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続々・悪意の仮面

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続々・悪意の仮面
続々・悪意の仮面 続々・悪意の仮面

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第八幕 フードファイター!〜食の戦い〜


さてその頃、連れ戻されているジガンが言ったとおり
仮面のドサクサに紛れて学園に不遜な理由で忍び込む輩がいた。

条一が小型飛行艇で戦う傍ら
その横を実は光学迷彩で姿を隠しつつひょうひょうと機巧龍翼で飛行し上空から百合園敷地内に侵入
そんな男がいたのである。

男の名は…月谷 要(つきたに・かなめ)

光学迷彩に仮面という出で立ちだが、この仮面、実は偽物でれっきとした素。
そして素のままに男子禁制の禁を犯してまで、彼が求める欲望は実にシンプルなのだった。

 「はーらーへーっーたー」

誰が聞いても一目瞭然な理由を呟き、彼は食堂に飛び込む!
そして迷彩を解きながら拳銃を掲げて声も高らかに叫びあげる!

 「コッペパ…ゲフン。百合園のメニューにある全ての学食を3つずつ要求す…あれ?」

……まぁつまりそうまでして美食で知られた百合園の学食を食べてみたかったのである。
仮面姿を装えば、暴走した者として解釈され致し方ないと免罪される
…そんな企みと共に強盗のように食堂に押しかけた彼の叫びは、予想外の光景に途切れる事になった。

 「あれ…?だ〜れもいない?」

食堂はきれいなまでに無人で静寂に包まれていた。
まぁ静香校長の騒ぎや、先ほどのニケ達の戦闘があれば、容易に一般の人間は非難を選ぶのは明白なのだが。
シンプルまでに欲望に突き進んでいた彼にそこまでの思考はなく。逆にニンマリと笑みを広げる有様である。

 「ラッキー!ひょっとして貸切?食べ放題じゃん?
  こういう時でもないと食べれそうに無いからねー」

そして足も軽やかに厨房へ進む要……しかし能天気な彼の思考は
自分の斜め上を行く事態を把握することも不可能だったのである。

 「……そこのあなた。何に手を出そうとしている?」
 「ふえ?」

巨大な冷蔵庫にある肉に手を伸ばした要に不意に別の声が投げかけられ、手を止める。
見れば厨房の影に一人の黒衣の闇医者風の仮面の男の姿があった。

 「何って……ご飯だけど?」
 「いきなり肉から手を出す輩があるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

能天気な要の声に怒り爆発といった風情で男…涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が激昂した。
しかし要も意に介さないまま会話が続く。

 「いいじゃん、誰もいないんだし。何を食べようが自由でしょ〜」
 「駄目だ!ぜんぜん駄目だ!そこの若造!!
  食べる事は止めはしない!だが何から手をつけるかが大事なんだ!
  不規則な食は不健康を招く!不健康は許さん。現代の食医として皆、健康にしてくれるわぁ!」

彼の絶叫と共に隣にパートナーエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が姿を現す。
もちろん、彼女も黒衣の看護士姿である。その手には測定器具が握られていた。

 「まずは貴様にふさわしい食を考えないといけない!
  その為には健康測定だ!健康測定をさせてもらう!」
 「え〜やだ〜!俺はご飯が食べたいの!そんなの無視無…ぎゃあああああ!?」

ごねる要にエイボンの書の容赦ない【サンダーブラスト】が炸裂した。
動けない彼に天使の微笑が呼びかける

 「あらあら、せっかく優しいお医者様と可愛い看護婦さんが診察をするのに
  嫌がるなんて、悪い患者さんですね。さ、まずは体型を調べないと」

手際のよい彼女の測定とデーターを見て、涼介が続ける

 「ほう、魔銃士にふさわしい締まった体…だが少し痩せてるか…よし、食事療法だな」
 「……だから最初からそれでいいじゃん……」

痺れが取れず、涙目になりながら要が抗議するが仮面の前には通じない

 「甘いな、食事療法はその人にふさわしい食事を考え、選ぶのが大事!
  もちろん腹いっぱいなどは言語道断!」
 「えええええええええええええ!!」
 「フフ、怖がらなくてもいいのですよ
  何せあなた様が夢の中にいる間に次の段階に進んでいるのですから。さ、次の検査は…」
 「もうやだ!好きなようにご飯食べたい!おなかすいた〜!」

彼にとって最も絶望的な言葉を聞かされ、今までの誰よりも絶望に満ち溢れた顔を浮かべる要に
エイボンの書が【子守歌】をかけて眠らせようとする。

現段階で一番平和的で、かつ一番絶望が厨房に満ち溢れている中

彼らの営みを遮るかのように、ドアが勢い良く開き、女性の声が響き渡った!

