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空京古本まつり

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空京古本まつり
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 三度のご飯より本を読むのが好きなカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、冒険のネタになる様な本でも見つからないかと古本まつりの会場に足を運んでいた。
「人が多いねー」
「もう昼近くだからな」
 時間が経つにつれ、古本まつりの会場は、本を目当てにする客以外に、食べ物飲み物などを求める人も増えてきた。
 本以外が目的の意味では、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も一緒だ。彼女はマスターであるカレンの護衛を心がけている。

 ── 我がパートナーは本には目が無いからな はやる気持ちも分からぬでもないが ──

 夢中になって本を捜し求めるカレンに危険なことが無いかと、ピッタリ付き添いながら会場を回っている。ただし年のワリには童顔で小柄なカレンであり、機晶姫のジュレールはカレンの肩くらいの背だ。並んで歩いている様は、小学生の姉妹が仲良く歩いているようにしか見えなかった。
 古本まつりの会場でパートナー達とウィンドウショッピングをしていた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、何やら怪しげな気配を感じ取っていた。
「何か……おかしいです」
「何がですの?」
「どうかいたしました?」
 普通に古本まつりを楽しんでいたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は気づいていなかったが、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は「うむ」とうなずいた。
「会場の警備かと思ったが、そうでもない行動をとっている人間がいるな」
「おかしな噂を聞いたんだけど、本当なのですかね」
「さて、どうであろうか」
 そう話す近遠達の脇を、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が通りかかる。
「ルカさん!」
「近遠、久しぶり!」
 ルカルカはパートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)以外にも何人かと連れ立っていた。
「お友達……ですか?」
「うん、まあ、そんなとこ」
 とっさに言葉を濁したが、近遠は違和感を感じ取る。
「ある噂を耳にしたんですが、探してます? 何かと言うか、誰かと言うか……」
 答えに困るルカルカに、近遠は「良いですよ」と笑う。
「何か怪しいものか人でも見つけたらご連絡します」
「ありがと、その時はお礼にキスでも?」
「フフッ、期待して待ってます」
 ルカルカ達は会場の人ごみに紛れていった。
「やはり何かありそうですね。注意して見て回ることにしましょう」
「ルカルカさんにキスしていただくために、ですか?」
 アルティアが複雑な表情で近遠を見上げる。見るとユーリカもイグナも似たような感じだ。
「あれは言葉のアヤですよ。さぁ、ボク達も見て回りましょう」
 パートナーの柚木 瀬伊(ゆのき・せい)を先頭に柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)柚木 郁(ゆのき・いく)は会場を見て回っていた。
「こんなにはしゃいでる瀬伊は、いつ以来かな」
「そうなの?」
 瀬伊の背中を眺めて貴瀬と郁が会話を交わす。
「別にはしゃいでなどいないぞ」
 瀬伊は抗弁するが、「ああ、分かってるって」と貴瀬にいなされる。
「俺は本さえあればそれで良い、ただそれだけのことだ」
「まぁ、分かってるけど、条件は忘れるなよ。ちゃんとご飯は食べること、最低睡眠時間は確保すること、きちんと休憩時間をつくること、ついでに、俺の夜食を作り忘れないこと、郁のお世話をわすれないこと……まぁこんなものかな?」
「何度も聞いてるが、多すぎないか?」
「どれもやって当然のことばかりだろ」
「夜食作りもだとは思えんが」
「……瀬伊、基本的には自分で自分の事きちんとできる上に、いつも俺に同じ事言う癖に」
「分かった、分かった。とりあえずこれを持ってくれ」
「いつの間に……」
 瀬伊は5冊の本を貴瀬に持たせる。古代文字に関する専門書だ。
「まだまだ買うからな」
 溢れる人ごみをかき分けて進んでいった。
「んー、人の皮で作ったカバーはありませんの?」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はブックカバーを売る師王 アスカ(しおう・あすか)に尋ねた。
「皮? 人の? それはちょっとぉ……」
 珍客にアスカは目を見開く。
「あれば財布をはたいてでも買いましたのに。そうだ! 材料を持ち込むので作ってくれません?」
「いえ……ここにあるだけですのでぇ」
「そうですの……残念ですわ」
 優梨子は心底残念そうな顔をしてアスカの店から離れていった。
「いろんな方がいるものですねぇ。人の……皮かぁ」
 アスカは自分の腕をそっと撫でた。

 イルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)のたっての願いでロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は古本まつりに来ていた。
「本探せって……イルベルリ、俺のトレジャーセンスはあくまでお宝を見つけるためであってだな。使う俺自身が探したくもない物は探せないと思うぞ?」
「僕が今日探しに来たのは食育のための本なんだよ! 要するに君のためだよ! レヴィシュタールのリクエスト分もあるんだから、気合いいれて探してね。はいこれリスト」
 イルベルリがロアに渡した紙には本のタイトルがズラリと並んでいた。

 レヴィシュタールリクエスト
『魔獣の生態。魔獣の飼い方・しつけ方指南書』
『魔獣、珍獣の生態と分類 及びその対策』
『怖くない 私が魔獣を飼いならした7つのポイント』

「なんだよこのリスト……俺を何だと思ってんだレヴィの奴。えっと、こっちはイルベルリの分か」

『食育関連の本。偏食を直す方法』
『子供のためのクックテク 嫌いなものを減らしましょう』
『食事の心は母心、食べれば命の泉湧く』

「俺はガキかよ……逃げちまうかな……」
 しかしイルベルリはしっかりと睨みを利かしていた。そこでロアの鼻がヒクヒク動く。それほど遠くないところで、大好物の香りがしたように感じた。
「グラキエス、来てるのか?」

「グラキエス様、正直、私は賛成しかねます」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は不満げな顔をグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に隠さなかった。
「ベルテハイト、あなたはどう思う?」
「私はクラキエスに従うまでです」
 ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)はあっさり答える。 
「グラキエス様に危険があっても?」
「さほどの危険とは思えないな」
「しかし大食い大会での惨事を見ただろう」
「惨事と言うほどでもなかった」
「確かに、しかしここでも無事に済むとは限らないぞ」
 いくぶん口調が強くなるエルデネストに対し、ベルテハイトの落ち着きに変化はない。
「俺のわがままで2人が言い争うことは無いぜ。ロアのことだろうが、あいつも毎回騒動は起こさないだろう」
 グラキエスに言われてエルデネストも渋々引き下がる。
「しかし十分に注意してください」