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とりかえばや男の娘 三回

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とりかえばや男の娘 三回
とりかえばや男の娘 三回 とりかえばや男の娘 三回

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 それから、一行はさらに進んで行った。
 しかし、いつまでたっても祠は見えてこない。ひたすら道が続いて行くばかりである。

「おかしいな」
 ついに、十兵衛が首をかしげた。
「そろそろつかねばならないはずだが」
「まさか……道に迷ったのではないでしょうか?」
 竜胆が不安げにたずねる。
「いいや、そんなはずはない。屋敷から祠までは一本道だ。もう少し進もう」

 十兵衛の言葉に、一行は再び歩きはじめた。しかし、やはり祠にはたどり着けない。竜胆はだんだん不安になってきた。……大丈夫なんだろうか? まさか、自分は兄を救う事ができないんじゃないかと……。
 その時、
「竜胆さん、これ」
 ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が近づいて来て手を差し出した。その手にはハート形のキャンディがのっている。
「食べて下さい。ずっと何も食べてないから、お腹が空いたでしょう?」
「ありがとう」
 竜胆はキャンディを受け取って口に含んだ。そして、驚く。
「不思議な味……!」
 竜胆の反応にミーナも少し驚いたようだ。
「こういうの食べるの、始めてですか?」
「ええ。私の村にはこういうものはありませんでしたし、葦原城下のお屋敷でも見た事がありません」
「そっかあ。美味しいですか?」
「ええ。とても。ミーナさんの国には、こういうものがたくさんあるんですか?」
「ええ。他にも色んな味のが……ほら、これはオレンジ、そしてこれはレモン。これは、さっき竜胆さんの食べたストロベリー」
 ミーナはそう言いながら次々キャンディーを出していく。竜胆は見とれながらため息をついた。
「世界には、私の知らない色々なものがあるんですね。私は、ずっと故郷から出た事が無かったから知らなかった」
「ええ。とても素敵なものが一杯あるんですよ。この旅が終わったら一緒に見にいきませんか?」
「いいですね」
 竜胆は笑ってうなずいた。それから、内緒話で模するようにミーナに言った。
「実は、この旅が終わったら、やってみたい事があるんです」
「やってみたい事?」
「ええ。私は、学校というものに憧れているんです。そこには同じぐらいの年の人達がいて、仲良く遊んだり学んだりしているとハヤテに聞きました」
「学校ですか」
「ミーナさんも学校に通ってるんですよね」
「はい。私は葦原明倫館の生徒です」
「ああ。葦原明倫館というと、葦原城下の……! 学校は楽しいですか?」
「ええ。おもしろいです……勉強は大変だけど」
「いいな。私には同世代の友達がいないから、みんなで遊んだり学んだりする事に憧れてるんです」
「うふふ。よかったら、竜胆さん、うちの学校に来ませんか?」
「もし、行ったらお友達になってくれますか?」
「もちろん。今からでもお友達です。辛い事があったら、一人で抱え込まずに何でも話して下さい」
「ありがとう。ミーナ」
 竜胆は嬉しそうに笑った。
 未来の話をするひととき、その楽しさに竜胆はつかの間目の前の不安を忘れる事ができたようだ。
 しかし、一向に祠は見えてこない。
「どうしたことだ」
 十兵衛はつぶやく。
「いくら何でも、もうたどり着かなければおかしい」

 その時、どこからか声が聞こえて来た。

『主らは、永遠に祠にはたどり着けん』

 声とともに、霧が立ち上ってくる。

「誰だ?」

 十兵衛は剣を構えた。霧はどんどん深くなっていく。

『われは九尾の狛犬。珠姫の祠を守りしもの。主らには、邪心を感じる。祠にいかせるわけにはいかん』

「九尾の狛犬だって?」

 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は十兵衛を見た。

「ああ」

 十兵衛がうなずく。それこそ、一行の求める珠姫の宝玉を持つ者。

「狛犬さん」

 淳二は叫んだ。

「俺たちはおまえに会いたくてここまで来たんだ。おまえの持っている珠姫の宝玉をもらいたくてな」

『珠姫の宝玉。それは、確かにわが手にある。しかし、これはわれが珠姫より預かりしもの。お主らはこれを奪いに来たか。邪心の元はそれだったようだな』

「狛犬さん」
 ミーナが叫んだ。

「どうか、私たちに宝玉を譲って下さい。悪いことに使うのではありません。ここにいる、竜胆さんのお兄さんを助けるために必要なのです」

『人助けのためと申すか』

 狛犬が尋ねた。

「そうです」

 竜胆は答えた。

「兄に取り憑いた邪鬼を倒す剣を手に入れるために、珠姫の宝玉が必要なのです」

『なるほど。事情は分かった。しかし、尚言う。資格無きものにこの宝玉を渡すわけにはいかん』

 狛犬の声が途切れると当時に、どこからか獣のうなり声が聴こえて来た。

「あれは?」

 淳二は首を傾げる。

 霧の中、何かがゆっくりと近づいてくる。その正体を見て淳二は叫んだ。

「狼だ! ミーナ! 竜胆さんを守れ!」

「はい!」

 ミーナはうなずくと竜胆の前に立ちはだかった。

 数頭の狼が唸りながら近づいてくる。淳二は妖刀村雨丸を構えた。狼が牙を剥いて淳二に向かって襲いかかってくる。

 ズシャア……!

