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リアクション
6.墓穴を掘った
「待てー!」
ばたばたと構内を駆け回るトレルお嬢様。
パートナーのマヤー・マヤーはジャンプをして青い鳥へ手を伸ばすが、さらりとかわされて上手く行かない。
「くそ、このままじゃ俺の企みが……」
と、息を切らせたトレルにマヤーもその場に立ち止まる。
そこへ近づいてきたのはペットを連れた黒崎天音(くろさき・あまね)だった。
「やあ、トレルとマヤー。ちょっとぶり」
「あー、あまねくん……何、その荷物」
と、トレルはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の手にした『ピクニックバスケット』を見やる。
すると天音は笑った。
「用事が済んだら、近くの公園でペットたちの散歩ついでにピクニックでもしようかと思って。よければ、一緒にどう?」
トレルとマヤーは顔を見合わせた。今日は良く晴れているし、のんびりしたいところではあるけれど。
「青い鳥を全部捕まえたらね」
「ああ、そういえばさっきから飛び回っている……あれを?」
「そう。惚れ薬と酩酊薬と素直にナールと解除薬の入った機昌ロボットが逃げちゃって、それぞれ薬を噴射しながら逃げ回ってるから、捕まえなきゃいけないの」
何かを感じたブルーズがトレルを軽く睨んだ。
「ふむ。お前たちは何故青い鳥を探しているのだ? この騒ぎを収めるためか、それとも……」
考えを見透かされたトレルは胡散臭く言った。
「やだなぁ、もちろん人助けに決まってるでしょー」
「……まぁ、いい」
と、ブルーズ。ふと、天音はマヤーの視線に気がついて言った。
「ああ、僕が連れているのは『蒼い鳥』だよ。生きてる鳥だからかじらないでね」
「なんだ、せっかくのチャンスと思ったのに……」
マヤーが意気消沈すると、頭上で気配がした。
とっさにハンカチで天音の鼻と口を塞ぎ、ブルーズは霧がすべて落ちるまで呼吸を止めた。
一方のマヤーも、押し倒す形でトレルを霧から守ったが、落ち着いたところでトレルが言う。
「重い、マヤー」
「にゃっ、ごめんなさい!」
と、マヤーが退き、トレルは立ち上がる。四人とも薬を吸わずに済んだ様子だ。
「なんだ。ブルーズが薬をかいだら面白いと思ったんだけどな」
「我は、お前の前では素直だ。惚れ薬は……まぁ、いい。それに酔っぱらいは嫌いだろう」
と、そっぽを向くブルーズ。天音がくすくす笑うと、さらにブルーズはそっぽを向いた。
青い鳥の犠牲になるのは避けたいものだが、ともかく捕まえてみないと何も始まらない。トレルたちが再び行動を開始し、天音たちはその後を追った。
すると、青い鳥を手にした紫月唯斗(しづき・ゆいと)が現れた。近くにいるなら手伝えと、トレルが連絡を入れたのだ。
「待たせたな、トレル!」
と、青い鳥を差し出す唯斗。少し暴れてはいるが、紛れもなく機晶ロボットの青い鳥だ。
トレルがそれを受け取ろうと手を伸ばすと、青い鳥が彼女の顔めがけて噴霧した。
「うおっ」
『ポータラカマスク』を着用した唯斗は吸い込まずに済んだが、トレルはもろに吸い込んでしまう。
目の前に立つ唯斗をじっと見つめ、顔を赤らめていくトレル。
「……ゆ、ゆいと……す、好きだ!」
「にゃっ!?」
驚いたのはマヤーだった。
ぎゅっと抱きついてくるトレルに、唯斗は愉快そうに笑う。
「あっはっは、どうやら惚れ薬だったみたいだ」
「トレル、離れるにゃー! 唯斗も笑ってないで責任取るにゃ!」
動揺のあまり、マヤーの語尾が怪しくなってきた。
「あー、そうだな。お、あそこに青い鳥が」
「にゃあ!」
唯斗の指さした方向を見て、マヤーが一直線に青い鳥へ勝負を仕掛ける。
「俺、ゆいとのお嫁さんになりたい……っ」
と、両目を潤ませて乙女心を爆発させるトレル。天音はその様子をにやにやと眺めていた。
トレルの目を覚まさせたい一心で、マヤーは青い鳥を捕まえるなりすぐに持ってきた。
「ほら見るにゃ、トレル!」
ばっと差し出された青い鳥に目をやると、再び悪夢が蘇る。
「うわっ」
またもタイミング悪く噴射された薬に、今度は両目を虚ろにさせるトレル。
「う、くらくら、する……」
「大丈夫か?」
「……って、何で抱きついてんだし!」
と、唯斗から慌てて離れたが、酔いが回ってその場にしゃがみこむ。
「だ、誰か助け……あ、あつい……」
「酩酊薬だったみたいだな。解除薬探さないと」
と、口で言うものの、一向に動き出さない唯斗。彼の脳内では「役得」の二文字が浮かんでいた。
マヤーに抱きつかれそうになるトレルだが、酔ったせいでいつものようにはかわせない。
ごろごろと公共の場でいちゃつく彼女たちを愉快に眺めていると、八雲たちが遅れて合流した。
「何があったんだ、トレル!?」
と、ふらつく彼女へ近寄る八雲。
「あ、やっくん……こ、こいつら、が……青い、鳥……」
くらくらする頭で事情を説明しようとするトレルに、いつの間にか『行動予測』で捕まえていた青い鳥を弥十郎が差し出す。
「青い鳥ってこれのこと?」
「うん、そ――うあっ」
三度噴射されてしまうトレル。今度こそ解除薬ならいいのだが……。
「助けてやっくん! こいつらが俺をいじめるの! っつか、主にゆいとがいじめてくるの!」
と、トレルは八雲の腕を掴んだ。
「え、そ、そうか……」
今までにない積極性を見せる彼女に戸惑う八雲。
「あと、マヤーも邪魔しないでよ! いつもいつも俺にひっついて、たまにはどこか行ってくれないとやっくんとゆっくりできないだろ!」
「と、トレル……? まさかそんなこと、思ってたのにゃ――?」
と、予想外の言葉をかけられてマヤーはショックを隠しきれない。どうやら、今度は素直にナールだったらしい。
八雲は盾にされて戸惑っていた。喜ばしい状況だが、何か様子が変だ。
「さすがに可哀そうではないか?」
「うん、そうだね。早く解除薬とやらを探してあげたいけど、この鳥たちはどうしようか?」
と、天音は何故か自分に懐いている三匹の青い鳥を見つめた。
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