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イルミンスールの割りと普通な1日

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イルミンスールの割りと普通な1日

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●お昼、宿木に果実にて。

 空は快晴。お日様も頂点でぽかぽかと暖かい日差しを撒き散らしている。
 正午だ。イルミンスールの生徒たちにとってのお昼休みである。
 そんな生徒でごった返す世界樹付近を飛行している二人がいた。
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
 二人は羽のついた球状の物を、ラクロスのスティックのようなものでやり取りしている。
 飛行速度はそれなりに速度が出ており、それでも球を落とさないのは二人の息が合っているからだろう。
 枝や人を避けてはやり取りをする。
 しばらく続けていたが、
「そろそろ食事でもどうでしょう?」
 ザカコがそう提案した。
 近くには丁度『宿木に果実』がある。
「そうだね、丁度お腹も空いてきたし」
 ルカルカはザカコの提案を受け入れた。
 二人は着地し、店内へ。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
 そんな二人をお出迎えするのは、この店の看板娘ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)
「二人だよ」
「では、空いてるお席にどうぞ」
 ミリアに促され、二人はまだ席の殆ど埋まってない店内の一角に座った。
「今のイルミンは食事をしながら景色も眺められてと、ある意味贅沢ではありますね……」
 窓から外を覗き、ザカコがポツリと呟いた。
「そうだね。やっとこっちも戦争から帰還したけど……。休暇終わったらまた戦争なんだろうなぁ」
 うーん、とルカルカも同じようにぼやいた。
「ルカルカさんも戦争続きで大変そうですね……こちらも、エリュシオンに攻められたり欧州からの圧力がかかったりと……」
 ザカコからもため息が漏れている。
「今日みたいな何も無い日々が続いてほしいですね」
「そうだよねー。やっぱり平和なのが一番だよー」
 お互いがお互いとも平和を望んでいた。そして、こんななんでもない平凡な日常を甘受している節すら見受けられた。
「ダメダメ、変な話になっちゃってね! 注文しよっか!」
 ぶんぶんと首を振ってルカルカはメニューへと視線を落とした。
 同じように、ザカコも何を注文するのか決め始める。
「すいません、注文いいですか?」
 注文が決まったザカコが店員を呼んだ。
 こうして、二人の割りと平凡な1日は過ぎていくのだった。



 からん、とお客様を告げるベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませ、宿木に果実へようこそ」
 そこで一礼。
「何名様でしょうか?」
 慣れた様子で、お客様をエイボン著『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)は迎え入れる。
 普段からパートナーである、本郷涼介(ほんごう・りょうすけ)と一緒にここでミリアの手伝いをしているのだ。
「4人です」
 そう答えるのは、非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)だ。後ろにはパートナーであるユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)もいた。
 後ろの三人はどうやら午前中にあったゴーレムを魔法だけで倒すという講義について話しているようだった。
「お席のほうにご案内いたしますね」
 4人の先頭をエイボンの書は歩く。そして、エイボンの書は今日もまた忙しくなりそうだと心の中で思った。

 席に案内され、メニューに目を落としながらも、近遠たちの間で話題になるのは、午前の講義だった。
 反省会とも賞賛会とも取れる内容だ。
「今日の講義も、貴公が言っていたようにゴーレムが動いていたが……」
 そう切り出すのはイグナだ。何か魔法を使ったかのように近遠が言った方へゴーレムが動いていたことへ驚いているようだった。
「別に何もしてませんよ? ただ巨体故に動きは読みやすいですし、ゴーレム自体がボクの言った方へ動くように誘導していたんです」
「そう言えば、目標のゴーレムとの接触位置や時間も言われたとおりでしたわね」
 関心したようにうなずくのは、ユーリカだ。
 近遠たちの番が大分遅めで、ゴーレムの行動等を観察することができた結果だと近遠は言うが、それでもすごいとほかの3人は近遠を褒め称えている。
「アルティアは近遠さんには先のことが見えているのかと思っていたのでございます……」
 先のことが見ることができればどれだけいいことやら、と近遠は内心ため息をついた。本来、近遠自身運動神経は皆無に近い。それ自体がコンプレックスに近いものになっているが、その代わりに得たのは観察することの楽しさや重要さだ。
 今回の魔法の講義も指示を飛ばして、的確に倒すことできた。ただそれだけだった。
 だからこそ、ユーリカたちが好きなように動き回ってくれるのは羨ましい反面もあり、信頼している部分もあるのだ。
「昼食、頼みましょうか」
 近遠は穏やかな笑みを浮かべて、信頼している3人に提案をした。
 近くには注文をいつとろうかと、うろうろしているエイボンの書がいたのだ。
 こうして、近遠たちのお昼は過ぎていくのだった。



 慌しくなってきたな、と佐野和輝(さの・かずき)は思った。
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)が絶賛する宿木に果実に休日を利用してきた3人は、盛況ぶりに驚いていた。
 早いうちに席を取り、すでに食事の大半は終えている。
 今は食後の歓談タイムだ。
 アニス自身はスノー・クライム(すのー・くらいむ)に何事か耳打ちをしてさっさと厨房の方へと向かっていった。
 この店ではどうやら、ミリアという女性がレシピを教えてくれるようだ。
「ここの料理は値段も手ごろで、料理も美味しいな。雰囲気もいいし、アニスが絶賛するのも分かる気がするな。でも俺が美味しいって言ってから慌しくレシピを聞きにいくアニスはどうしたんだろうか」
「和輝に美味しいって言ってもらいたいのよ」
「俺はちゃんと美味しいと言っているはずなんだがなぁ……」
 なぜそこまで燃え上がることができるのかは謎だった。
「美味しいものを美味しいと、ちゃんと言って食事を残さずに食べているし……何が悪いのだろうか」
 必死に考えをめぐらせるが、答えには行き着かない。スノーが和輝を見て苦笑を漏らしていた。
「でも、現状に満足しないで上を目指すという姿勢は凄いと思うな」
 そう言って、和樹は注文したコーヒーに手をつけ、持ってきていた本を開いた。
 そこでふと和輝は複数の視線に気がついた。
 今日は休日でみんな余所行きの格好をしている。普段は軍服姿だがスノーもオシャレをしているんだった。
 綺麗なスノーがオシャレをしていれば当然視線が集まるのも頷ける。美味しいと料理を食べ笑顔を浮かべていたスノーに男子が反応していたしな、と思い直していた。
 和輝はもう一度姿勢を正し自分がスノーの男除けとして機能するように堂々としておこうと思った。

 スノーはスノーで、アニスから自分が和輝の女除けになるように頼まれていたのだ。
 例えば、美味しそうに料理を食べている和輝の姿を見ている子達がいたら、気づかれないように睨み付けて威嚇してみたり。
 今だって、本を読んでいる和輝の姿にうっとりしている子達がいるみたいだから、わざとらしく音を立ててカップをテーブルにおいてみたり。
 ささやかな行動の中に和輝は自分のものなんだという主張を張り巡らせている。
(そ、そうよ! 私は和輝の女除け。だ、だから……か、か、彼女の振りをしたっていいのよ!)
 内心ではいつ焦りが顔に出るのか分からないけれど、スノーも堂々としていようと思ったのだった。