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【賢者の石】マンドレイク採取

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【賢者の石】マンドレイク採取

リアクション

「というわけでアゾートさんにも協力して欲しいと思いまして」
 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)がアゾートに話しかける。内容はマンドレイクの採取方法についてだ。
 内容はというと、マンドレイクを土から誘い出した後、土に水をかけ【氷術】で氷結。戻れなくなった所を捕獲、というものであった。
「術士が二人居れば、タイムラグ無く術をかけることが出来るので有利ではないですかね?」
「うーん、どうだろう。マンドレイクがそのまま埋まった場所に戻ろうとする特性があればいいんだけど。後誘き寄せる方法をどうしようか……」
「ふむ、そうですか……ミンストレルの方がいれば良かったのですが」
「ほら、だから言ったでしょう玄秀」
 アゾート達の会話に、ティアン・メイ(てぃあん・めい)が会話に割り込んできた。
「あなたは未熟なんだから、先輩とかに任せていればいいのよ」
「あのねぇティア……そう言ってたら何の為に来たのさ。戦闘に参加しないならせめて採取に協力しないと。それとも、ティアは何かアイディアでもあるの?」
「そ、それは……」
 玄秀が言うと、ティアンが黙ってしまう。無策のようだ。
「……それにしても、見当たらないなぁ」
 アゾートが呟く。先程から歩き回っているが、マンドレイクが見つからないのだ。
「ですねぇ、まずそっちが先か……ん?」
 ふと、玄秀が足を止める。
「どうしたの、玄秀?」
「いや、あそこ」
 玄秀が指差す先には、固まって話し合っている者達がいた。
「パラ実生……ってわけじゃないわね」
「何してるんだろ……ねえ、どうしたの?」
「え? あ、アゾートさん!?」
「ああああアゾートさん!? どうしてここに!?」
 アゾートが声をかけると、南部 豊和(なんぶ・とよかず)エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が振り返り驚いたように声を上げる。
「いや、見かけたから声かけたんだけど……何かあったの?」
「ん? ああアゾート様か。いやな、コイツを見つけたんだがな……」
 レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が自らの足元を指差す。そこには、土からマンドレイクの葉が顔を出していた。
「これ、マンドレイク!」
「ああ、やはりこれがそうか。今コイツを引き抜こうと思ったんだが……」
 そう言ってレミリアが手に見せたロープとザイルを見せる。
「これがどうしたの?」
「長さがな。精々70メートルくらいしかない」
「70メートル……多分悲鳴聞こえますね」
 玄秀の言葉にレミリアが頷いた。
「それでエリセル様と協力しようと思ったんだがな」
「は、はい……私の【アトラク=ナクアの神糸】を使おうとも考えたんですけど……これ、最大でも20メートルなんです」
 おずおずとエリセルが言う。
「計90メートル……やっぱり近すぎるね」
「はい……」
 アゾートの言葉に、沈んだ声でエリセルが頷く。
「そうだ、それなら、耳栓をしたらどうです?」
「耳栓? でも普通のじゃ効果はないみたいだよ?」
 豊和の案に、アゾートが反応する。
「ええ、それならマンドレイクの葉を使って耳に詰めればもしかしたら対抗できるかも」
「やめておいた方がいいよ、それは」
「え、なんでです?」
「マンドレイクの葉には毒がある、って話もあるらしいから。皮膚ならともかく耳につけたら危ないんじゃないかな」
「そ、そうなんですか……」
 アゾートの答えに、豊和が落ち込んだ声で答えた。
(うぅ……アゾートさんに弟子入りするという目的がぁ……)
(マンドレイクを渡してお友達になるって目的がぁ……)
 豊和とエリセルが小声で何かを呟く。
「え? 何か言った?」
「「い、いいえ何も!?」」
 アゾートに聞かれた二人は慌てて首を振る。
「うーん……何か方法ないかなぁ」
「……あーもう、見てられないわね」
 突如、草むらを掻き分け茅野 菫(ちの・すみれ)が現れた。その後ろには困ったような表情のパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が立っている。
「みんな大騒ぎしすぎじゃない? 簡単に抜ける方法があるのよ?」
「え、キミ知ってるの?」
「知らなかったらこんな態度取らないわよ。ちょっと耳貸しなさい……あ、男達はそっち向いててね」
「え、何で?」
「女性じゃないと駄目だからよ」
 訝しげな表情になりつつも、男性陣はよそを向き、女性陣は菫に耳を寄せる。
「いい、あのね……」
 菫がにやり、と笑みを浮かべ女性陣に耳打ちする。
「……な、なぁッ!?」
 みるみるうちに、ティアンの顔が赤く染まっていく。
 その内容というのは要約すると、
・経血や女の尿を撒く
・処女がマンドレイクの周りを笑い踊る
・処女が裸で性的な動作をする
という物であった。
「そ、そんなことできないわよ!」
「あら、命と恥を天秤にかけてあなたはどっちを選ぶの?」
 意地の悪そうな顔で菫が言うと、ティアンは言葉を詰まらせた。
「……何の会話をしてるんでしょうかねえ?」
「さあ?」
 その様子を離れてみていた豊和と玄秀が首を傾げた。
「……うーん、ちょっといいかな?」
「ん、何?」
 アゾートが問いかけると、菫が顔を向ける。
「多分『笑い踊る』と『性的な動作』っていうのは意味無いんじゃないかな」
「え? な、なんで?」
「いや、儀式的な物だとしてもちょっと疑わしいかなぁと」
 うっ、と菫が言葉を詰まらせた。
「となると後は経血か尿か……しまったな、私は先ほど済ませてしまったばかりだ」
 レミリアが困ったように言った。
「ボクも今はちょっと」
「……あの、私の場合って効果あるんでしょうか?」
「どうだろう……?」
 エリセルの問に、アゾートは首を傾げる。
「……なんであんたらはそんな平然としてるのよ。面白くないわねー」
 そんな三人の様子を見て、菫はつまらなそうに呟く。
「菫……そんなのじゃなくてもっと違う方法があるじゃない……あのねみんな……」
 見かねたように、パビェーダがみんなに説明を始めた。

