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【賢者の石】マンドレイク採取

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【賢者の石】マンドレイク採取

リアクション

 一方、前列を進むグループ。
「うーん……なんか後ろの方が賑やかだなー」
「芹菜、しっかり前を見ろ」
「あ、うん」
 ルビー・ジュエル(るびー・じゅえる)に窘められ、天心 芹菜(てんしん・せりな)が前を向きなおす。
「けど随分と楽しそうだね」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が後ろを振り向きながら呟いた。
「……それにしても、何もないね」
「巨人とか出くわさないで、このままで終わればいいんだけど」
 その後に続く白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)白瀬 みこ(しらせ・みこ)が辺りを見回しながら言う。
「そう油断もできないみたいだけどね、同化するって話だし」
「そうですね……でも、何も無ければそれはそれでありがたいですがね」
 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)音井 博季(おとい・ひろき)が周囲を注意深く窺う。森の中、現れる巨人は周囲の地形と溶け込む姿をしているといわれている。
「本当にそうだといいんだけど……カディス、大丈夫?」
 水神 樹(みなかみ・いつき)カディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)に声をかけた。
「ははは……大丈夫ですよ」
 元々青白い顔を更に青くし、カディスは息を切らしながらついてきていた。
「……そうは見えないんだけど」
「本当に大丈夫ですよ。これしきで病院送りにはなりませんから」
 そういいつつも、咳き込むカディスに樹は溜息を吐きながら「危なくなったら言ってね」と言う。
「……ふう」
 今度はその前を歩く歩夢が溜息を吐いた。
「どうしたのよ歩夢? まさか、アゾートと一緒になれなかったのがショック?」
 その溜息を聞きつけたみこが、歩夢に耳打ちする。
「う、うん……実は……」
 落ち込んだように歩夢が言った。今回、同じ新入生のアゾートと一緒に居られたらと思い護衛に参加したのだが、グループ分けで離れてしまった事に少なからずショックを受けていた。
「まあ今回は仕方ないじゃない。次もあるし、あんま気落ちしないのよ」
 優しく肩を叩き慰めるみこに、小さく「ありがとう」と歩夢が言った。
 その様子を見た芹菜が、歩夢達に駆け寄る。
「どうしたの歩夢ちゃん、疲れた? 疲れてたら遠慮せず言ってね」
「はい、ありがとうござ……せ、芹菜さん後ろ!」
「え? うわっ!」
 芹菜が振り返る先に、緑色の巨人――フォレストジャイアントが、巨大なウォーハンマーを振り下ろそうとしていた。
 咄嗟に芹菜が飛び退け、ハンマーは地面にめり込んだ。 
「大丈夫か芹菜!」
「う、うん、なんとか!」
 ルビーに手を借り、芹菜が立ち上がる。
「周囲に同化していて気づかなかったか……何時の間に」
「何にせよ、ただで通してくれそうにはありませんね……」
 博季の言葉に、皆が身構える。
「ちょっと待った!」
 そう叫び、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が前に飛び出した。
「ど、どうしたの? 危ないよ!?」
「あれと交渉してみるよ」
「交渉!? そんな無茶な……」
「相手はそこそこ知能があるんだよね? ならこっちに引き込めるかもしれないよ。ジュレ、行くよ!」
「あ、ちょっと!」
 止めるのも聞かず、カレンとジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が巨人の前に躍り出る。
「あまり無茶をするなよ、カレン」
「大丈夫よ……ねえ君、ちょっとこっちの話聞いてみない?」
 話しかけるカレンであるが、巨人はこちらに敵意をむき出しにしていたのが伝わった。
「そんなに敵意むき出しにしなくてもいいよ? あのね、パラ実生がどんな条件を出したか知らないけど、こっちも悪い話じゃないよ?」
 尚もカレンは話しかけるが、巨人の態度は軟化する事無く、武器を握りしめる。
「う、うちもいい条件出すよ〜? 食料とかさ?」
 遂に、巨人がハンマーを高く掲げた。
「む、危ない!」
 振り下ろされる前に、ジュレールがカレンを抱えて飛び退く。その少し後、ハンマーが地面に突き刺さった。
「あの様子では交渉の余地は無さそうだな……仕方あるまい、迎撃する!」
 ジュレールがレールガンを構えた、その時だった。