 淳二は狼の牙をとっさによけると、下段から逆袈裟に斬り上げた。キャイーンと声を上げて狼が血を吹きながら地面に落ちる。しかし、息をつく間もなく背後から狼が襲いかかって来た。淳二はファイアストームを展開。狼は炎を受け、悲鳴を上げながら逃げていった。
 さらに、三頭目の狼が襲いかかってくる、そして、四頭目……次から次へと……。
「少し、数が多すぎるな」
 淳二はつぶやいた。
「1、2、3、5……9頭はいるんじゃないか?」



 その時、背後からさらにもう1頭、狼が近づいて来た。そして、淳二に飛びかかる。
「危ない!」
 竜胆が叫んだ時、
「わしにまかせろ!」
 天津 麻羅(あまつ・まら)が飛び込んで来た。そして、警告を発し適者生存を展開した。狼どもは麻羅に恐怖したようだ。その隙を見逃さず、麻羅はヴォルケーノ・ハンマーを手に正義の鉄槌を下していく。狼は悲鳴を上げながら次々に倒されていった。

『なかなかやるではないか』

 狛犬の声が聞こえる。そして、霧が晴れてライオンほどの大きさを持った狛犬が姿を現した。その向こうには珠姫の祠が見える。
 狛犬はその名のとおり九つの尾を持っていた。それを振りながら麻羅に向かって話しかける。

『よく、わが手下達を倒した。珠姫の宝玉を持てるのは強き者だけだ。まずここまでは合格としよう。しかし、われを倒す事ができるかな?』

「大丈夫でしょうか? 麻羅さん……」

 竜胆が不安げにつぶやいた。すると、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が答えた。
「大丈夫。麻羅は神(ドルイド)として、この一戦は負けられないわよね♪」
「なんじゃ。姿が見えないと思ったら、そんなところにおったのか。緋雨。……まぁどうせ緋雨は役に立たんからのう」
「うんうん、麻羅の戦いの邪魔はしないから、麻羅が戦ってる間、お姉さんがこの可愛い竜胆さんを守ってあげるわ♪(あは」
「あの、大丈夫なんですか? 麻羅さん」
 竜胆は再び不安げにつぶやいた。
「大丈夫、大丈夫。それより。竜胆さんもすっかり逞しくなって、お姉さん嬉しいわ〜。その女の子の格好で家を継ぐとか、ホント会った時とは別人のようね。もう心意気は立派な男の子よね! 心意気は男の子だから、もう十分男の子よね! だからそれ以外の外見やら仕草やらは女の子のままよね、きっと!!」


 一方、麻羅は狛犬と対峙していた。
「九尾の狐ならぬ九尾の狛犬かえ? 強さを見たいとゆうなら、この神であるわしの強さを見せるのじゃっ!」
『神か……確かに、主はもと遠い世界の神と呼ばれた者のようだが。しかし、われに勝つ事ができるかな?」
「それは、全てを賭けた、この一発(鉄槌)で判断するがよい」

 麻羅は荒ぶる力を唱えた。麻羅の体の中に原始的な荒ぶる力がわき上がってくる。さらに麻羅はヴォルケーノ・ハンマーを構えると、チャージブレイクをして狛犬に正義の鉄槌を振り下ろした。
 
『ほほう、やるではないか』

 狛犬が言う。

『しかし、まだまだ……』

 そう言うと、狛犬は牙をむき出し、麻羅に向かって飛びかかって行った。

「麻羅さん!」

 竜胆が叫ぶ。

「これはちとまずいのう」

 麻羅はつぶやいた。

「こうなったら、最後の手段じゃ。あの方は気まぐれだから出て来てくれるか分からぬが……」

 そう言うと、麻羅は大物主大神を呼び出した。

「頼む。現れてくれ。日下部兄弟のためなのじゃ」

 と……にわかに天がかき曇り、稲妻が走る。そして、上空より翼の生えた蛇が現れた。蛇は麻羅の目の前に降りると、神へと姿を変えた。

「来てくれたか! 大物主殿」

『何? 大物主だと?』

 狛犬が叫ぶ。すると、大物主はうなずいた。

『そうだ。私は大物主だ。狛犬殿、なぜ、我が主達を苦しめる? 事と次第によってはただではおかぬぞ』

『われの主、珠姫の宝玉を守るためだ。力の無きものに渡すと、その者を破滅させるだけだからじゃ。だから、強さを試し、資格ある者にしか渡さぬ事にしている。しかし、お主のようなものを呼び出せるものなら話は別だ。宝玉はこの者達に渡そう』

「やったわね♪ 麻羅」

 緋雨が手をたたいて叫ぶ。

「まあ、わらわにかかればこんなもんじゃ」

 麻羅は得意げに胸をそらすと、大物主にねぎらいの言葉を与えて天へとかえした。そして、九尾の狛犬に向かって尋ねる。

「して、狛犬殿。珠姫の宝玉はどこにあるのじゃ?」

『足元を見よ』

 狛犬の言葉に一同が地面を見ると、先ほど倒したはずの狼達の姿が消え、変わりに9つの光の珠が散らばっていた。

『持って行くがよい。その光は闇の道も照らすであろう』
 
 こうして、一行は宝玉を手に入れる事ができた。