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【賢者の石】マンドレイク採取

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【賢者の石】マンドレイク採取

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第二章

――ジャタの森入り口。
 木々が生い茂ってはいるものの、この辺りはまだ多少人の出入りがあるためか、まだ歩きやすくなっている。

「では、また後で」
 到着したアゾート達はそれぞれに別れ、森へと入っていった。
「それじゃ、ボク達も行こう」
「あれ、そっちへ行くのかい? マンドレイクは奥の方にあるんじゃ?」
 奥に進まず、入ってすぐに曲がったアゾートにウェルチが問いかける。
「うん、こっちにも僅かだけど目撃例があるらしいんだ。ジャイアントとの交戦は避けたいからね」
「……こっちとしては交戦してもらいたいんだけどね」
「うん? 何か?」
「いや、何でも?」
「おや、あなた達は……アゾートさんにウェルチさんじゃありませんか」
 アゾート達に、何者かが声をかけてきた。
「え? そうだけど……」
「ああ失礼、私はエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)と申します。以後お見知り置きを」
「……おや、キミの足元にあるのは……マンドレイク?」
 ウェルチがアザトースの足元を見ると、土からマンドレイクの葉が出ていた。
「ああ、そういえばアゾートさん達もマンドレイクを採取しに来たんでしたね。私も薬品の材料にとマンドレイクを採取に来たのですが……中々厄介ですねこれ。呪術で取ろうとしたのですが、使い物になりませんね」
 アザトースが溜息を吐いた。彼の手には、元々マンドレイクであったろう物質が握られていた。
「仕方ありませんね……やはり引き抜くしかありませんか」
 そういうなり、アザトースはマンドレイクを徐に掴んだ。
「ちょ! 引き抜いたら危ないよ!?」
「え? ああ、私アンデッドですから大丈夫ですよ。アゾートさん達は離れていてください」
 慌てて止めようとするアゾートであるが、ウェルチが肩を掴んで止める。
「ボク達は離れていよう」
「で、でも……」
 何か言いたげなアゾートであったが、ウェルチに連れられていく。その様子を確認してから、アザトースはマンドレイクの葉を掴んだ。
「さて……ふぅッ!」
 アザトースが力をこめると、土が掘り起こされ中からマンドレイクが姿を現し、
「■■■■■■■■ーーーー!!」
悲鳴がアザトースの鼓膜を振るわせた。

「……大丈夫かなぁ」
「随分気にしているね。アンデッドだというのならば大丈夫じゃないのかい?」
「いや……アンデッドというのは、結局死体を魔力で保っているわけだよね。ということは、魔力での攻撃は効果があるんじゃないかと……」
「……戻ってみようか」
 踵を返し戻ってきたアゾート達が目にしたのは、
「……どうやら、駄目だったみたいだね」
瀕死状態で倒れているアザトースの姿と、その横に埋まったマンドレイクだった。

 アザトースを入り口まで連れて行き、アゾート達は再度戻ってきたがマンドレイクはまだ土に埋まっていた。
「これ、また戻っちゃったのかな?」
「そう考えていいんじゃないかな」
「うーん、やっぱり悲鳴が危険だね……どうしようか」
「お困りかな、お二人さん?」
 背後から声をかけられたアゾート達が振り返ると、そこには五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が立っていた。
「それ、引き抜くなら一つ案があるんだけど、乗ってみない?」

「ふっふっふ、上手くいけばいいね〜」
 湖を見て、終夏がほくそ笑む。
「成程、水の中なら叫ばないということか」
 感心したようにウェルチが言った。
 終夏の案というのは、マンドレイクを凍らせるという物であった。
 まず周囲の土を深めに掘り、その中に水を流す。そしてマンドレイクごと【氷術】で凍らせた後、土ごとマンドレイクを回収。
 凍らせたマンドレイクは近くにあった池に沈め、氷を溶かす。溶けるまでの間、アゾート達は近くで雑談をしつつ時間を潰していた。
「……さて、そろそろいいかな?」
「何、もうそんな時間か?」
 終夏の言葉に、アゾートと話していたフラメルは驚いたように言った。
「もうって……結構経ってるよ」
 終夏が呆れたように言った。
「ふむ、久々に同好の士と会話したせいか、あっという間に感じてしまったよ。いや、中々有意義な話が出来たよ」
「うん、ボクも興味深い話が出来たよ……それじゃ、取ってこようか」
「ああ、ならば私が行こう。楽しませてもらった礼だ。引き上げるくらいさせてもらおうか」
 そう言うとフラメルが池へと歩いていった。
「フラメルったら嬉しそうだなぁ〜。アゾートちゃんと話せたのが嬉しかったのかな?」
「……引き上げる?」
 何処か嬉しそうに終夏が言うが、アゾートは何かに気づき、考え込む。
「あれ、どうしたんだい? 浮かない顔してるけど」
 そんな考え込む表情をしているアゾートに気づいたウェルチが問いかける。
「うん……今ふっと思ったんだけど……マンドレイクって、土から抜いた瞬間に悲鳴をあげるんだよね」
 うんうんと、ウェルチと終夏が頷く。
「あのさ、今やっていることって結局土を水に置き換えているだけになるんじゃ……」
 アゾートが言うと、皆少し思案顔になり、やがて全員の顔が青ざめる。
 そして、ほぼ同時に走り出した。

「ん? いきなり走り出してどうしたのだろうか?」
 背後の物音を聞いたフラメルが振り返ると、アゾート達が走り去る背中が見えた。
「ふむ……まあいい、こっちが先だ」
 しかしあまり気にせず、池に着いたフラメルは近くの木に縛ったロープを掴んだ。先はマンドレイクの葉と繋がっている。
 ロープを引くと、水の底に沈んでいたマンドレイクが上がってくる。一緒についていた土はすっかり落ちている。
 水から引き上げられようとした瞬間、縛りが甘かったせいかロープからマンドレイクが抜けた。
「おっと」
 沈む前に辛うじてフラメルは葉を掴む。
 そして水から上げられ、空気に触れたマンドレイクは、
「■■■■■■■■ーーーー!!」
アゾートの予想通り、悲鳴を上げた。

「……あちゃー」
 終葉が頭に手を当てる。戻ってきたアゾート達が見たのは、やはり瀕死状態に陥ったフラメルであった。
 マンドレイクはと言うと、何処かへ逃げてしまったのかロープしか残っていなかった。
「……とりあえず、一旦戻ろう」
「そうだね……ごめんね迷惑かけて」
 フラメルを連れて、アゾート達は再度森の入り口へと戻るのであった。