天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

幼児と僕と九ツ頭

リアクション公開中!

幼児と僕と九ツ頭
幼児と僕と九ツ頭 幼児と僕と九ツ頭

リアクション

「なんとしてでも倒させてもらうぞ、ヒュドラ!」
 ブライトグラディウスを構え、恭司がヒュドラの首と相対する。元の姿に戻って、パートナーであるフィアナ・アルバートのハグ地獄から脱出するためにも、ここでヒュドラを叩き潰しておかなくてはならない。フィアナとしては非常に不本意だったが……。
 恭司を丸呑みしようと襲い掛かってくるヒュドラの首に、グラディウスの一撃を叩き込む。他の契約者が他の首の相手に行ってしまったが、恭司は立ち回りには非常に自信があったため、その辺りを苦にしている様子は無かった。
 まして今はフィアナからパワーブレスの恩恵を受けているのだ。力の上がった腕による攻撃は、次々とヒュドラの頭に傷を作っていく。
「このままでもいいと思うんですけどね……」
 ひとしきりグラディウスの攻撃を叩き込み続けた恭司の姿を見て、フィアナはこっそりそのようなことを口にした……。
「恭司の奴、かなり気合入ってるな」
 自分の思いをヒュドラに裏切られた形となった牙竜は怒りに燃えていた。対話によって切り開ける未来があると信じていた。だが目の前のヒュドラはそれを否定した。
「俺は、どこまで行っても、ヒーロー……ケンリュウガーだ」
 ヒュドラの頭の1つと向き合い、牙竜は拳を固めた。言葉で分かり合えないのならば、どちらが自分の正義を押し通せるか、拳で語るしかない!
 アクセルギアを起動し、自らの行動速度を大きく上げる。戦闘体勢を整えた牙竜は、近くにいたアネイリンに言いつけた。
「アネイリン、オマエはあっちの人の手伝いに行ってくれ。ここは俺と灯で十分だ!」
「は、は〜い!」
「では……行くぞ!」
 裂帛の気合と共に、牙竜の体はヒュドラの首に向かって飛んだ。対するヒュドラの方は超高速で動く牙竜の動きについていけず、ただただ呆然と拳や蹴りを受け続けるだけだった。
 ある程度ダメージを与えられ、それが収まった頃にようやく蛇の頭は反撃に転じた。空高く飛び上がった牙竜を飲み込まんと、その首を伸ばし、牙の生えた口を大きく開ける。
 だが牙竜の方もただ飲み込まれるために跳んだわけではなかった。背負っていたパイルバンカーを手に、自ら飲み込まれる勢いで落下していったのである。
「俺の思い、ブチ込んでやる!」
 手にしたパイルバンカーから発射された杭は、蛇の喉を突き破り、そのショックで蛇の頭は動きを止めた。もちろん、その際に飛び散った体液にかかるような真似はしなかった。
 一方でアネイリンが「手伝え」と指示された者――犬養 進一とトゥトゥ・アンクアメンは、蛇の頭を相手に善戦はしていたものの、どうにも決め手に欠ける戦いを繰り広げていた。
「くそ、向かってくるから迎撃は簡単だが、やはり1発の威力に欠けるな……」
「なかなかにしぶとい蛇だ。ファラオの呪いも、これでは通じんぞ」
 ランスを構えてトゥトゥはのたまうが、実際のところ、その呪いを見た者はいないという……。
「きめちぇにかけるときいて、おてちゅだいにきました〜!」
 ここでアネイリンが聖剣エクスカリバーを引っさげて登場したわけである。持っていた剣を見たトゥトゥがアネイリンの正体に気づいたらしく、歓喜の声をあげた。
「ほう、そなたはもしや、音に聞くアーサー王の英霊ではないか?」
「そうだよ〜」
「ほう、これはありがたい! ぜひとも手を貸してくれ」
「……うん、いいよ〜」
 一瞬返答に迷ったが、アネイリンはトゥトゥの頼みに応じた。本当はヒュドラと友達になりたかった。だが、ヒュドラがそれを拒否した以上、倒さなくてはならないらしいから……。
 アネイリンは決意し聖剣を握る手に力を込める。体が光だし、勝利への未来がその目に浮かんでくる。
「来るぞ!」
 進一の警告に英霊2人は身構える。突撃してきた蛇の頭が口を開けたところを目掛けて、まず進一が大型の炎の球を投げ入れる。炎を食わされたヒュドラの頭はその場でのた打ち回り、大きな隙が生まれた。
「今だ!」
