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空京古本まつり

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空京古本まつり
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リアクション

「一旦、分けるか」
「そうだな」
 アンタルとラルフが奈津と魔道書奈津の間に入る。その瞬間、魔道書奈津は魔道書ラルフになった。もちろん全裸である。
「ああ、良かった。じゃ、あたしはこれで」
 帰ろうとした奈津をアンタルが引っ張る。
「帰るな! これは一体全体何なんだ!」
「あたしだって知らないよ。触ったら、あたしの姿になって困ってたんだから」
「そう言うことなのね」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が奈津達の側にきていた。
「魔道書のひとつですね。おそらく触った当人の外見や性格をコピーするのでしょう」
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が分析した。
 目の前ではラルフと魔道書ラルフが寝技を掛け合っている。
 力量互角の争いは絶好のカードだったが、一方が全裸なのでは、一部分が見苦しいことこの上ない。
「何かいい方法は無いの?」
 狐樹廊の頭で天狗の面となっている禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)がアドバイスする。
「一番確実なのは時間切れを待つことだ。しかしそうも言ってられんな。ひとつアイデアがある」
 面の口元にリカインと狐樹廊が耳を寄せた。
「そんな方法で?」
「やってみる価値はありそうですが」
 相変わらず寝技の攻防を続けているラルフと魔道書ラルフ。若干のこう着状態になったところで、リカインと狐樹廊が近づいた。
「いち」
「にの」
「さん!」
 同時に魔道書ラルフにタッチする。魔道書が輝きを放ち、ラルフからすり抜ける。
 リカインと狐樹廊の姿を交互に映しかけたところで、元の魔道書に戻った。
「上手く言ったわね」
 リカインは直接触らないように袋に入れて封をする。騒動が落ち着いたところで、集まった人々も散って行った。
「とりあえず本部に持って行きましょう。専門家に見てもらった方が早そうだから」

 アンタルとラルフが郁乃とマビノギオンの元に帰ってくる。マビノギオンは「ほら」と郁乃に微笑んだ。
「もう、何やってるのよ」
「強敵だったぜ。あれ程の使い手は滅多にいないだろうな」
 自画自賛になると分かっててラルフは言う。ところがアンタルは携帯電話を取り出した。
「いやー、面白かった。ラルフが全裸で取っ組み合いを始めるんだからな」
 そう言って撮影した画面を見せる。モザイクのかかっていない写真に、郁乃とマビノギオンの顔が真っ赤になった。
「おい、ちょっと待て! オレがいつ全裸に……」
「どう見てもラルフじゃないの!」
 本日2度目、向こうずねへの蹴りが決まった。

 少し離れた場所で騒動を見ていたゲドー・ジャドウは腹を抱えて大笑いしていた。
「ひゃーっはっはっは、ちょーっと早く終わっちまったが、まぁ、楽しめたなー」
 笑いこそしていないものの、シメオンも同感だった。
「俺様がやったとは分からんだろうし、最高の仕込みだったよ」

 魔道書騒動そのものは収まったものの、一旦起きた混乱はゆっくり拡大していった。
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)高円寺 海(こうえんじ・かい)もいつの間にか離れ離れになっていた。
「海君!」
 杜守 柚(ともり・ゆず)は海を見つけて走っていった。「転ばないでよー」と杜守 三月(ともり・みつき)も後を追う。
 海のすぐ前になって、何につまずいたのか、柚が前のめりになるところを海が抱きとめた。
「ありがとうございます。先約があるって言ってたのに、お1人ですか?」
「いや、2人で来てたんだが、はぐれちゃって」
「お2人って、デート…………ですか?」
 海は「そんなんじゃないから」と首を振った。ただどこか心に引っかかるものもある。
「それなら僕達も探すよ。それまで一緒に回れば良いよね」
 三月はやや強引に一緒に回ることを勧めた。海も異論はなく、3人で会場を見て回る。
 柚はおずおずと手を伸ばしながらも、海の袖を握ろうとする。気付いた海は柚の手を取った。
 嬉しそうにする柚だったが、それを見た三月は『海には子供にしか見えてないのかも……』と複雑な気持ちになった。

「おい、郁はどこ行った?」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)柚木 瀬伊(ゆのき・せい)柚木 郁(ゆのき・いく)を巡って、言い争いを続けている。
「俺は、てっきり瀬伊が見てるもんだと」
「俺だって、貴瀬が一緒だなって」
「さっきの裸の男か……」
「いきなり人込みが割れたからな」
 手分けして探すことにする。
 そんな郁を取り囲んでいたのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)達だった。
「これはこれは可愛らしい」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)も「うんうん」とうなずいた。
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に挟まれて、郁と3人は天使にも妖精にも見えた。
「10歳くらいかな? ボクいくつなの?」
 聞かれた郁は「ないしょだよ」と言いながらも、近遠の耳元でささやいた。
「なるほど、アリスですので随分と年上なのですね」
 郁はうなずいた。
「ここに居ても仕方ありませんし、どこか係の人が居る所に行きましょうか?」
 促す近遠に郁は首を振った。
「おにいちゃんたちが、きっとさがしてくれるから、ここでまってる」
「ふむ……確かに動かないのも1つの手ではありますね。ではボク達も一緒に待つとしましょうか」
「ほんと?」
 近遠の言葉に郁は嬉しそうな顔をした。
「では我が飲み物でも買ってこよう」
「お願いします」
 アルティアとユーリカは郁を相手に話し始める。そんな3人を見ながら近遠も腰を降ろして一息ついた。