「……なんで誰もいないのよ」
 菫がぶつぶつと文句を呟きつつ、作業を始める。
「自業自得よ、からかうから」
 そんな菫に呆れたように言いつつ、パビェーダが手伝う。
 パビェーダが説明した方法というのは、『剣で三重の輪を描き、西の方角を向いて抜く』という物であった。菫が調べてきた方法で、こうすると悲鳴を上げないとあった。
 アゾート達は万が一の危険を考え、離れている。
「うん、できたよ」
 パビェーダが剣を置く。地面には三重の輪が描かれていた。
「ありがと。えっと、西はこっちかな……」
「うん、そうだと思う」
「よし、やるか」
 そう言って、菫はマンドレイクを掴んだ――

「……駄目だったかぁ」
 暫くしてアゾート達が戻ると、倒れている菫とパビェーダがいた。溜息を吐きつつ、今日何度目になるかわからない被害者の様子確認を行なう。
「……あれ?」
 二人の様子を見たアゾートが首を傾げた。
「二人とも、意識失ってるだけだ……」
 他の失敗した者とは違い、ただ気を失っているだけであった。二人の傍らには、一本のマンドレイクが落ちていた。
「……これの効果なのかなぁ?」
 地面に描かれた円を見て、アゾートが呟いた。

「えっと、これどういう状況なのかな?」
 アゾートが目の前の光景に、首を傾げる。
「……さあ、俺もよくわからん」
 同じくパラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が首を傾げる。
 二人の目前の光景と言うのは、
「いやいやいやいや流石にその冗談は笑えませんから! 死んじゃいますから!」
何故か魔法少女の女装をさせられ、マンドレイクを抜くよう迫られている月詠 司(つくよみ・つかさ)と、
「大丈夫よ、そこに医者も居るんだし。ってことで安心して逝ってらっしゃいな♪」
司をビデオカメラで撮影しながら、さもおかしそうにマンドレイクを抜くよう迫るシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の姿があった。
 何故こんなカオスな場にアゾートが居るのかと言うと、先ほどマンドレイクを手に入れてから別のマンドレイクを探している最中に、パラケルススが『マンドレイクを見つけたので一緒に抜かないか』と誘ってきたのだ。
「あの人達は知り合いなのかな、フィリップさん?」
「え? ああ、フィリップか、俺の事ね」
 アゾートに問いかけられ、パラケルススが慌てて答える。ちなみに『フィリップ』というのはパラケルススがアゾートに名乗った偽名である。
 何故偽名を名乗っているか、というのは色々と理由があるが、一番の理由は『面白そうだから』とのことだ。
「えーっとあの女装している奴が助手で、ビデオカメラ持ってる奴が……その、知り合い?」
「何で知り合いが?」
「それは面白そうだからよ」
 パラケルススの代わりにシオンが答えた。
「……だそうだ」
「はあ……」
「さあ解ったら早く抜きなさいツカサ」
「無理無理無理ですって! 抜いたら死んじゃいますって!」
「だから大丈夫よ。死んでもそこの医者が何とかしてくれるから」
「できねーよ」
 パラケルススが突っ込むが、シオンはスルーした。
「というか、何で私が抜くんですか!?」
「だって、マンドレイクって『可愛がっている犬に引っこ抜かせる』のがベターなんでしょう? ツカサはペットなんだから、ほら」
「誰がペットですか! ……って待てよ……そうですよペットですよ!」
 司が顔を輝かせて言った。
「何ツカサ、やっと自分がペットであるって自覚が出てきたの?」
「違いますよ! そうじゃなくて、シオン君のペットですよ! ゾンビを使えばいけるんじゃないですか!?」
「あー……うん、その方法いけるかもしれないね」
 アゾートが同意すると、司がうんうんと頷く。
「ほらこう言ってる事ですし、そうしましょう!」
「……ちっ、もう気づいたか」
 露骨に不機嫌そうにシオンが呟く。
「最初からその方法考えてたのかお前は……」
 そんなシオンにパラケルススが呆れたように呟いたが、それを無視してシオンはつまらなそうにゾンビに指示を始めた。

