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リアクション
5.伝えたい想い
空京神社に併設された空京稲荷で、空京稲荷狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は『式神の術』を発動させた。
式神となったのは『トラの毛皮』だ。ごろごろと転がりながら移動する式神に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)へ同行するよう命じる。
「さあ、空京を混乱させている青い鳥を捕まえに行くのです」
空京の地祇として、狐樹廊は今の状況を見過ごせなかった。話によると敵は機晶ロボットだというではないか。
『式神の術』の実用性を試す意味でも、ちょうど良かった。
そして『トラの毛皮』を連れたリカインは、人の多いショッピングモール方面へ向かって走り出した。
「あら? 何でしょう、あの鳥っぽいのは……?」
と、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は首を傾げた。
ショッピングへ来ていた彼女は、こちらへ向かってくる青い鳥に目を凝らした。こんな屋内に迷い込むなんて……。
何者からか逃げていたのか、鳥は妙な霧を噴射しつつセシルの頭上を飛んでいった。
「……ふ、ふふふふふ」
にやりと不敵に笑うセシル。その顔は明らかに酔っていた。
「お酒だ! 今日はお酒パーティーだーー!!!」
と、テンション高く叫ぶ。
彼女は本来の目的をすっかり忘れ、酒店目指して動き出した。
青い鳥に向かって行く『トラの毛皮』。その様子はぱっと見、小鳥を襲う猛獣に見えなくもない。
そうして地上へ落ちた鳥を回収していくのが式神の役目だった。
新たな鳥を探しに歩き始めたとき、リカインはふと異常な光景に出くわした。
「酔ってる!? まだまだこれからだってーのに、ケチくさい!」
酒店で店員と客がもみ合っていた。
すでに酔っているセシルは無理矢理お酒を奪うと、店の外へ飛び出した。
「ふはははー、ひれ伏せ愚民共ー! おビール様がご降臨なされたぞー!」
「ま、万引きだぁ! 誰か捕まえてくれー!」
これも青い鳥の影響だろうか。
「見過ごせないわね。被害が大きくなる可能性もあるし」
と、リカインは酔っぱらいたちからリーダーに祭り上げられているセシルを見た。
ごろごろ転がる式神を連れ、リカインは彼女へ近づくと『咆哮』を放った。
「!?」
びっくりしたセシルたち酔っぱらいが動きを止め、次々とその場に倒れ込む。
「目は覚めたかしら?」
と、リカインはセシルを見下ろした。先ほどまでの騒々しさはすっかり消えていた。
公園をのんびり散歩するリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)。
「たまには荒野の外に出てリラックスです。緑が少ないと、目とか心が疲れ果ててしまいますわ」
と、もっともらしい理由を喋るが、本当の目的は違った。
「というわけで、屋台でアイス買ってきますねー」
ぱたぱたと走り出した彼女を、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)は呆れた目で見送った。
そして少しすると彼女が戻ってきたわけだが、何故かリリィは酔っていた。
「……どうしたんだ? まさか酔って――」
アイスに入っていたラムレーズンでそうなったのかと考えるカセイノ。それにしては本格的な酔いっぷりだ。
「いえいえ、酔ってなんていませんわよ?」
と、ぐらぐらしながら言い返してくるリリィ。――やっぱりそうだな、こんなこと言うってことはたいてい酔っ払っているものだ。
リリィを酔っぱらい認定したカセイノは、原因をアイスのせいだと思うことにした。青い鳥に関する情報をまったく持っていないため、そうとしか考えられなかったのだ。
「そういえば、さっき青い鳥がいたんですぅ。よだれかけられちゃいましたけど、近くで見れて幸せでしたー……春って感じ、ですよねぇ」
「春って感じはまさにてめぇだろ」
と、カセイノが言い返すも、リリィはすっかりいい気分になっている。
「そーだ、幸せのおすそ分けをいたしましょう」
「は? 幸せのおすそ分け?」
首をかしげるカセイノへリリィは近づくと、可愛らしく『アリスキッス』をした。
「ずっと、あなたに捧げたいと思っていましたの」
にこにこと嬉しそうに言うリリィ。普段ならドキッとしてもおかしくないところだが、今の相手は酔っぱらいだ。
「ずとずっととっておいた、これが初めてのありすきっすで……」
リリィは赤い顔をさらに赤らめ、一人で盛り上がる。
「ってことは、きゃー、初ありすきっすだー。きゃー」
恥ずかしいのか嬉しいのか、そこら辺をぐるぐるとハイテンションでうろつきだす。カセイノにはまったく意味が分からなかった。
すると、リリィがふと足を止めてこちらを見つめてきた。
「なんていうか、嬉しい、です……だって、あなたのことが大しゅ、き、りゃー……にゃー」
ぽふっと倒れこんできた彼女を受け止めて、カセイノは溜め息をつく。
「まったく、この酔っ払いが」
と、仕方なく彼女を抱き上げる。
先ほどの「幸せのおすそ分け」とやらは、何かの間違いということにして、カセイノは落ち着ける場所を探して歩き始めた。彼女が目を覚ます頃には酔いも冷めていることだろう。
空京を騒がせる青い鳥を捕まえるべく、市内で最も広い公園へ来ていた。
「あっちの方、探してくるわねっ」
と、白波理沙(しらなみ・りさ)はぱたぱたと駆けて行った。
「じゃあ、私たちはこちらを探しましょう」
そう言ってきょろきょろと周囲に目をやる白波舞(しらなみ・まい)。
その後ろ姿を見つめる龍堂悠里(りゅうどう・ゆうり)は、二人きりの状態を密かに喜んでいた。しかし、それは心の中だけであり、わざわざ表に出すことはしない。ましてや、今は青い鳥の捕獲が優先だ。
「あ、鳥がいたわ!」
と、舞が木に泊まっている青い鳥を指さした。
「お、あんな高いところに……」
悠里もそちらを見上げてどうやって捕まえようか考え始める。
すると、青い鳥が羽を広げて飛び立った。とっさにその後を追って走り出した悠里だが、青い鳥から噴射された薬を受けてしまう。
「うわっ」
「悠里さん、大丈夫?」
慌てて舞が駆けつけると、目を開けた悠里はじっと彼女を見つめた。
「舞……オレ、ずっと舞のことが好きだったんだ」
「え?」
悠里は真剣な表情で彼女を見つめる。噴射されたのは素直にナールだ。
しかし、舞は何も気づいていなかった。そんなことあるわけないと判断し、惚れ薬の効果だろうと勝手に結論づけてしまう。
「落ち着いて、悠里さん。すぐに解除薬を探しに行きましょう」
「違うんだ、舞! オレは本当に、ずっと前から舞のことが……一人の女の子として、好きだった!」
と、顔を赤くする悠里。
彼の本音を聞いても、舞は苦笑を浮かべるだけだった。
「困ったわね、こういう時ってどう対応すればいいのかしら」
「答えてくれ、舞っ」
と、想いをぶつける悠里。
舞は彼の言葉を聞き流しつつ、他の被害者たちへ目を向けた。――解除薬を持っている人がいればいいのだけれど。
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