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【賢者の石】マンドレイク採取

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【賢者の石】マンドレイク採取

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第三章

――ジャタの森は奥に進むにつれ、植物の数が増えていった。
 足元に絡みつく草、行く手を阻むかのような木々。それらを避けるようにして、アゾート達は奥へと進んでいた。
 本来、奥に進むだけであれば直線に進むのが近道なのであるが、あえて遠回りするルートを選んでいる。万が一の奇襲対策の為だ。
 アゾート達は三つのグループで進んでいた。まず一つ目のグループが前を進み警戒、その後ろを二つ目が更に警戒し、最後にアゾート達のグループが通る。相手にジャイアントが居る事を考え、警戒を強めていた。
「わかってはいるけど……時間が掛かるね」
 アゾートが額の汗を拭いつつ、歩く。
「大丈夫ですか、アゾートさん?」
 先頭を歩く風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が振り返り言った。
「いや、ボクは大丈夫。それより余り時間が掛かると暗くなるから、急いだ方がいいかもしれないよ」
「そうですか、何かあったら言ってくださいね……隼人、そっちはどう?」
「こっちは異常無さそうだ」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)が様子を見つつ言う。二人は【殺気看破】で警戒しつつ、先頭を立っている。
 その横についた優斗と隼人が二人揃って鼻歌を歌いだした。地上にある星の場所を何故かツバメに聞くという、壮大なんだかわからない曲だった。
「そういえば、隼人はどうして今回参加したのさ?」
「ああ、単純に興味があったからってのもあるんだけどな……」
 そう言うと、隼人はニヤリと笑みを浮かべ、隣に居るソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)を見て言った。
「うちのソルランがどうやらアゾートに一目ぼれしたらしくてな
「ほう」
「ちょ!? な、何ばらしてるんですか!」
 慌ててソルランが隼人の口を塞ごうとする。
「ボクがどうかした?」
「ひゃあッ!? あ、アゾートさん何故ここに!?」
「いや、名前が聞こえたから……」
「お、丁度いい所に……そうだ、俺たち弟子にしてもらえばいいんじゃないか? そうすりゃ会う口実にも……」
 そこまで言って隼人の口が止まる。ソルランが武器を構えていたからだ。
「そ、ソルラン?」
「……こっちがいいとこ見せようと色々考えてたってのにこのカスが……!」
 先ほどとは打って変わり、殺る気満々な空気を醸し出すソルラン。
「まて落ち着け、ここは一つ冷静にだな」
「死に腐れこのカスがぁーッ!」
「うわぁーッ!」
 武器を振り回し襲い掛かるソルランから、隼人が必死で逃げる。
「……なんだったの?」
「ええ、ちょっと余計なおせっかいだったみたいです……あの二人止めないとなぁ」
 苦笑する優斗に、アゾートは首を傾げる。

「なんか面白いことになっているね」
 その様子を離れて見ていたウェルチが、笑みを浮かべて言う。
「面白い、ね……意外だな」
 その言葉を聞いた黒崎 天音(くろさき・あまね)が呟く。
「あれ、意外かな? ボクだって面白いと思う感情くらいあるよ?」
「ああ失礼、あまりそういうところを見た事が無かったからね……意外と言えば、今回の件も意外だな」
「どういうこと?」
「君が【賢者の石】なんて物に興味があった、ということさ。知らなかったよウェルチ・ダムデュラック」
 まさか、とウェルチは手を横に振った。
「ボクは【賢者の石】に興味は無いかな」
「ふむ、それじゃ何故参加したのかな? 是非知りたいものだね」
「それは企業秘密ってとこで」
 ウェルチが天音に笑顔を向けた。その笑顔の裏には、拒絶の意思があった。
「……やれやれ、気になるんだがね」
「随分とその男に執心だな」
 何処か不満げに、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が呟く。
「おや、どうしたんだいブルーズ。随分と機嫌が悪いな」
「悪くなど無い」
 そう言いつつも、ブルーズは眉間に皺を寄せ面白く無さそうな態度を取っている。
「そうは見えないんだがなぁ。どうして機嫌が悪いのか教えてくれないか? 一度気になると治まらないのはお前も良く知っているだろう?」
「だから我は不機嫌などではないと言っているだろうが!」
「……やれやれ」
 天音の興味が自分から逸れた事に、ウェルチは安堵の息を吐く。
「隙ありぃッ!」
 そのウェルチの背後から、葛葉 明(くずのは・めい)が抱きつきにかかってきた。
「ほいっ」
「きゃうん!」
が、あっさり避けられた。
「くっ……このあたしの気配を感じ取るとは……流石ね」
「いや、あんな後ろから鼻息荒くしていたらバレバレだと思うんだけど……何をしようとしたのかな?」
「あなたの乳を揉もうとしたのよ」
 明が胸を張って答える。
「……ボク、男だよ?」
「おっぱいハンターたるもの、男女の乳に差別などしないわ!」
 ウェルチが『厄介なのに絡まれたなー』といった顔で苦笑する。
「くっ……しかし狙いがばれてしまったとなると今回は難しいか……でもいつか揉んでみせるわ! あなた、名前は?」
「え? ウェルチ・ダムデュラックだけど……」
「ふむ……今回は大人しく引き下がりましょう。けど次回は覚悟する事ね、チムチム!」
 そういうと、明は踵を返した。
「……チムチムってボクの事なのかな?」
 ウェルチが呟く。
「とりあえず今回はお前の乳揉ませろー!」
「ひゃあああ! な、何この人!?」
 そして、ターゲットがアゾートに向いたことに再度安堵の息を吐くウェルチであった。