「……? 何か、様子がおかしいよ?」
 カレンの言葉通り、巨人は苦しそうな呻き声を漏らすと、うずくまるようにして動きを止めた。
「かかったか……美味い話を持ち出すだけが交渉ではない」
 そう言ってシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、巨人の前に立つ。
「一体何を……」
「なぁに、ちょっと罠をかけてやっただけよ。乗ると腹痛を起こす罠を、ね……いくぞラムズ」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が頷き、巨人の前に立った。
「巨人よ、痛いか? 苦しいか? そうじゃのうそうじゃのう」
「ここで引いていただければ、こちらとしてもそれ相応の対処はしますよ」
 苦しむ巨人を前に、『書記』とラムズが言う。何処と無く『書記』は嬉しそうだ。
「……自分でやっておきながら平然と」
「恐ろしい性格ですね」
 だが、巨人は痛みを堪えるように立ち上がり、吼えた。
「……書記、これはどういうことで?」
「うむ、余計怒らせたようじゃな」
「交渉決裂、というわけですね」
 巨人が大きくハンマーを掲げる。
「おっと」
 『書記』とラムズが避け、ハンマーが土を抉る。
「やるしかありませんね……」
 ラムズの言葉に、皆が武器を構えた。
「あのハンマー、予想以上に早いね」
 トライアンフを構え、リアトリスが呟く。
「なら遠距離から仕掛けよう……ん? これは、霧?」
 銃を構えた紅鵡が、周囲に霧が出た事に気づく。
「痛ッ……これは……【アシッドミスト】です! 皆さん下がって!」
 霧に触れた博季が顔を顰めながら皆を下がらせる。
 触れた箇所に熱を、その後に鋭い痛みが走る。
「大丈夫!?」
「これくらいは平気です。やはり離れてやるしかなさそうですね」
 そう言って博季が呪文を唱えようとしたときだった。
「危ない!」
「……ちっ!」
 飛んできた【氷術】の氷に、詠唱を止め博季は避ける。
「他にも術を使えるのか……厄介ですね」
「みこ、みんなに防御魔法をかけて!」
「わかった!」
 みこが詠唱し、【ディフェンスシフト】がかけられる。
「けど……どうする?」
 巨人は中々厄介な相手であった。近距離はハンマーがあり、遠距離も術がある。
 近づこうにも【アシッドミスト】やハンマーに阻まれ、遠距離から術を使おうにも、あの巨人にダメージを与えるような術を唱える前に邪魔をされる。
「何とかするとしたら……あの術か。あの術が出せなくなれば何とかなるかも……」
 ハンマー自体は素早くはあるが、大振りである為避けやすい。しかしそれ以上に厄介な物は巨人の魔術だ。歩夢達が防御魔法をかけてくれてはいるが、直撃されると危ない。
「だったら僕が向こうが撃てなくなるまで挑発するよ」
 リアトリスが武器を構えて言うと、樹がそれを止める。
「いえ、それならば私が【忘却の槍】を使います。こいつを刺す隙をお願いします」
 樹が【忘却の槍】を見せると、リアトリスが頷いた。
「わかった、僕が囮になって隙を作る」
「私も協力します。気を引くくらいならできるでしょう」
 リアトリスとカディスが頷く。
「お願いします……では!」
 樹が駆け出すと同時に、リアトリスが巨人の前に躍り出る。
「ほらこっちこっち!」
 リアトリスに目標を定めた巨人が、呪文の詠唱を始める。
「そちらばかりではないですよ!」
 巨人に向かって石が飛んでくる。カディスが【サイコキネシス】で飛ばしたものだ。
 どちらを狙うか、躊躇いが巨人に生まれ、それが隙となる。
「はぁッ!」
 樹が駆け寄り、【忘却の槍】を巨人の体に突き刺す。
 刺突は致命傷になるほどのダメージは与えられていないが、突き刺さればそれでいい――それが目的だ。
 樹の突撃に怒る巨人が詠唱を始める。が、槍で封じられた巨人から術が放たれることは無い。
「よし!」
 それを見た樹は一瞬であるが、気を抜いた。だから気づかなかった。
「よっしゃあいただきぃーッ!」
 背後に、パラ実生が隠れていた事に。
「!? しまっ――」
 槍を突き刺したことで今、樹に武器は無い。咄嗟に手で防御体勢をとる。
「させないよ!」
 横から飛び出してきたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が拳でパラ実生を吹き飛ばす?
「え? どうして……」
 樹が驚き目を丸くする。レキは樹達の後方のグループだ。
「大丈夫かい、樹?」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が樹に手を差し伸べ、引き起こす。
「何か危険を感じたから来てみたけど……漁夫の利なんてフェアじゃないねぇ。こっちはワタシ達に任せて、樹達はあっちを頼むよ」
「うん、わかった!」
 立ち上がった樹が、巨人へと向き直った。