 トゥトゥがランスを突き出し、まず喉の辺りから一気に楔を打ち込む。続いてアネイリンが脳天の方から聖剣を槍に見立て、頭蓋骨を突き破るようにして必殺の一撃を叩き込んだ。
 英霊たちの攻撃を受けた蛇の頭は、意識を手放し、地面にその長い首を横たえた……。
「ふむ、残るは2本か……。月夜、このまま一気にいってしまうぞ!」
「うん、玉ちゃん」
 残った首の内、1本を前にして月夜はリボン状の「スキルサポートデバイス」を、手持ちのラスターハンドガンに接続する。乳児にまで戻ってしまった刀真は白花に預けておいて、ヒュドラ退治は月夜と玉藻が担当することになったのである。
「では行くぞ。凍てつけ……我が三尾より氷刃がいずる!」
 玉藻の尻尾から氷のオーラが浮かび上がり、オーラはブリザードの形となって発現される。先に牽制で撃ったものとは違い、今度は確実にヒュドラを倒すための「攻撃」としての発動だった。
 氷の嵐を受けた蛇の頭が、寒さから逃れようと身をよじるが、そこに別の嵐が突き刺さった。月夜のハンドガンによる光弾――しかもライトニングウェポンの付加された弾丸が、蛇の首にいくつもの穴を開けたのだ。
 こうした連続攻撃に怒り狂った蛇が、玉藻と月夜を飲み込もうと大口を開けるが、そこに玉藻のアボミネーションが炸裂し、蛇は恐怖のあまりに動きを止めた。
 そしてそこを見逃さない月夜ではない。ラスターハンドガンで狙いを定め、頭の正中線を狙って引き金を引いた。
「これで終わり……。狙い、撃つ!」
 放たれた弾丸は蛇の喉を食い破り、おびただしい量の体液を放出させる。必要な分の血を失った蛇は、2度と意識が戻ることは無かった。
「よっしゃあ! これで後1本だぜ!」
「気合を入れていくでござるよ!」
 8本もの首を奪われヒュドラは完全に満身創痍だったが、その目からは戦意が失われておらず、むしろ逆に襲い掛かってくるようになっていた。
「あらあら、降参しておいた方が身のためですのに」
 静香こと同人誌静かな秘め事がフェニックスとサンダーバードを召喚して、ヒュドラと戦わせる。首はほとんど失われたものの、その巨大な体は今だ健在であり、召喚獣2体でも攻略は難航した。
「なかなかにやりますわね……。このままだと、ジリ貧というやつでしょうか……ん?」
 静香がふとヒュドラの頭上を見やる。見覚えのある影が、どうやらヒュドラの真上に陣取り何かを起こそうとしているらしかった。
 その影の正体は、氷雪比翼にて空を飛ぶ宇都宮祥子だった。
「ひっさつ! あいしくるれいん!」
 ヒュドラの首の射程外から祥子は氷術による氷の雨を降らせる。地面から遠くに向かって飛ばすのではなく、空中から重力と引力を利用した空対地攻撃である。
 この攻撃にただでさえ怒りに燃えていたヒュドラはさらに怒り狂い、胴体と首を可能な限りに伸ばし、祥子を飲み込まんとする。だが祥子の方も負けてはいなかった。彼女の手には機晶爆弾が握られており、蛇が口を開いた瞬間、その喉の奥に向かって小さな破壊魔を投げ入れた。
 爆弾が飲み込まれたのを確認すると、祥子は全力でその場から飛び退る。数秒後、ヒュドラの喉の奥、胃の中にて機晶爆弾が断末魔の叫びと共に、ヒュドラの体内を破壊する。
 これを最大のチャンスと呼んだ匡壱は、藤袴を構え、一気にヒュドラの腹に突撃した。狙うは胴体、心臓付近!
「おりゃああああああああ!」
 彼の握る刀がヒュドラの胴体に突き刺さると同時に、その勢いをもって巨大蛇の体は数メートル奥に飛ばされた。必殺の疾風突きは、残っていた蛇の意識を完全に刈り取り、数百年も前から人を苦しめ続けてきた九つの頭は、この瞬間、完全に息絶えた。

 契約者の間から歓声が沸き起こる。
 自分たちをも悩ませてきた諸悪の根源を、たった今断ち切ることができたのだ。
「さあ、まだ終わりではござらんよ。すぐに尻尾を切り落とし、急いで合宿所に持って帰るでござる!」
 佐保が契約者たちの意識を現実に引き戻し、数人の契約者の手によってヒュドラの尻尾は胴体から切り離された。

 後は帰るのみ。これで本当に終わったのだと思うと、一部の者は喜びに震え、一部の者は幼児化した状態から元に戻るということを残念がった……。