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イルミンスールの割りと普通な1日

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イルミンスールの割りと普通な1日

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●喧嘩しても一緒に戦うのです。

(ああ、もう……どうしてこうなってしまったのだろう)
 ティアン・メイ(てぃあん・めい)は現状を嘆く。強がらずに勝負を放棄して一緒にミスリルゴーレムを倒してもらおうと言えばよかった。
 目の前には、ミスリルゴーレムがとてつもなく大きく見えて存在する。
 不動の壁。どんな魔法も効きにくいミスリルの巨体。
 事の始まりは木崎光(きさき・こう)との口論からだ。
『ちょっとばかり年上だからって! えっらそうに、上から目線でご高説たれやがってっ!! 気にいらねぇ! ちったぁラデルを見習え!』
 そんな光の売り言葉。
 本来ならやんわりと注意をするだけで済む話だったのだが、ティアンもそれに乗ってしまった。
 授業でどちらがより早くゴーレムを倒せるか。
 それが勝負の条件だったのだが、光が引いたのはウッドゴーレムに対して、ティアンが引いたのはミスリルゴーレムだ。
 引いたゴーレムの種別は光には伏せた。同情とかされたくなかったからだ。
 傍で、高月玄秀(たかつき・げんしゅう)がため息をついた。
『いい加減にしてくれないかな、ティアの奴……』
『みんなで力を合わせて頑張ったほうがいいと思うのです……』
 ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)もティアンにそう言う。
 だが、そんな言葉を耳にしても、徐々に引き下がれなくなってきていたのだ。
 そして、今に至る。
 蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)とヒメナ、玄秀が誘導して、ミスリルゴーレムの動きを抑制するまではできた。
 それでも、魔法が効かない絶望感は異常だ。
「道中あの子たちと会わなかったから、邪魔のしようがないわね。ま、でも、今こっちかな」
 路々奈はそういいながらも、ギャザリングヘクスで強化した氷術でミスリルゴーレムの行動を阻害する。
 ダメージ自体は軽微だ。そして残念なことに、行動阻害も微々たる物しか効果を得られていない。
「ティア、落ち着いて。一応、ゴーレムの動きは鈍ってはいるんだから」
 玄秀はティアンに落ち着くよう促した。
 その間にも、サンダーブラストを打ち込んでみたりと、いろいろと試してはいるものの力不足な面が効果を見て理解できてしまう。
 そんな時、
「ようよう、ティアンさんよう」
 どこの不良だと思われてもおかしくない、乱暴な口調が割り込んだ。
 既に自分たちの引いたウッドゴーレムを倒してきた帰りなのだろう、光とパートナーのラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)
 それに、光たちのチームのエンデ・マノリア(えんで・まのりあ)オーフェ・マノリア(おーふぇ・まのりあ)がいた。
「俺様はさっさとウッドゴーレム倒してきたんだけど、おまえ、まだ倒してなかったのか?」
 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて、ティアンに自慢をする。
 そんなティアンは肩を震わせて、怒りを我慢する。
「光、ちょっと見て見なさい……」
 ラデルが呆れて、目の前のミスリルゴーレムを指差した。
「僕にはミスリルゴーレムに見えるね」
 ニコニコとエンデは答えた。
「一番強い、ゴーレム」
 オーフェもエンデの答えに賛同する。
「そういうことです」
「流石に、今の物言いはどうかとおもうなあ?」
 ラデルは呆れて頭を抱え、エンデは光の顔を覗き込んだ。
「う、うるさい! みりゃ分かるってんだ! ああもう……、なんでミスリルゴーレム引いたなら言わねぇんだよ! 意気揚々とお前たちを馬鹿にしながら勝利の余韻を味わうとかできねーだろ!?」
 頭をガシガシとかきむしって光は地面を蹴った。
「つうか、逃げろよ! 最初の説明で逃げるのも一つの授業だって言っただろ!」
「それは、私が年上だから……!」
「ああもう! いいよ、俺様たちの負けで。最弱ゴーレムを呆気なく倒して帰ってくるよりも、どう考えたって最強のゴーレムと逃げずに戦ってるお前のほうがすごいよ!」
 だから、と光はティアンの前に立つ。
 小さいながらもその背中は正義の味方のようにティアンには見えた。
「おしゃべりしてると、危ないの」
 戦線を支えている三人を指差しオーフェは言う。
 息も絶え絶えで、後少しすれば攻撃を交わし続けていられなくなりそうな三人だ。
 氷術での動きの疎外に、オーフェはサイコキネシスで加わる。
 ほんの少しだけ、動きの阻害が大きくなるが、それでもミスリルゴーレムは拳を繰り出してくる。
「ラデル!」
「分かってるって」
 光の言葉が発せられる前に、ラデルは動いていた。
 駆け出しざまにアイスプロテクトを自身に掛け、直撃コースにいるヒメナを横抱きに避ける。
「ありがとう、ございます……」
「いいって。うちのリーダーが決めたことだから……」
 ラデルは乾いた笑いを浮かべて、ミスリルゴーレムと対峙した。
「ごめん、あたしもそろそろ限界」
「後ろに下がってゆっくりしていて」
 路々奈も後ろに下がった。
 前線に出ているのは、エンデ、玄秀、ラデルの三人。
「お互い苦労しますね」
「全くです……」
 玄秀とラデルはお互いのパートナーの愚痴を一言ずつ。
 しかし、時間も残り少ない。光たち意外は既に継続して戦闘を行えるほど体力は残っていない。
「よし、決めた!」
 光が叫ぶ。
「逃げるぞー!」
 余りにも突飛なことに、一同言葉を失う。
 その隙が仇となり、ラデルがミスリルゴーレムの一撃をモロに貰い目をグルグルと回した。
「逃げるが勝ちって言うよね」
 エンデはラデルの襟をしっかりと握り、引っ張っている。体ががっくんがっくん打ち付けられているのは哀れとしか思えない。
 そうして、何とかミスリルゴーレムを撒くことに成功した一同だった。
 単位を取得した光たちと、取得できなかったティアンたちだが、そこにもう亀裂は無かった。
 お互いぎこちないながらも謝り、一緒にお昼に向かうのだった。