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武装化した獣が潜む森

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武装化した獣が潜む森

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つぐむ
 機晶姫であるガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)がガチャガチャと音を立てながら歩み寄った。
「ダメだな、こんな破片しか回収できなかった」
「そんなに? いや、十分でしょう」
 黒幕の自爆により炎上したトレーラー。消化の済んだ内部から回収したのは『パワードスーツ』の破片、どれも手のひら大のものばかりだったが、ガランはそれを両手いっぱいに集めていた。歩く度に音を出していたのはその為でもある。
「どうだ? 解析の方は」
「あぁ、まぁ大方は……」
「何だ? 思わしくないのか?」
「いや、そうじゃないんだが……」
 トレーラーが炎上するよりも前、明子レリウスが沈めたグリズリーから回収した『パワードレッグ』が手元にはある。時間も十分にあったはずだ、つぐむならとっくに解析を終えていると思ったのだが……。
「あぁん」
 つぐむの背後で声がした。しかも本気で艶めかしいミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)の喘ぎ声がした。
「らめぇ、つぐむ様ぁあん」
 …………釈明しておこう、つぐむは一度も彼女の肌に触れていない、無論ガランも他の生徒もグリズリーもナメクジだって一匹たりとも這ってはいない。全て彼女の思いこみ、つぐむがしている解析の一挙一動に反応して「ドM妄想モード」を発動しているだけである。
「……ガラン、頼む、連れてってくれ」
「……いや、これは単純に怒鳴りつけて追い出せば―――」
「それをしても喜ぶだけだから困ってるんだ」
「はぁ……。なるほど」
 ガランに引かれて退場させられるまで『ちょっと、いや、どうして? つぐむ〜〜』なんて言っていたが、情け容赦なく速攻でこの場から排除した。つぐむの名誉のため、そして何よりこれ以上竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)に悪いものを見せたくはなかった。
 その真珠は皆が傷を癒している場で無線を手にしていた。一行がなななから預かっていた無線、その通信が繋がっているという。皆に飲み物を配っていた際に最も近くに居た為に無線に出たのだそうだ。
「あっ、つぐむちゃん! つぐむちゃん! こっちこっち!!」
 真珠が手を振って呼んでいる。無線の相手はなななだという。
 ちょうどいい、こちらも報告したいことがあったんだ。そう前置きしてからつぐむはスーツの解析結果を報告した。
「残念だけどこれは『パワードレッグ』で間違いない」
 彼の興味は『パワードスーツ』の更なる可能性にあった。獣たちが装備していたスーツは既存のスーツに誰かが手を加えた「改良型」なのか、はたまたシャンバラの管理外の「違法品」なのか「新型」の可能性だってあった。それなのに。
「トレーラーから回収した破片の解析はまだだが、おそらくそれらも教導団で作られた物だ、スーツも既存の物に間違いない」
ん〜、ということは盗まれたって事になるのかな〜
 間の抜けたような声が聞こえてきた。それでもなななは「盗まれた量を考えると〜盗まれたというよりは横流しされてるって事かな〜」と追論した。この思考の早さが少尉たる所以だろうか。
「それだけではない」
 トレーラーに突入したが報告した。
「自爆した男の服の裏地に寺院のエンブレムが見えた。鏖殺寺院の残党といった所だろう」
 シャンバラに生きる者であれば少なからずその名は聞いたことがあるだろう、また悪行を重ねる者として思い浮かべることもまた難しい事ではない。
「鏖殺寺院か〜でもその人も自殺しちゃったんでしょ? とりあえず一安心って事かな?」
「一安心……?」
 顔を見合わせるつぐむなななはアッケラカンと続けた。
「だってグリズリーもみんな倒したんでしょ? こっちもねぇ〜ハンマーラプトルを見事にゲット!! 捕獲したんだよ〜」
 渾身のVサインが見えた気がした。そのままのノリで彼女は『ラプトルを地に沈めた者たちの名前』を紹介していった。
ローザマリアでしょ〜、敬一セオボルトも捕まえたよね。あとはリネングラキエス、あっ、ロアなんてね、捕まえた後にその肉を焼いて食べちゃったんだよ! なななも食べさせて貰ったんだけどこれが意外に普通に美味しくて―――」
「………………いや、ちょっと待て……」
「え?」
「多くないか?」
「何が?」
 目撃者の証言にあったラプトルは4体、しかし「ななな組」が捕獲したラプトルは6体。明らかに多いのだ。
「はっ!!」
「いま気付いたのかっ!!!」
 なななは既に知っていたはずだ秀幸組」は今もグリズリーを追跡している』ということを。
 そして4体のグリズリーを沈めトレーラーの消火活動までしたこの場に彼らの姿はない、つまりラプトル同様にグリズリーも目撃証言にあった数よりも多く存在するという事になる。
「えっ?」
「それって……つまり」
「小暮たちが危ないっ!!!」
 敵数はもはや未知数。
 「秀幸組」の追うグリズリーがただ一匹の『はぐれ』でなかったなら。
 待ち受けているもの、それすなわち窮地―――