「ちょ、ちょっといきなり何してるのキミ!?」
 ターゲットにされたアゾートはもがくが、明に抱えられてしまい逃げられない。
「ふっふっふ、それくらいで逃げられると思わないでよね……む、これは中々……」
「そこまでよ」
 近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)が、明に二つの銃口を向ける。
「む、なんであたし銃口向けられてるのかな?」
「不審人物だからよ。あたしは彼女の護衛なの。わかる?」
「不審人物だなんて失礼ね、違うわよ」
「この状況で不審人物じゃないって言い切れるのが凄いよ……」
 アゾートが疲れたように言った。
「とにかく、とっとと彼女から離れなさい。さもないと排除対象に……って何見てるのよ?」
 明はヴィクトリカをじっと見た。ヴィクトリカがその視線を辿ると、身体――胸に向けられているということに気づいた。
「……ふぅ」
 そして、明が何か言いたげに溜息を吐いた。
「……何が言いたい」
「今はまだ揉まないでおいてあげるわ。その身体が成熟して揉み頃になった時――って撃った!? 今本当に撃った!?」
 ヴィクトリカの二つの銃口から硝煙が上がる。弾丸は外れたが、明は驚きアゾートを離した。
「そう、そんなに撃たれたいの……」
「撃たれたいって今撃ったから! そ、そうか揉まれたいのね!? 幼女だって胸は――」
「誰が幼女だぁぁぁぁぁ!!」
 まるでマシンガンのように二つの銃から弾丸をばらまく。それを明が悲鳴を上げながら必死に避けていた。
「……パラ実生相手にする方が楽なんじゃないかな、これ」
 解放されたアゾートは、そんな二人を見て溜息を吐いていた。

「……ボクの時もあんな風に来てもらいたかったなぁ」
 離れてアゾート達を見ていたウェルチが呟く。
「申し訳ありません、うちのヴィクトリカが……」
 呟きを聞いたアーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)が頭を下げる。
「警戒はしているのですが、まさか内部にいるとは……」
 その横で、沢渡 真言(さわたり・まこと)が溜息を吐く。
「敵意を持っているってわけじゃないからねぇ、あれは」
「ええ……あれ、そんな隠れるようにしてどうしたのですか?」
 真言に話しかけられ、ひっそりと目立たないようにしていたマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)がびくりと身体を震わせた。
「し、しーっ! しーっ! 声が大きい!」
「どうしたんですか? あなた、随分ウェルチさんを気にしているようでしたのに」
「そそそそそそんな事ありませんよ!? おにーさんそんな気になんてしていませんよ?」
「……誰?」
 訝しげにウェルチが尋ねると、
「ああ、私のパートナーです」
と、真言が言った。
「……マーリンだ」
 渋々、といった具合にマーリンが自己紹介する。
「……マーリン? ああ、そういうことか」
 ウェルチは何かに気づき、意味深な笑みをマーリンへ向ける。
「ど、どういうことだ?」
「さあ?」
 ウェルチが笑って誤魔化す。
「お二人は知り合いなのですか?」
「そ、そういうわけじゃないんだが……ちょっと昔の知り合いに似ているような、って奴か?」
 アーサーに問いかけられ、マーリンが苦笑しつつ答える。
「成程……実は私もお二人とはどこかで会った様な気がしまして……そうですか、昔の知り合いですか……」
 納得するように頷くアーサーに、
「案外、昔どこかで会っているのかもね……ねえ?」
とウェルチが意味深な笑みを浮かべたままマーリンに同意を求めた。
「は、はは……ソウカモネー」
 マーリンは苦笑しつつ、答えた。