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ラムネとアイスクリーム

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ラムネとアイスクリーム

リアクション

 
 シューワシューワッ ラムネーを
 ゴークゴークッ のんでー
 ゲプ〜っと ハモぉ〜って
 わ〜らいあう〜♪

 シュワポンッキュー いつもー
 シュワポンッキュー みんなー
 シュワポンッキュー えがおーでー
 おやつーのー じっかん〜♪

 ちょうど歌い終わったところで、来客がある。
「じゃまするぞ。わらわにも何か作ってくれ」
「どうぞ……と、良いんですか? 確かお店が……」
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)の店に腰掛けたのはシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)。アキュートが危惧するように、シニィは羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)闇ラムネの店を出していたはずだった。
「気にするな。企画としては悪くはないが、アルコールが入っておらぬ時点で、わらわには用なしじゃ。まぁ、見ている分には良い肴になるがな。肴があれば、酒が欲しくなるのは道理じゃろう?」
「かしこまりました。ではシンプルなところから」
 アクキュートはウォッカをラムネで割った、ウォッカラムネードを出した。ラムネの空き瓶を横に置くと、歌っていたペト・ペト(ぺと・ぺと)が触手を伸ばして中のガラス玉を取ろうとする。ネオン担当のウーマ・ンボー(うーま・んぼー)は、体中に電飾をつけて店の周りをプカプカ浮いていた。
「漢は、過去を振り返ってばかりではいけない。だが、思い出と共に交わす酒は、明日への良き活力となるだろう」
 ウーマが何か宣伝らしいらしいことをつぶやいてはいるものの、もっぱら興味を持つのは子供達だった。時間が経つごとに、体に巻きつけた電飾コードに風車やら風船やらがどんどん挟み込まれていく。もちろん子供達が面白がって増やしていくものばかりだ。
「しかしあちらは賑やかですね。こちらはバイオレットラムネード(ヨーグルトリキュール+ブドウ果汁+ラムネ)です」
「うむ、ゲーム感覚がうけているようじゃの」
 少し離れた露店では、羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)が客寄せに励んでいた。
「闇鍋ならぬ闇ラムネよー! さぁ!この中から好きなメニューを2つ選んでね! この言葉1つ1つが飲み物です! それが何かは飲んでみてのお楽しみ! どちらか一つを当てた人にはアイスクリームをプレゼント。2つとも当てた人には伝説の焼きそばパンもどきをプレゼント! さぁ、我こそはと思う人は挑戦してみてね!」
 少額で挑戦できることもあって、子供から大人までが参加していた。
 挑戦者は箱の中から2つの言葉を選ぶ。それから連想するような飲み物と、ラムネとの3つを混ぜ合わせてオリジナルドリンクを作る。ラムネ以外のものを当てることができるかどうかだ。

 箱に入っている言葉は次の通り
 ・果汁100%
 ・すかっとさわやか
 ・落ち着く
 ・目覚め
 ・子供
 ・どろっと
 ・現役
 ・お腹の敵
 ・24時間バトル
 ・生姜

「ゲテモノではないんですよね。ライム・ラッシュ・ラムネード、略してラララ(ジン+ライム果汁+ラムネ)です」
「うむ、一つ一つは普通の飲み物ばかりじゃ。しかしお汁粉と緑茶とラムネを飲んでみたいかのぉ」
「別々に……なら」
 悲鳴をあげる人がほとんどだったが、偶然おいしい飲み物に仕上がっていることもある。また当てる方も一つくらいであれば、特徴のあるものが当たり。まれに2つとも当たることもあった。
「あの焼きそばパンはどこから? こちらソルティラムネード(ウォッカ+グレープフルーツ果汁+ラムネ+グラスの縁に塩)です」
「うむ、駄菓子屋の焼きそばパンにしたかったようじゃが、さすがに限定品で断られたそうでな。止む無くどこかから似たようなものを仕入れてきたと言っとったな」
「ま、それで怒る人もいないかと。シャンデラムネード(ビール+ラムネ)です。お好みで黒ビールもできますが」
「うむ、それも頼む。余興としては十分じゃろうて。持ち出しも多いようじゃが、これまでの放送でお世話になっているからと、自腹だそうしゃ。そんな金があれば、わらわに酒の一杯でもご馳走してくれれば良いものを。解説者として散々引っ張り出したくせにのぉ」
「拝見しました。なかなか面白かったですよ」

