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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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――夜も更けてきた頃、ドロシーの小屋の一室。
 そこではまだ海達が見てきた『記録』についてまとめ作業を行っていた。
 
「……よし、できたぞ」
「俺もだ。海、見てくれ」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、ダリルの【デジタルビデオカメラ】を海に見せる。
 そこに映っているのは【ソートグラフィー】によって念写された『大いなるもの』の姿。
「うーん……大まかには似ていますが……」
「どこか違うような気もするんだよねー……」
 羽純、ダリルの念写を交互に見て海とルカルカ・ルー(るかるか・るー)が唸る。そのどちらも、自分が『原典』で見たそれと似通っているが、違うような気もする。記憶には主観が入る為、例えようのない『大いなるもの』の造形は、完全には念写できないようであった。
「しっかし……何なんだろうなこの『大いなるもの』ってのは……神話世界や伝承物でも見た事無いぞこんなの」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)もカメラを覗き込むと、呟く。
「よし、完成……っと」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がキャンバスに走らせていた筆を置いた。エオリアは過去に見た光景で覚えている物を、絵画として残す作業をしていた。
「できましたよ……ポイントを押さえただけで少々雑なものになっていますが」
 そう言ってキャンバスを見せるエオリア。
――描かれていたのは、『大いなるもの』の攻撃により荒れ果てたハイ・ブラゼル地方。
「……あまり、思い出したくない光景だね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)が悲しげに目を伏せる。
「しかし、この光景から敵の攻撃の規模を知ることができる」
 ダリルが冷静に言う。
「……確か、『大いなるもの』自体は攻撃してこないんだったな」
「そう言っていたな。その代りもっと厄介な物があるけどな」
「……瘴気か。確かに厄介だな」
 ダリルの言葉に羽純は頷く。
「『異国の戦士達』も全く敵わなかったっていうし……対抗策なんてあるのかね?」
 エースがぼんやりと呟く。
「そう言えば、歌菜はドロシーから何か記録を借りてくる、と聞いていたが?」
「ああ、そういやどうだった?」
 ダリルと羽純に問われ、歌菜が申し訳なさそうに顔を俯ける。
「……ドロシーさんに聞いたんだけど、そういう記録は無いんだって」
 ドロシー曰く、記録と呼べる物を強いてあげるとすれば、子供達に読み聞かせるお伽噺になるという。
「それじゃちょっと情報として難しいな……」
 羽純が顎に手を当て唸る。花妖精の村ができてからではなく、それ以前の記録が重要となる。
「うーん……今の所、わかっているのは『大いなるもの』の正体は一切わからない、ってことか」
 エースが嘆くように言う。
「でも、わかっていることもあるよ。相手の体内の瘴気とか、モンスターを生み出すとか」
 ルカルカが言うと、羽純が頷く。
「そうだな、何もわかっていないわけじゃない」
「何物にも策はある。諦めるにはまだ早いよ」
 ルカルカが言うと皆が顔を合わせて頷いた。
――ふと、海は下に目を落とした。そこにあったのはビデオカメラ。
(――しかし、勝てるのか? 過去の契約者達が太刀打ちできなかった物に、俺達は……)
 海は『大いなるもの』の映像を見て、一人思う。
(……いや、弱気になるな。勝たなきゃダメなんだ)
そして、エオリアが描いた絵画を見る。荒れ果て、死体が転がる凄惨なハイ・ブラゼル地方がそこにある。
(勝たなければ……ハイ・ブラゼル地方だけでなく、俺達の世界も終わる……!)