「いけぇ!」
 芹菜が唱えた【雷術】が巨人を襲い、巨人はハンマーを構えて堪える。
 その隙を突き、樹、リアトリス、ルビー、歩夢が攻撃をする。
 巨人は苛立ったように、ハンマーを掲げ振ろうとした。
「よし、そこだ!」
 紅鵡が引き金を絞る。弾丸は巨人の頭に当たり、呻き声が上がる。
 そこで再度近距離攻撃を仕掛ける。遠距離攻撃で隙を作りつつ、近距離からの集中攻撃を繰り返す。
 頑丈な巨人であるが、この繰り返しにより着実にダメージが蓄積されていった。苦しそうな呻き声を漏らし、ふらつくようになっていた。
 また、巨人は苛立っていた。攻勢に移りたいが、魔術が使えない今防戦一方になるだけの状況に。
 何度目かわからない攻撃に耐え、苛立ちは限界に達したか巨人は咆哮と共にハンマーを大きく掲げた。
「離れてください!」
 そこを狙っていた。博季が唱えた【ファイヤーストーム】が、巨人を襲った。
 炎に包まれ、悲鳴のような声を上げる巨人。やがて炎の嵐が止むと、巨人の手からハンマーが離れた。
「やったか?」
「いえ、まだです」
 しかし、巨人は立っていた。荒い息を吐き、身体をふらつかせながらも。
「なら押し切る!」
 巨人に向かって、紅鵡が銃を乱射する。頭、胴に弾丸が着弾し、巨人が呻いた。
 そして、ほぼ同時に樹、リアトリス、ルビー、歩夢の武器が巨人を貫く。
 限界に達した巨人は、崩れ落ちるように倒れると、二度と目を覚ます事は無かった。

 一方、パラ実生達は焦っていた。
 奇襲をかけたはずが、あっさりと返り討ちに遭い、更に頼みの綱の巨人まで倒されてしまった。
「どうやら、向こうは終わったみたいだねぇ?」
 弥十郎が後ろを見て呟くと、パラ実生達は悔しそうに歯軋りする。
 現在、パラ実生達は一人敗北したことにより三人。対峙する相手は二人。数の上では有利であるが、一人があっさり敗北してしまった、ということが彼らを動揺させていた。
「どうする? 大人しくしたほうがいいと思うよ?」
「くっ……舐めるんじゃねぇ!」
 レキの言葉に切れた一人が襲い掛かる。
「はぁっ!」
「ぐふぁ!」
が、あっさりと鳩尾のカウンターを喰らい、膝から崩れ落ちた。これで人数は二対二。
「「お、憶えておけよ!」」
 状況を不利と判断した二人は、即座に逃げ出した。
「あ、待て!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!」
「このまま逃げるぞ!」
 だが、
「逃げられると思っているのかのぉ?」
「そうはいかないっての」
二人の前を、ミア・マハ(みあ・まは)須藤 雷華(すとう・らいか)が立ち塞がる。
「くっ……」
「ど、どうする!?」
 思わぬ相手に、二人はたじろぐ。
「大人しくしておいた方がいいのではないか?」
「その方が身の為なんじゃない?」
 迫られた二人が、お互い視線を交わす。
「なあ……」
「ああ……」
 そして、お互い頷くと、
「「死にさらせぇぇぇぇぇ!」」
武器を掲げ、それぞれに襲い掛かった。一撃で二人を倒したレキを相手にするより、目の前の二人を相手にした方がいいと判断したのだ。
「やれやれ、わかりやすい奴らじゃのぉ」
「本当、予想通りというか」
 ミアと雷華が呆れたように溜息を吐いた。
――二人の結末は、というと
「「ぎゃあああああああ!!」」
ミアに襲い掛かった者は【炎の精霊】に焼かれ、雷華の方は【エレキギター】による電撃で感電させられ、あっけなく倒れた。

「おう、遅かったのぉ」
「あれ、終わっちゃったの?」
 弥十郎とレキが追いつくと、そこには逃げた二人が倒れていた。
 一人は真っ黒に焦げており、もう一人は感電したかのように痙攣している。
「うーん、ワタシ何もする事無かったねぇ……」
 倒れたパラ実生を見て、弥十郎が呟く。
「とりあえず縛っておこうね、聞きたいこともあるし」
 そう言って、弥十郎がロープを手にした。