「無事手に入ってよかったですね」
 手に入ったマンドレイクを見て、司が嬉しそうに言った。
「……ええそうね」
 司とは対照的に、あからさまに面白く無さそうな表情でシオンが言う。
「……なんか、悪かったな」
 そして、申し訳無さそうにパラケルススがアゾートにマンドレイクを手渡した。

「こっちは今の所一本だね」
「ボクは二本……全部で三本か」
 合流したアゾートとウェルチは、手に入った分のマンドレイクを確認しあっていた。
「さて、これからまだ探す?」
「うーん、本数としてはこれでもいいかなぁ……」
「おお、丁度いいところに!」
 シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が、やたらと高いテンションでアゾート達に駆け寄ってくる。
「ど、どうしたの?」
「マンドレイクを見つけたのですよ! これから抜くので是非ともあなた方も一緒に!」
「え、でももういいかなって……」
「さあ、行きましょう!」
 アゾートが断ろうとするが、シメオンは聞いていなかった。
「……どうしようか?」
「……とりあえず、行ってみよう」
「さあ早く! こちらです!」
 やたらと高いテンションのシメオンの後を、仕方ないといった感じでアゾート達は着いていった。

「連れて来ましたよ!」
「……ああ、アゾートちゃん連れて来たのか。ご苦労、救世主サマ」
 ククク、と笑いながらゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がシメオンに言う。
「それで、どうやって抜くつもりなの?」
 アゾートがゲドーの足元にあるマンドレイクを指差すと、彼はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ああ、俺様の【アンデッド】ちゃんにこれから抜かせる所……それじゃ、抜いちゃって」
 ゲドーが指示すると、【アンデッド】がマンドレイクの葉を掴む。
「ちょ、ちょっと逃げないと悲鳴が!」
「あー? ああ大丈夫大丈夫。俺様には【デスプルーフリング】があるからねぇ……ククク、早く逃げないとみんな死んじゃうかもねぇ?」
 ゲドーが愉快そうに笑う。
「止めないの?」
「ああなると彼は止まりませんよ! さあ逃げるのであれば早く逃げるのです!」
 ウェルチが聞くと、シメオンがやはり高いテンションで答えた。
「んー……ねえ、【デスプルーフリング】ってどのくらい効果あるのかな?」
 ウェルチがアゾートに問いかける。
「え? どうして?」
「いや、さっき悲鳴に対して歌声で対処したんだけどさ、それでも完全には相殺しきれなかったんだよね」
「……え?」
 ゲドーの笑いが止まった。
「うーん……ボクもわからないなぁ。でもああいうアクセサリーって『耐性がある』っていう物だから、完全に効果を消すのは難しいかも」
「なん……だと……?」
 ゲドーは考える仕草をし、やがて笑顔を引きつらせてこういった。
「……ジョーダンだよ、ジョーダン……そこの救世主サマだっているのに、そんなことやるわけないじゃん」
「ああ良かった……」
 アゾートがほっと安堵の息を吐いた。
「それじゃその方法でやろう。さっきその方法で大丈夫だったから安全だよ?」
「す、既に他の奴に使われている……だと……!?」
 ゲドーの身体が、わなわなと震えた。
「……彼、大丈夫なの?」
「彼はいつもあんな感じなのですよ! きっと大丈夫でしょう!」
「……そう見えないんだけどなぁ」

「……ほら、もっていけ」
 【アンデッド】に引き抜かせたマンドレイクを、ゲドーがアゾートに渡した。
「あ、ありがとう……」
 アゾートは受け取りつつも、先ほどまでハイテンションだったのが沈みきっているゲドーが気になっていた。
「あの、大丈夫?」
 おずおずと、アゾートが聞くと、突然ゲドーは走り出した。
「ちくしょおおおおおお!! みんな不幸になっちまえぇぇぇぇぇ!」
「あ! 何処へ行くのです!?」
 走り出したゲドーを、シメオンが追いかける。
「……なんだったんだろうね?」
「さあ、手に入ったからよかったんじゃない?」
 首を傾げるアゾートに、ウェルチが言う。
「それで四本目だけど、これからどうするの?」
 アゾートは空を見て、少し考えて言った。
「うーん……もう暗くなるから引き上げようか。本数は十分だし」
「うん、そうしようか」
 そう言って、アゾート達は皆との合流場所へと足を向けた。

「……ありがとうね」
 合流場所へ向かう途中、アゾートが小さく呟いた。
「ん? いきなりどうしたのかな?」
「お礼だよ。今日マンドレイクを採取できたから」
「ボクは何もしてないよ?」
 苦笑するウェルチに、アゾートが首を振る。
「そんな事無いよ。キミが一緒に行く、って行ってくれなかったら、多分ボクだけだったら一本も手に入ってなかったと思う。だから、みんなに言う前にキミにお礼を言うよ。ありがとう」
 アゾートが言うと、ウェルチは微笑みながら言った。
「いいよ、ボクも色々見て結構楽しかったしね」