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続々・悪意の仮面

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続々・悪意の仮面
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第十幕 リアルバウトファイター〜熱き戦い編〜


 「……で、なんとか通り魔の騒動は終わったのか?ご苦労さん。後の大事は校長センセ位か……」

非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)からの報告を受け、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)がニヤニヤ笑って答えている。

 『まぁね。だけど聞けばアイドルも被害者にいたり、校舎の一部が破損したり大変です。
  結構、美緒さんの騒ぎも相当賑やかだったそうですし…なんかコメディ色強くないですかね?今回……』
 「そうでもないぜ、純粋に血が騒ぐだけの連中もいるもんだ。
  まぁシンプルな分たいした騒ぎにはならないが、見てて楽しいぜ?リアルファイトってのも」
 『仲裁はあなたの柄じゃないのは知ってますけど…楽しむのも程ほどにしてくださいよ?』
 「ああ。それじゃ事が片付いたらまた連絡する」

通信を切り、アキュートは面白そうに眼前を見下ろす。
場所は建物の屋根の上、眼前には戦闘が繰り広げられている最中だ。

 「もっとも…本人達から手を出すなっていわれてるんだよな。
  ま、傍観も結構。やっぱり見てて血が騒ぐもんは血が騒ぐんだよ。酒がありゃ良い肴なんだがね」

そう言って嬉しそうに戦いの顛末を見据えるのだった。



そしてその観察者の見守る中、闘っているのは3人の人物

仮面をつけたラヴェイジャー、ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)
そして迎え撃つはサムライ龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)

戦いは先ほど始まったばかりで拮抗している。
廉の傍らにいたナンのパートナーシオン・グラード(しおん・ぐらーど)が声が彼女に声をかけた。

 「すまない。これは本来俺がやるべき事なのに……!」
 「かまわんよ、まぁ街を歩いていてお前達が現れたのには驚いたがな。
  一度、手合わせ願いたいと思っていたからな。丁度良い」

その言葉にナンも答える。

 「いい気分だ、衝動に身を任せるこの感じ。迷いなくお前と闘える!」

再び戦闘開始の気の高まりを周囲に感じ、シオンが身構える中、剣の具合を確かめながら廉が呼びかけた

 「上の元神父にも手出し無用と言ったんだ。お前も変わらず周囲の被害のフォローを頼むよ。
  改めて……尋常に参るとしようか!
 「上等だ…さぁ、その強さを俺に見せろ!」


そこからはわかる人にしかわからない領域
手練のみが楽しめる舞踏、血が沸き肉踊る武闘!
そこに邪も欲望もなく、仮面により純粋に高められた強さへの渇望が形になってあわられる!

迷いなく突っ込んできたナンの【乱撃ソニックブレード】を【受太刀】でかわし

廉が放った【轟雷閃】を【ブレイドガード】でナンが無理矢理弾き返す。
無論物理攻撃対象のスキルゆえ、ダメージを受けるがそれを承知で剣先ごと弾いて軌道を変えたのだ。

続けざまにナンが放った【等活地獄】の一撃に蹴り技で応戦。
正面からでは力で負けるので、流れを利用して蹴り業で軌道を変えている。

再び放たれるナンの【乱撃ソニックブレード】を【面打ち】で相殺!

それぞれの手札を出し切り、双方再び距離を置いた。


そしてその中心だけを見据えたものは、その後の周囲を見て驚く事になる。
受け流された攻撃の衝撃が周りの壁を揺らし、破壊寸前にまで導いていく。
シオンはそれをフォローするので精一杯な状態なのである。
できれば上にいるキュートにも手伝ってほしいところだが、それは領分じゃないと断られてしまった。

それでいて、シオンは今の戦いに自らの焦燥を感じる。
自分はどちらの領域にもまだ達していない!…と

 「……さて、手の探りあいも終わりにしようか?龍滅鬼よ」
 「気が合うな、ナン・アルグラード。俺もダラダラ長いのは嫌いだ」

刹那静寂の後、剣士二人が同じ選択を口にした。
その言葉に弟子と観察者も決着をつける意味だとすぐに悟る。

正直、力が拮抗してるのだ。
小出しに掛け金を出しながらずっと応戦しているギャンブルのようなものである。
己の命優先ならそれもまたよし。

だが一人は仮面の戦闘凶、一人はサムライ
お互い掛け金を全てかけた一発勝負を望み、そのための情報も打ち合いで十分手に入れた。
あとはどの命をかけた切り札を選択するかのみの勝負。

普段は冷静で無駄に殺生は望まないが、その奥底では躊躇いなど無い、これが龍滅鬼 廉の本質なのである

 「いざ……参ろうか!」

いくばくかの静寂の後

【ヒロイックアサルト】で純化された廉の【疾風突き】と
【歴戦の必殺術】で極限まで高められたナンの【一刀両断】が交錯した!




 「いやはや、試合に勝って勝負に負けた……といったところかな」
 「運も勝負のうちだ。実際の戦場ではそれが命運を分けるんだしな、サムライ」

シオンの治療をお互い受けながらナンの言葉に廉が答える。
先ほどの物騒な戦いを繰り広げながら、今笑っていられる二人にシオンはほとほと呆れ、溜息をついた。

勝負は意外なところで決着を見せる。
周囲にダメージを負わせるほどの衝撃に仮面が持たなかったのだ。
音速に近いかという【一刀両断】の衝撃で仮面が砕け、我に返ったナンの踏み込みが遅れ。
その彼の躊躇に、我に返った廉が寸前で急所を外すことでお互い致命傷を逃れたのである。

一方は仮面の有無に左右される己の戦気に恥じ
一方はいつの間に過去に立ち返り、急所を狙っていた己に気が付き、手綱を引けない己の心の未熟を恥じた。


ゆえに引き分け…ゆえに笑うしかない結末

まったく剣を持つものってヤツは…と呆れつつ
シオンはそこに辿り着けないから師をに辿り着けない事も感じるのだった。

そんな3人と、結局砕けて回収の価値のなくなった仮面の欠片を手で弄びながらアキュートは呟く。

 「ま、こいつばかりは娯楽の価値はあったか。
  さて、こっちは完了…あとはお嬢ちゃんの方か…」

そう言ってもう一人の観察者、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)と連絡を取るのだった。