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リアクション
第三章
「……しかし、随分と集まったもんだな」
ドロシーの小屋の前。できた人だかりを見て海が呟く。
現在、ドロシーの小屋の前には『原典』を閲覧しようと人が集まっていた。その数は60人を超えている。初回限定、恐るべし。
「これじゃ小屋の中は無理だな」
「ならテラスがあるので、そちらに行きましょうか」
ドロシーの提案を受け、皆がテラスへと移動する。
「……こちらが、『原典』となる書物です」
簡単な説明を終えると、テラスに置かれたテーブルの上にドロシーが『原典』を置く。
「……立派な錠前だね」
布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が『原典』に着いた錠前を見て呟く。
「簡単には開きませんわよね、これ……どうやって開けるのかしら?」
エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)の言う通り、その錠前は重々しく『原典』を閉じ、簡単には開く事はなさそうであった。
「きっとドロシーさんが鍵とか持っているんだよ。そうだよね?」
「はい、これです」
佳奈子の言葉にドロシーは頷くと、一つの鍵を取り出した。持ち手がクローバーの形になっている、古そうな鍵だ。
「ご利用ください……それでは私は失礼させていただきます」
そう言って、ドロシーが『原典』の隣に鍵を置いた。
「あれ? ドロシーさんは?」
「申し訳ありませんが私は遠慮させていただきます。子供達の世話もあるので」
ああ、とドロシーの言葉に佳奈子が頷く。開いて過去を見ている間、どれほどの時間が経つの解らない。
ドロシーは一度頭を下げると、テラスから去っていく。
「よし、開けるとするか」
海が鍵を手に取り、錠前に差し込む。
カチャリ、と音を立て、封印があっさりと解かれる。鍵を外すと、残るのは一冊の本。
「ベアトリーチェ、お願いね」
「はい。美羽も、海さん達もお気をつけて」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に言われ、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が頷く。戻ってきてから情報整理を任されたベアトリーチェは留守番だ。
「私達もそろそろ離れますわ」
同じ留守番組のレモリーグ・ヘルメース(れもりーぐ・へるめーす)も皆に向かって頭を下げると、ベアトリーチェと一緒にテラスから離れていった。
ドロシーの話だと、『原典』はある程度周囲の者達にも効果があるらしい、とのことだった。巻き込まれないためにも、残る者は一度離れる必要がある。
「……それじゃ、行きますよ」
二人が離れた事を確認した後、海は『原典』を手に取り皆に確認を取る。
皆、海を見て頷く。
「……よし」
海が、『原典』を開いた。
「……あらあら、これはまた異様な光景ですわねぇ」
海が『原典』を開いてから少し経った後、戻ってきたレモリーグが、目の前に広がる光景を見て言った。
――テラスでは、海を始めとして皆が倒れていた。
「……生きてはいるみたいですね」
倒れた者達が呼吸をしている事を確認し、ベアトリーチェが言う。
「さて、それじゃ私もお仕事させてもらいますわ」
レモリーグが言う。彼女のお仕事、というのは、海達が『原典』を見ている間と現実の時間経過の相違について調べることだ。
「でもどうやって調べましょうか……私、時計とか持っていませんでしたわ」
「あ、それなら私のノートパソコンを使いますか?」
「あら、助かりますわ……ところで、あのお兄さんどうしたのでしょうかねぇ?」
レモリーグが指さした方をベアトリーチェが見る。そこには、
「うぬぬぬ……何故だ……何故また私が! 私だけが留守番だというのだ! 私が何かしたというのか!? ま、まさか……『食事』の時痛くしていたのだろうか……? ああ……何か悪いことが起きていないか心配でならない……」
己のパートナーを見て、ギリギリと歯を軋ませながら嘆くブラコン吸血鬼、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が居た。
「おのれ奴め……自分だけいい目を見おって羨ま許せん! 不埒な事をしていたらどうなるかわかっているだろうな!」
そして、別のパートナーを怒りやら殺意やらを込めた眼差しで見つつ呪詛を吐く。
「あらまぁ、キモいですわねぇ」
その光景を見たレモリーグがさらっと毒を吐いた。ひでぇ。
「はは……美羽達、大丈夫でしょうか」
ベアトリーチェが、自分のパートナーを見て呟く。
――その頃。『原典』を開いた者達は、
『――え?』
目の前に広がる、ただただ真っ白な光景に驚いていた。
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