 「そこまでよ!この外道!!」

彼女…多比良 幽那(たひら・ゆうな)の叫びに、涼介が驚きの声を上げる。

 「多比良 幽那?なぜ君がここに?」
 「ボクが呼んだんだ!兄ぃとエイボン姉ぇを止めるために!」

幽那の後ろからヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が顔を出して叫んだ。
しかし、仮面の闇医者はそれに動じるでもなく

 「仕方のない妹だ…この崇高な意志もわからずに
  そもそも幽那?なぜ食事を大事にするあなたが、この崇高な行いの邪魔をするんだい?
  共に手を取り合うべきじゃないか?」
 「今のあなたは確かに【医食同源】の体現者かもしれない、人の事は考えているわ!
  でも……今のあなたは食材のことをまったく考えていない!」

涼介の言葉に指を刺しながら高らかに幽那が言い返し続ける!

 「料理に必要なのは食材の気持ち!そして『味』よ!
  栄養とか、健康とか…そういった物を追い求めて作ったものは真の料理じゃない!
  そんなものは食材の無駄遣いよ!その上食事を強要するなんて言語道断!
  私は…そんな無駄遣いに私の娘達を…植物達を利用させるわけにはいかない!」
 「いや…その前に、俺、何も食べてないんですけど……」

眠りかけた要が呟く声を、幽那の傍らにいた花妖精のアッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)が聞き、幽那に声をかける。

 「母上、あのお方が衰弱しておられます!」
 「何と!?食べさせるべき相手に料理すら与えぬとは!それこそ食材の無駄!恥を知れ外道!
  娘達!急いで準備を!」

もはや背中からゴゴゴ…という闘気をあふれさせん勢いに
使いのアッシュ、そしてジャンヌ・ローリエ(じゃんぬ・ろーりえ)アストルフォ・シャムロック(あすとるふぉ・しゃむろっく)
あわてて動き出す。

 「は、母が激昂しておられる…!
  我等が巻き込まれる前に彼を生贄に差し出すぞ!!ジャンヌ!」
 「く、我が騎士道に反するが…!こういうときは犠牲が必要なのだ!」
 「う、ううむ…!」

それぞれが抱えていた果物と野菜が運ばれる。
それを掴むと、突っ込んで、要の口に野菜や果物をガンガン放り込む

 「ちょ…オレそんなふうに食べられないから…むご!」
 「大丈夫!全て私が愛情を込めて育てた娘達だから!」
 「もがが!ちょ待…これこそ、食材を無駄にして……!」
 「植物の大切さを学んでもらうために、私は娘相手でも心を鬼にするっ!
  でも!私の心はずっと痛み続けるのよ!!」
 「おおおおお!母が血の涙をながしておられる!!貴殿の…貴殿の死は無駄にしないつもりだ!」

……もはやわけがわからない

要の叫びと幽那の絶叫、そしてアストルフォの慟哭と賑やかなことこの上ない中
胃に野菜を詰め込まれ、要が動けなくなっていた。

もともと尋常でない要の胃袋が埋まるのだからその量は推して測るべし…である。

それを見て勝ち誇る涼介

 「ふ……美食のエゴ、ここに極まれりだな。何事も腹八分目。
  そんな事では真の健康など得られるわけがない!」
 「く…やるわね涼介・フォレスト!
  だけど私には『温野菜』という手段もあるわ!これならもっと私の娘達を味わえる!見てなさい!娘達!準備を!!」
 「は!只今!!」

壮絶な戦いの中、それを黙って見つめていたアリアクルスイドが涙声で呟く。

 「駄目だ!ボク一人の力じゃ止められない!
  どうしたら!どうしたらこの無常な!壮絶な戦いを止められるのっ!」
 「………とりあえず、そのライフルでさっさと狙っちゃえばいいんじゃない、かな……?」

そんな彼女に、力なく倒れながら要が
彼女の【機晶スナイパーライフル】を指差し一番の解決法をアドバイスするのだった。

その胸にひとつの決意を持ったのは言うまでもない
『食事は適度に礼儀正しく、今度は悪いことを考えて食べるのはやめよう』…と。