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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

『……ほう……私と会話できる人間とは珍しい……』
「突然すみません、貴方にお聞きしたいことがありまして」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)と、その隣のブランローゼ・チオナンサス(ぶらんろーぜ・ちおなんさす)が頭を下げる。その先にいるのは、一本の古い大木――ドロシーから聞いた、彼女が知っている限りの古い大木だ。
 終夏とブランローゼは今、この大木と【人の心、草の心】を用いて話しかけている。
『聞きたい事か……長く生きてはいるが、この場から動けぬ故大したことを知らぬ。力になれるとは思えぬが……それでも良ければ、話を聞こう』
 大木に再度、頭を下げる終夏とブランローゼ。
「……早速ですが、貴方は長い間この地にいるようですが……もっとも古い光景を教えてください」
『古い光景か……私自身が覚えているのは、今ここから見えている物と変わらない光景だ。それ以前にも私は存在したかもしれないが……何分昔の事でよく覚えていないのだよ』
「それ以前はわからない……ですか」
 ブランローゼが呟くと『すまない』と大木が詫びる。
「……では、ドロシーは知っていますか?」
『ドロシー?』
「ああ、あの、妖精の子とは違う……えーと……機械仕掛けの女の子っていうか……」
 終夏が言葉に迷っていると、大木はああ、と何かに思い付いたように言った。
『花や花の妖精の子の世話をしている娘だな。そうか、ドロシーと言うのかあの娘は』
「ええ、その子です……その子は……その当時から子供達の世話を?」
『私が知っている限りではな』
 そうですか、と終夏が頷く。
「……ドロシーは、その頃一人ではいませんでした?」
 ブランローゼが聞くと、少し間をおいて大木が語りだす。
『……少なくとも、私が覚えている限りでは子供達があの娘の傍にいた。子供達がいずれこの地を発っても、彼女の傍にはまた別の子供がおった……一人であったことは無かったと思う』
 そう聞いて、二人は「よかった……」と安堵の息を漏らした。
『他に何か聞きたいことは?』
「いえ、お話を聞かせていただきありがとうございました」
 終夏とブランローゼが頭を下げると、大木はまた、その場に立つ木へと戻った。
「……ドロシー、昔から一人ではなかったようですわね」
 ブランローゼが呟く。
「うん。少なくとも、この村があった頃からは子供達が居たようだね……後で、ドロシーに謝ろう。プライベートな話聞いちゃったし」
「わたくしも付き合いますわ」と、ブランローゼが言った。


「よし、こんなもんかな」
 【エアガン】で撃ったペイント弾で着色された地面を見て、天城 一輝(あまぎ・いっき)が呟く。
「どうだー? 大丈夫そうかー?」
 一輝が上空に向かって叫ぶ。そこにいるのは【小型飛空艇アルバトロス】に乗ったローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)
「貴様にしては上出来ですわ」
 ローザが一輝に言う。ペイント弾は地面にとある軌道を描いていた。
「二人とも、何をしているのだ?」
 一輝とローザに、薪を担いだコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が話しかけた。
「ああ、ちょっと子供達と避難訓練をしようと思ってな。その準備をしている」
「避難訓練?」
「そう……まあ起きない方がいいんだが、何があるかわからないからな」
 一輝が描いていたのは、避難経路に誘導する為の道筋を描く目印だ。これで、子供達を誘導する。
「そういう貴様は何をなさっているんですの?」
 アルバトロスから降りたローザがコアに話しかける。一瞬、彼女の言葉遣いに面食らうコアであったが、一輝が「気にしないでくれ」と手で詫びのポーズをとる。
「私はドロシーの手伝いだ。こう、動いていないと落ち着かないのだよ」
 そう苦笑しつつ手に持った薪を見せる。電気が無いこの村で、薪は必需品だ。
「……何か、聞こえません?」
 ローザが辺りを見回して言う。一輝とコアも耳を澄ますと、何か聞こえてきた。
「何だ……悲鳴のような……」

「やあああああああ! やああああああああ!」
「うわああああああああん! たすけてええええ!」

「……これは、悲鳴だ!?」
 声のする方向へ、一輝とコアが向く。そこには、

「アハハハハハハハハハ! ほらほら逃げないとすぐ捕まっちゃうよぉ!」
「ほぉらほぉら! もっと早く! もっと早くぅ!」

子供達を歪んだ笑みを浮かべながら追いかけ回すミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)がいた。何故か手には剣山がある。

――話は少し遡る。
「それじゃ、鬼ごっこをしようか」
 子供達を集め、ミリーが提案をする。
「鬼ごっこ、知ってるぅ?」
 フラットの言葉に、子供達は恐々と頷く。
「最後まで逃げ切れたらぁ、これをあげるぅ」
 そう言ってフラットが【ショコラティエのチョコ】を見せると、子供達の顔が少し輝く。
「やる?」
 少し躊躇っていたが、子供達がゆっくりと首を縦に振った。
「ああ、それとぉ……」
 フラットが、口の端を歪めて笑みを作る。
「捕まったらぁ……この剣山で生き花妖精の刑になるから気を付けてねぇ」
 ミリーとフラットが、手に持った剣山を見せつけた。

「やああああああ! たすけてえええええ!」
「叫んでる暇があったら足を動かさないと捕まっちゃうよぉ!?」
「大丈夫よぉ! 逃げれば捕まらないからぁ!」

「……なあ、今こそ非常事態じゃないか?」
「その様ですわね」
 一輝は【エアガン】を、ローザは【女王のソードブレイカー】を構える。
「私も手を貸そう」
 コアも薪を置いて、臨戦態勢に入る。
――避難訓練のはずが、とある二人の仕業により本物の避難活動へと変わってしまった。