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リアクション
3.悪影響
空京の公園へ連れてきてもらった封印の巫女白花(ふういんのみこ・びゃっか)だが、前を行く樹月刀真(きづき・とうま)に対する不安を拭えずにいた。
その原因を知らない刀真は、とりあえず白花を元気づけようと振り返る。
「なぁ、白花」
と、声をかけられた白花。じっと彼を見つめたあと、彼女はうっすらと涙を両目に浮かべた。
「月夜さん、玉藻さんのお二人は刀真さんから想われているって自信があります。だから、甘え方も刀真さんに好き勝手やっているようで大胆です」
「……白花?」
いきなり訴えだした彼女に戸惑いを隠せない。
すると白花は、ふいと視線を逸らした。
「でも、私にはそういった自信をもてるだけのものがありません……」
よく見ると彼女の顔が赤い、酔っている様子だ。
刀真はそう気づくと、近くのベンチへ彼女を誘導しようと考えた。
「き、キスはした事ありますけど、契約の時と他に一回だけで、その一回も私からで、刀真さんが私を想っているからと気持ちを伝える為に自分からしてくれた事はありません」
「――は?」
と、思いもよらぬ言葉に目を丸くする刀真。
「不安になってプールで水着が取れた胸を押しつけて興味が無いのか? と、迫ったら逃げられてしまいましたし……」
「ちょっと待て、白花――」
「刀真さんは私に興味が関心がありませんか? どうでも良いんですか!?」
と、白花に詰め寄られてしまった。
「答えて下さい、刀真さ、ん……――」
そしてふらりと意識を失う白花。
とっさに彼女の身体を支えた刀真は、一つ息をついた。――まさか、そんな風に思われていたとは。
空いたベンチに彼女を抱えて移動し、幼い子どもにそうするように、自分の膝の間に彼女を座らせた。すうすうと寝息を立てる彼女をぎゅっと抱きしめ、刀真は思考する。
――他の二人と同様、ずっと傍にいて欲しくて、ずっと一緒にいようと想っているけれど……確かに態度で示した事は無いな。俺、駄目すぎだろう。しかし、流石に手を出すのは今の俺には無理だ。他の二人と合わせて想いを背負いきれない……想いを、背負いきれるという自信がついたらその時は……――。
おかしな想像をしてしまい、刀真は一人で赤面した。――でも、男は皆スケベだから仕方ないよね!
ふと風が白花の甘い匂いを漂わせ、抱きしめた温もりに安心感を覚え始める。そして襲ってくる眠気……他の二人以外の人が傍にいて眠くなることなんて、一度もなかったのだが。
「……」
誘われるようにゆっくり両目を閉じ、刀真は眠りの中へ入っていった――。
閃崎静麻(せんざき・しずま)とレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)はビルの屋上に上っていた。
空京市内が四方に見える高さなだけに、青い鳥が飛んでいる様もよく見える。
あとはどのようにして捕まえるか考えるだけだが……と、静麻が唸ると、レイナが動き出した。
「あ、あれがその鳥ですね!」
屋上の端に青い鳥がとまっていた。
「おい、気をつけろよ!」
薬を噴射されないよう、注意をする静麻。
――しかし、遅かった。
突然飛び立った鳥がレイナの頭上を通過する際、何かの薬を噴射して行ってしまったのだ。
「レイナ……!」
何が起こるかと不安になりながらも、静麻はおそるおそる彼女へ近づいていく。
すると、彼女は怖い顔をしていた。
「しーずーまー!」
「はいっ!」
怒ったような声で名前を呼ばれ、びくっと静麻は姿勢を正す。
「何で武勲を重ねないんですかー!」
と、怒鳴るレイナ。彼女は酔っぱらっていた。
「いつもいつも、裏方やらバックアップやらやって、どうして武勲を重ねないのです!?」
何故怒られなければならないのかは分かりかねたが、反論せずに聞き流すのがいいことだけは分かる。
静麻は萎縮しながらその場に正座をした。反省の態度を見せれば、少しは早く終わるかもしれない。
それを良いことに、レイナは日頃の鬱憤を爆発させ始めた。
「今日だって青い鳥の捕獲なんかせず、もっと自分のためになることをするべきです! めんどくさがってばかりでは痛い目にあいますよ、その内!」
「は、はい……」
それにしても、長時間になったら正座はキツいな……と、静麻は心の中で溜め息をついた。
しかも風の吹く屋上だ。下手すると風邪を引きかねない。
静麻がちらりと視線をやったところで、レイナの表情は一向に変化しなかった。
ふらふらと千鳥足で青い鳥を追いかけるセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)。
「そこの鳥よぉ、おとなしく捕まりやがれぇー」
酒を買いに行ったはずの彼女が泥酔状態になっているのを見て、黒崎竜斗(くろさき・りゅうと)は嫌な予感を覚えた。