「えっ、サイン? やだぁ、私、ジャーナリストやライターであって、タレントやモデルじゃないんですよー。よく間違えられるんですけど、困っちゃうなー」
 などと答えながらも、まゆりはさらさらとサインを書いた。
「あれは1週間練習しておったな。何百枚の紙を無駄にしたことか」
「写真? 忙しいのでちょっとだけね。はい、チーズ」
「あのポーズは3日間考えとったぞ」
「それは、それは。まぁ、努力の一つなのかと。クリビア」
「はい、こちらクリビア・スペシャル、フランボワーズ・ショコラ・ラムネード(フランボワーズリキュール+チョコレートリキュール+ラムネ)です」
 アキュートではなく、クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)が立っていた。
「そなたバーテンもするのじゃな。ふむ……一杯どうじゃ? ほれ店主も」
 クリビアはアキュートがうなずいたのを見て、自分とアキュートの分を作った。
「酒好きには、酒好きが分かるもんじゃ」
 盆踊りの曲が流れる中、乾杯のグラスの音が響いた。


 5時間を越えるマラソン盆踊りライブの勝者は、結局2人だった。
 100人を越える参加者があったものの、冷やかしに参加したものは1時間と持たずにへたばった。3時間を越える頃には10人を切り、ヘトヘトになりながら踊っていたものが、審判役のシギ・エデル(しぎ・えでる)レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)に退場を促された。
 そんな中でも力強く踊っていたのが冴弥 永夜(さえわたり・とおや)。優雅に踊っていたのが千鶴 秋澪(ちづる・あきれい)。まるで雌雄の鶴でも見るかのように5時間を踊りきった。
「おぬしのマスター、凄いな」
「いやいや、そっちの方こそ」
 以前と同じ言葉を、パートナー達がかけあった。
「ただな、我のマスターはどうも賞品が目当てだと思うんだよ」
「それはきっと俺様のマスターも同様だぜ」
 実行委員長の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)から、賞品は半年分になることが告げられると、永夜と秋澪の顔がかすかに曇る。
「なんだ一年分じゃないのか。第一、ラムネなんか貰っても仕方ないぜ」
「アイスクリーム、半年分をどうしましょう」
 双方の同時の呟きが、相手の耳に届いた。
「交換……するか?」
「良いですね」
 どちらからともなく2人は握手した。
 傍目には優勝を分け合った者同士の互いをたたえ合う握手に見えたが、2人にとっては単なる合理的な交換が成立したに合図に過ぎなかった。
「多分だけど、アイスとラムネを交換したんであろう」
「うん、俺様もそう思った」
 パートナー達は見抜いていたが。


「そろそろ看板じゃな」
 盆踊りも終わり、周囲も店じまいを始めている。結局、シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)の店に居続けた。
 その間ペト・ペト(ぺと・ぺと)はラムネのガラス玉を取ろうとして100回以上も失敗している。ビンの口よりガラス玉の方が大きいことが分からないらしい。ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)は、と見れば、オモチャにまみれて何かの塊が飛んでいるとしか思えない。意に関せず飛び続けているのも、ある意味で立派と言えば立派だ。
「これで足りるか?」
「頂戴いたします」
 クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)が、トレイにお釣りを乗せて持ってくる。シニィは受け取ると同時に、スッとクリビアのお尻に手を伸ばした。しかし触れたのは固い板……トレイだった。
「さすがじゃな。ずっと隙を伺っておったのじゃが、最後までチャンスはなかったの」
「これだけひいきにして頂いたのですから、こちらでよろしければ」とアキュートが背中を向けた。
「ほぉ、せっかくの店主の好意は受けておこうかの」
 シニィはアキュートの臀部を数回撫でる。それを見たクリビアが初めてクスッと笑った。