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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

リアクション

――オリュンズ郊外付近

 朝霧 栞(あさぎり・しおり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は音響機器を高層ビルに取り付けている。大音量スピーカーとアンプだ。何故そんなものを大量に設置しているのか、謎だが、防衛のためらしい。
「後いくつだ?」
 栞がライゼに聞くと「あと30カ所だよ」とため息の出る答えが帰ってきた。
「防衛に間に合うのか? これ……」
「そんなのわかんないよ」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)の命令とは言え、大型スピーカーを持って、何度も高層ビルの屋上に登るのは一苦労だった。量子テレポートでエレベーターが行き先の階まで一瞬でなければ、2ヶ所目くらいで根を上げているところだった。
「そいや、RAR.黒幕説なんてのが持ち上がっていたよな? あれってほんとなのか?」
「僕はわかんないよ。でも、電子的な防衛策が必要だって、男の娘のパートナーさんが言っていたよ?」
「あ〜、ルカルカたちだな。ダリルとかそっち側に向いてそうだしなぁ」
「『最終兵器』はRAR.に封印されているもんね。垂もRAR.の市民感情の制御には納得言ってなかったし」
「幸福の音波ってやつか? 俺は全然聞こえないけど。――あっそうだ。気になることがあるから、今からRAR.のところ行こうぜ?」
 と、栞が設置をやめて立ち上がる。
「ちょっと、まだ設置終わってないよ!?」


 ――『雷霆』内部、RAR.管理室。

“市民、なかなかに大変そうですね。それは幸福の為ですか?”
「はい、マザーコンピューター。幸福は義務であります! ってルカたちは市民じゃないけど」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がふざけて答えた。
「そんなアホな問答しにきたのではいだろう?」
 と、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が真面目ぶって続けた。
「RAR.、これから起こる戦いでお前自身の危険性はわかっているよな?」
“勿論です市民。封印の箱であるワタシへの攻撃、及びオリュンズへの被害が予想されるのですね。ワタシが破壊されれば都市機能は失われます。それこそ大変なことになるでしょう”
「それだけで済めばいけどね」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が続ける。
「相手が物理的手段だけで来るとは限らないわ。そこで、私達からの提案。ここにいる全員にRAR.あなたへの直接アクセス許可を出して。私たちが電子的防衛を担当するから」
「べつに彩華はそんなのいらないですよぅ?」と手に付いたのり塩を服で払う天貴 彩華(あまむち・あやか)
 言葉では「あなたを守ってあげる」と言っている彩羽だが、本意は別にある。封印、アンドロイドとRAR.がこれからの戦いの鍵ではあるが、その内には危険もはらんでいる。陰謀論はともかくとして、このコンピューターの動きは監視下に置かないといけない。
「市長のシリス・サッチャーからは許可が出ているはずよ」
 彩羽は強く斬り込む。
“許可しましょう。市民にワタシへのシステムアクセスを許可します。しかし、都市機能の維持のため、ワタシは完全停止するわけには行きません”
「それでいい、むしろ止めてもらうと困る」
 とダリル。RAR.が市民の感情を抑制していなければ、彼らが暴動を起こすことだって考えられる。
「電波で人の感情をコントロールするってのは俺は気に食わねぇがな」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はそれが不満なようだ。
“アクセスにはAirPADを使用すれば可能ですが、そのままだと市民はつらいでしょう”
 後ろの壁が開き、機械装飾のアームチェア複数が出てきた。
“それに座ってください。そのほうが市民の作業もやりやすいでしょう。それに座れば、システム画面を好きなように開けます。市民の脳波を瞬時解析し、意識下での直接操作が可能です。タッチパネル、ウィンドウの数も好きなだけ使えます”
「端末を体に刺して行う必要はないのか、便利だな」
「ダリルそんなことしようとしてたの? あ、普通に座るだけでも大丈夫?」
 誤操作を心配して問うルカルカに“問題はありません”とRAR.が答えた。
「こっちも準備進んでるか?」
 栞とライゼが管理室に入る。
「何しにきたんだ? ちびっこ達」
 カルキノスが誂う。
「ちょっと気になったことがあってなデカブツ。質問いいかRAR.?」
“なんでしょうか? 市民”
「お前は『都市にいる人々の安全を守る』のが役目なんだよな?」
“そうです。市民”
「なら、お前に封印されている『最終兵器』ってやつを入手するために、もうすぐ市民の脅威となる存在が襲ってくる。その場合どうするんだ?」
“市民には速やかにジオフロントへと避難してもらいます。都市各所にあるテレポートゲートをジオフロントへと接続すれば、速やかに済むでしょう。それでも事足りないのであれば――、封印の守護を放棄します”
「それって、敵に『最終兵器』を渡すってことか?」
“そうです、市民。もし、仮に市民が封印を解除できるのであれば、今直ぐに開放して市民の安全を図ります。それによるさらなる危険があるならば、ジオフロントごと市民を向こう数百年亜空間に退避させます”
 
“ですから市民、パスワードを入力して頂けますか?”