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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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第五章

「さて皆様、お下がりくださいませ」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が花妖精の子供達の前に立ち、壁のようになる。その後ろから子供達は興味津々といった様子で源 鉄心(みなもと・てっしん)を見ていた。
 鉄心が持っていた物は使用していない大きな口径の砲身だった。その砲身に、何やら色々な機材を付け加え稼働させている。
「何をなさっているんですの?」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が鉄心の横に立ち、尋ねる。
「まあ見てろって」
 鉄心が砲身に米を放り込み、更にイコナは首を傾げる。
「そろそろか……よーしそれじゃ、耳塞いでろー」
 鉄心が言うと、ティーが子供達に耳をふさぐよう促す。子供達は首を傾げながらも従っていた。
「え? え?」
 何をしているのかわからず戸惑うイコナを尻目に、鉄心は【魔導銃】を持つと、
「よっ、と!」
砲身につけたバルブに銃の持ち手を叩いた。
 砲身内部が一気に減圧。たまっていた水蒸気が一気に膨張し、ボン、と爆発したような大きな音を立てる。
「ひゃあっ!?」
 耳をふさいでいなかったイコナが驚き、勢い余って尻餅をつく。
「よし、ポン菓子完成っと」

「皆様、お味は如何ですか?」
 ティーが子供達に出来上がったポン菓子をふるまっていた。
「あ、ああいうことをするなら一言先に言うべきですわ!」
 鉄心の横でイコナがぎゃーぎゃーとわめきたてる。
「元はというとお前がポップコーンとか言うからなんだがな」
 鉄心が涼しい表情でポツリと呟いた。
 そもそも、ポン菓子を作ろうというきっかけは『原典』を見る前に『こういうのを見るとなるとポップコーンは必需品』という事をイコナが言ったからだ。完全に映画か何かと勘違いしての発言だ。戻った後、その言葉を鉄心は思い出し気まぐれにやってみよう、という気持ちになったのだ。
(……しかし、『原典』か)
 ふと、鉄心は先程見たことを思い出していた。
(簡単な事で封印は綻びを生じる、とか『賢者』は言っていたが……各世界で異変が生じているのはやはり俺達がここに来たことが切欠になるのか?)
「って、聞いてますの!?」
 耳元でイコナに大声を張り上げられ、鉄心の思考が停止する。
「……すまん、聞いてなかった」
 涼しい表情で鉄心が言うと、イコナの顔が怒りで真っ赤になった。
「鉄心、子供達からアンコールが来ています」
 イコナの怒りが爆発する寸前、ティーが間に割って入った。
「そうか、米ならまだあるし、もう一度やるとするか。今度は耳塞いでろよ?」
 鉄心がそう言うと、イコナは「わ、わかってますわよ!」と言い返した。



――中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は花妖精の村を当てもなくぶらぶらと歩いていた。、
「……綾瀬、いいの?」
 綾瀬の後ろについていた漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が問う。
「何がです?」
「その……話し合いに参加しなくて」
 話し合い、というのは現在『原典』を見た者が集まり、気づいた事などを話し合っている事だ。綾瀬も、先程まで『原典』を見ていたのだが、彼女は参加せずただぶらぶらと村を歩いているだけだ。
「ああ、構いませんわ。特に他の方々が気づかなかった事に気付いた、なんてことありませんでしたし。そう言うドレスは何かに気づきました?」
 綾瀬に言われ、ドレスはただ首を横に振った。彼女もまた、綾瀬の魔鎧として装備され、『原典』を傍観していた。
 鎧として着られながらも、何か見落としそうな事に注意していたが、特に何かに気付いた、という事は無かった。
「しかし、『大いなるもの』……まさかあのような物が出てくるとは思いませんでしたわ」
 綾瀬が先程の『記録』を思い出し、ぽつりと呟いた。
「てっきり私、ドロシー様が『大いなるもの』なんじゃないかと思っていましたわ……まあ、半分冗談ですが」
 そう言って綾瀬がくすりと笑った。
「予想も外れましたが、まあ面白い物は見れましたし良しとしましょう……考えるのは他の方に任せて、私はまだ傍観者とさせてもらいますわ」
 笑みを浮かべながら綾瀬が言うと、再度歩み出した。