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リアクション
第四章
「……ふっふっふ、遂に、遂にできたわよ!」
芦原 郁乃(あはら・いくの)が叫ぶ。その身は今、歓喜と達成感に満ち、震えとなり溢れていた。
「長かった……子供達に変な目で見られようが挫けずに挑むこと……えーと……幾星霜もの時を経て!」
「そこまで長くないと思いますがおめでとうございます」
秋月 桃花(あきづき・とうか)がさりげなくやんわりと突っ込む。
「今のは素直に祝福と受け取っておくわ……けど漸くできたわ、調査記録が!」
郁乃が手に持ったレポート用紙を掲げる。単独で調査を重ねていた結晶である。
「それにしても最初は絵を描くついでにやっていたのにいつの間にか中心になっていましたね……うわ凄い、植物生息域から食べられる木の実まで……」
「中には漬けたら美味しい果実酒になりそうな実もあったからね。そういうのもきっちり記録しておいたのさ」
「色々とありましたねぇ……あら? なんでしょう、あの地面の溝は…‥」
ふと、桃花が地面にできた溝を目にする。まるで抉られたかのように、真っ直ぐな軌道を描いていた。
「何だろう……あんなの見たことないけど……行ってみよう」
郁乃が言うと、桃花が頷く。
溝は一直線に伸びており、何かが削り取ったように徐々に深くなっていく。
「……何、これ?」
終着点、そこで二人が目にしたのは、
「……何があったのでしょうか?」
顔面を地面にめり込ませ、気絶するミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)とフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)の姿であった。ちなみに剣山は尻に刺さっていた。
――妖精村、花畑の傍ら。
「あー疲れた疲れたー」
「子供ってのはやっぱ元気やのー。まだ走りまわっとるで」
「あらあら、元気があるのはいいではないですか」
子供達と遊んでいた八日市 あうら(ようかいち・あうら)、シギ・エデル(しぎ・えでる)、リティシアーナ・ルチェ(りてぃしあーな・るちぇ)が、一息つく為ドロシー達のいる所へと戻ってくる。
「申し訳ありません、あの子達と遊んでいただいて……」
頭を下げるドロシーに「あーかまへんかまへん」と、シギが手をひらひらと振る。
「……でも、最初は何かと驚いたわ」
コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず) がドロシー達ににお茶を差し出す。彼女は先程まで、子供達にお茶を振る舞っていたが、ひと段落ついたのでドロシー達にも用意をしていた。
「一輝達ったら泣きじゃくった子供達を連れてくるんだもん。てっきりローザが泣かせたのかと思ったわ」
当人がいたら『何だと貴様』と言われそうな事を言いつつ、コレットがやれやれ、と溜息を吐く。
――先程、恐怖の鬼ごっこの被害にあった子供達は無事保護され、『原典』の説明を終えたドロシーが戻って来て漸くは子供達を宥めるのに一苦労を要した。
その際偶々居合わせたあうら達はドロシーの手伝い、ということで子供達と遊んでいたのであった。
「でも、お手伝いしなくてもよろしいのでしょうか?」
「あーあーそういう肉体労働はあのでっかい塊に任せておけばいいの♪」
ドロシーが申し訳なさそうに言うのを、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が制す。
ちなみにラブが言うでっかい塊とは、パートナーのコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の事である。
先程、子供を追い掛け回していたミリーとフラットを、最終的にコアが「成敗!」と吹き飛ばした。その際、
舌≡3←ミリー 舌≡3←フラット
といった具合で吹っ飛んで行ったため、地面が抉れてしまったのでその整地を行っている。
「けどドロシーってやっぱり歌上手いんだね! あたし驚いちゃったよ!」
ドロシーの周囲を飛び回りながらラブが言う。
「それ程でも……リトル様の方が遥かにお上手かと」
「いやいや、そんな謙遜しなくてもいいって。久々に聞き惚れちゃったよ!」
そう言ってラブはどこか嬉しそうに言う。先程、泣きじゃくる子供達を宥めるためにドロシーが歌った際に聴いた歌を、ラブは気に入ったようだった。
「私達も休憩ー!」
その時、同じように子供達と遊んでいた小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)と風間 宗助(かざま・そうすけ)が戻ってくる。
「あ、ドロシーさん。さっきはいいものを聴かせていただきまして」
ドロシーの姿を目にした宗助がにっこりと笑いかけた。
「そうそう、いい歌だったよねー! あれ、なんて歌なの?」
アキラに聞かれたドロシーは、少し懐かしむように目を細めた。
「昔に聞いた歌です。もう曲名も忘れてしまいましたが……たまに子供達に聞かせてあげているんですよ」
そう言って、ドロシーはふと思い立ったようにはっとした顔になった。
「そうだ……そろそろ海様達の様子を見に行かなくては……」
「あ、ここは任せてドロシー行ってきなよ」
あうらがドロシーに言う。
「ええ、僕らも手伝いますから」
「何から何までお世話になって申し訳ありません……それでは失礼します……」
宗助も後押しすると、ドロシーは申し訳なさそうな顔をしつつ頭を下げると、小屋へと向かって行った。
「……あのドロシーってねーちゃん、本当に子供達に好かれとるんやなー」
ぽつりと、そんなドロシーの背を見てシギが呟く。
「どうしてそう思うんです?」
【おいしいパン】を齧りつつ、宗助が問う。
「あの子供達よー、さっきまで何があったか知らんけど泣いてばっかやったやん」
「ああ、そうでしたね……」
宗助が苦笑する。先程まで、そのおかげで一苦労したのだ。
「そう言えば、ラブさんが歌ってやっと少し落ち着いたくらいでしたね」
「そうそう……」
リティシアーナの言葉にあうらが頷く。
「そりゃ、あたしの【幸せの歌】だもん。悲しい事なんて感じさせる暇も与えないわ!」
ふん、と胸を張るラブ。
「けど、あのねーちゃん来たら一発で泣き止んだで。見た限り普通の歌やったけど」
「そういえば……そうでしたね」
宗助は思い返す。つい、ドロシーの歌に効き惚れていたが、子供達が泣き止んで落ち着いた決め手は結局の所ドロシーだった気がする。
「はい、みんなもお茶にしようねー」
その時、流石に疲れたのか子供達が戻ってきていた。そんな子供達にお茶を振る舞うコレット。
「ね、いいかな?」
その中の一人に、アキラが話しかける。首を傾げつつ、子供が振り向いた。
「んーっと、ドロシーのことどう思う?」
そう聞くと、子供は少しはにかみつつ、「大好き」と笑顔で言った。
「……本当に好かれているんですねぇ」
その光景を見て、宗助が呟いた。
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