを、私に食べろと?」
「平気ですわ、キュアポイズンもありますからどうぞ遠慮なく」
「全力で拒否するわ」
 つかさの予告のない弁当の持参にシズルは困るばかりだった。
 すでに彼女は食堂の抵触を持って着席している。食べ過ぎては女とし危険な一歩を踏み出しかねない。
 だが行為は受け取るべきだと考えたが、重箱の中身を見て硬直してしまう。
 弁当の定番、卵焼きにタコさんウィンナーまではいい。だがその傍には黒くて元の食材さえ分からない物体Xがあった。
 解毒薬があるから食べろというつかさに、シズルは即答で拒否する。
 そんなやり取りを見ているレティーシアもつかさの弁当を見て、これはないと内心思っていた。
 しかし彼女も同じものを作っていたのを忘れているので、どっちもどっちである。
「ほら、こちらはともかくアーンして下さいな」
「や、止めなさいよ!! 一人で食べられるから!」
「平気ですわよ、ちゃんと上の口に入れますから」
「待て、何処に何を入れる気だ」
「さて、何のことやら」
「あ、シズル発見!!」
 タコウィンナーの頭を橋でわしづかみしながら、シズルの口に運ぼうとするつかさ。
 シズルが必死で抵抗していると彼女の名を呼ぶ生徒。
 頭に魚らしき帽子をかぶった茅野 菫(ちの・すみれ)が料理片手に彼女たちの席に近づいてきた。
「菫? あなたまで何でここにいるのよ?」
「いやぁ、たまたま蒼空学園に遊びに来てたらシズルを見かけて、それにお昼だから一緒に食べたいなぁと思って」
「遊びって……」
「レティーシアもこんにちわ! それから、秋葉つかささんですよね?」
「あら、私の事を存じ上げていますの?」
「はい、名前だけですけど」
「とりあえず座ったら……って何その山盛りサラダは?」
「なんか、沢山食べなさいっておばちゃんがくれたんだよね」
 菫の登場でさらに活気づく女子一行。
 シズルの隣に座った菫も料理を食べていく。