空京市内が騒がしいのは分かっていたが、あのセレンが酔っぱらう事態に陥っているとは……しかも、青い鳥はそこかしこを飛んでいる。
セレンの追いかけていた青い鳥は空中で方向を変えるなり、竜斗たちの方へ向かってきた。
「うわ、あぶねっ」
と、とっさに姿勢を低くして鳥をかわす。しかし、後ろにいた二人は鳥の噴射攻撃を受けてしまった。
「うふふ、竜斗さん暖かいですねぇ」
ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)が目を虚ろにして竜斗へ抱きついてくる。
「え、ちょ、ユリナ……!?」
かと思えば、ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)がこちらに気づいたセレンへ怒鳴り散らす。
「今日という今日は我慢できん! 酒を買いに出かけたら、道端で酔っぱらうとは何事か!」
「おー、なんだなんだぁ?」
自分が怒られていることを分かっていないのか、セレンはミリーネの前で立ち止まり、ぽけーっとしている。
その様子がまた癪に障るらしく、ミリーネは叫ぶ。
「だいたい、セレン殿はいつもいつもだらしなく、家でもゴロゴロして酒ばかり飲んで!」
「うーん? そんなことより、あの鳥追おうぜぇ」
「話を聞くのだ、セレン殿! たまには酒をやめて、家事の手伝いくらいしたらどうなのだ!」
竜斗は抱きついて離れないユリナを宥めつつ、セレンの追っていた鳥を目で追いかけた。噂によると、解除薬の入った青い鳥もいるというではないか。
「そもそも、甘やかしている主殿にも責任があります!」
「は――!?」
「共同生活をしている以上、全員が何かしらの役割なり手伝いをしなければならないというのに!」
ついにミリーネの矛先が竜斗へ向けられ、のんびりしている場合ではないことに気づいた。早く解除薬を見つけなきゃ!
彼女たちの酔いが悪化しないうちに――と、竜斗はユリナを無理矢理引きはがして駆け出した。
「セレン! 鳥を捕まえるぞ!」
「おー、さすが竜、分かってるなぁ」
と、セレンはミリーネを避けて再び歩き出したが、やはりその足はふらついていた。
「兄さん、ちゃんと荷物持って下さいねっ」
と、嬉しそうに言う高天原咲耶(たかまがはら・さくや)。今日は兄であるドクター・ハデス(どくたー・はです)と一緒にショッピングへ来ていた。
もう少し歩けば目的のショッピングモールも見えてくるが、ハデスはぶつぶつと文句を言うばかりだ。
「むう。今日は一日、秘密結社オリュンポスの秘密兵器の開発をする予定だったのだが……」
るんるん気分で先を行く咲耶。なんだかんだで付いてきてくれた兄が嬉しくてたまらないのだ。
そんな妹を追っていたハデスは、ふと近くのスピーカーから流れてくる情報を耳にした。青い鳥に関する放送だ。
空京大学の講堂から逃げ出して一時間、いまだ空京の空には青い鳥たちが飛んでいた。
「む、機晶ロボットが逃げ出しただと? フハハハ! これは買い物などしている場合ではない!」
突如叫びだしたハデスを振り返る咲耶。
「ロボットを捕まえて、早速解体だっ!」
と、ハデスは虫取り網を片手に走り出してしまった。
「ちょっと、兄さん!?」
と、咲耶は慌ててその後を追う。
だが、肉体労働は専門外のハデスだ。見かけた青い鳥に虫取り網を振るが捕まえられない。
ショッピングモールの方から飛んできた鳥に狙いを変えても、ハデスの網は空振る一方だった。
早くも疲れを見せ始めるハデス。そこに頭上から酩酊薬が降ってくる。
「ぬおっ!?」
避けることも出来ず、薬を吸い込んでしまったハデスは……。
「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデスだ!」
酔っていた。しかし、いつもと何ら変わりない様子だ。否、普段から酔っているも同然ということだろうか。
「兄さん、待ってください! まったく、勝手に走り出して……今日は買い物に付き合ってくれるって――」
と、咲耶が訴えると、また別の青い鳥が二人の頭上を掠めていった。
酔いから冷めたハデスは叫ぶ。
「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデスだ!」
どうやら、こちらの薬も彼には効いていない様子だった。
一方の咲耶は顔を赤らめると、彼へ想いを告げた。
「あ、あの、兄さん……私、実は前から、兄さんのことが……す、好きでした」
素直にナールの効果だった。
ハデスはこちらをじっと見つめる彼女を見て、言った。
「む、我が妹サクヤよ、お前は惚れ薬を受けたようだな? その程度の薬で心を操られるとは、修行がたりんぞっ!」
「違います、兄さん! これは私の本当の気持ちで――って、行かないで下さい、兄さーん!!」
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